北から来た踊りファルーカと、独奏を勝ち取ったセラニート【2026/09/30】

2026-09-30 / スペイン便り


概要

モロッコ初の女性首相とセウタ、住宅政令の承認を短く押さえ、ゴンサロ・スアレスの訃報、ピラール・アルバラシンの国民造形芸術賞、今夜のビエナル公演へ。列伝はセラニート、マリオ・マジャ、カプージョ・デ・ヘレス。マドリードの工房ペドロ・デ・ミゲルと、パロ「ファルーカ」の起源・構成・8拍のコンパス・Aマイナーの和声も解説します。今日のスペイン語は「ケ・アルテ(¡Qué arte!)」と「ケ・テ・バヤ・ビエン(¡Que te vaya bien!)」。

▼ 今日のトピック ・モロッコ初の女性首相エル・マンスーリ氏とセウタの未成年者問題 ・住宅緊急政令2本の承認と10月2日の下院採決 ・ゴンサロ・スアレス死去、マドリード・ブックフェア新ディレクター ・ホセ・デ・ロス・カマロネスとカプージョ・デ・ヘレスのビエナル公演 ・ピラール・アルバラシンが国民造形芸術賞、アルゼンチン・サンタロサのタブラオ ・ギタリスト列伝:ビクトル・モンヘ「セラニート」 ・バイレ列伝:マリオ・マジャ ・カンテ列伝:カプージョ・デ・ヘレス ・工房だより:ギターラス・ペドロ・デ・ミゲル(マドリード、アモール・デ・ディオス通り) ・パロ解説:ファルーカ

▼ 関連リンク(アーティスト・パロ・工房) ・セラニート『Llora la farruca』(Flamenco Live) https://flamencolive.com/en/farruca-llora-la-farruca-victor-monge-serranito/ ・セラニート(第6回コスタリカ国際ギターフェスティバル) https://www.youtube.com/watch?v=9m0YnO1ZUVg ・マリオ・マジャ『Camelamos Naquerar』(RomArchive) https://www.romarchive.eu/en/collection/camelamos-naquerar/ ・カプージョ・デ・ヘレス、ブレリア(ロ・フェロ・フラメンコ・フェスティバル2023公式) https://www.youtube.com/watch?v=__ZA4TrliXc ・パコ・デ・ルシア『Farruca de Lucía』 https://music.apple.com/us/song/farruca-de-luc%C3%ADa/1840176299 ・ラ・ニーニャ・デ・ロス・ペイネス&ラモン・モントーヤ『Un Farruca en Galicia』 https://music.apple.com/us/song/un-farruca-en-galicia-feat-ramon-montoya/637982508 ・ギターラス・ペドロ・デ・ミゲル(公式Facebook) https://www.facebook.com/GuitarreriaPedroDeMiguel/

▼ 参考記事・ソース ・El Mundo「モロッコ国王が初の女性首相を任命」 https://www.elmundo.es/internacional/2026/09/29/6abbe0fbe9cf4a34418b459f.html ・El País「政府が立ち退き保護と賃貸延長を承認」 https://elpais.com/espana/2026-09-29/el-gobierno-aprueba-la-proteccion-frente-a-los-desahucios-hasta-2030-y-la-prorroga-de-los-contratos-de-alquiler-hasta-2028.html ・El País Cultura「ゴンサロ・スアレス死去」 https://elpais.com/cultura/2026-09-29/muere-gonzalo-suarez-referente-del-cine-y-la-literatura-espanola-a-los-92-anos.html ・El Mundo Cultura「ホセ・デ・ロス・カマロネスとカプージョ・デ・ヘレス」 https://www.elmundo.es/cultura/2026/09/28/6ab93d0a21efa0f30c8b45b4.html ・El País Cultura「ピラール・アルバラシンが国民造形芸術賞」 https://elpais.com/cultura/2026-09-29/pilar-albarracin-premio-nacional-de-artes-plasticas-2026.html ・Suma Flamenca「Víctor Monge “Serranito”」 https://www.madrid.org/sumaflamenca/2021/serranito.html ・La Madraza(グラナダ大学)「Mario Maya y Camelamos Naquerar」 https://lamadraza.ugr.es/revista/mario-maya-y-camelamos-naquerar-estetica-artes-visuales-y-memoria-activa/ ・Wikipedia「Farruca」 https://en.wikipedia.org/wiki/Farruca

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スペイン文化・フラメンコ便り(2026年9月30日)

オープニング:2026年9月30日 — スペイン文化・フラメンコ便り

  • 今日のスペイン語ひとことは「ケ・アルテ(¡Qué arte!)」。直訳は「なんという芸だ」。フラメンコの客席で飛ぶ掛け声(ハレオ)であり、日常でも料理の手際や人の身のこなしが見事なときに使う褒め言葉である。
  • 今日の軸は「北から来た踊り、マドリードで磨かれた独奏」。ガリシアに結びつけて語られるパロのファルーカを中心に、マドリード生まれのギタリスト、セラニート、サクロモンテ育ちの舞踊家マリオ・マジャ、ヘレスの歌い手カプージョ・デ・ヘレス、マドリードのアモール・デ・ディオス通りにある工房ペドロ・デ・ミゲルをつなぐ。
  • 問いは一つ。アンダルシアの外から来た形式や、アンダルシアの外で生まれた奏者は、どうやってフラメンコの中心へ入り込んだのか。

国際情勢(スペイン視点)

  • モロッコ国王ムハンマド6世は9月29日、9月23日の総選挙で第1党となった真正近代党(PAM)のファティマ・ザフラ・エル・マンスーリ氏(50歳)を首相に任命した。女性の首相はモロッコ史上初めて。2009年には33歳でマラケシュ初の女性市長にもなっている。
  • スペインにとっての焦点はセウタである。エル・マンスーリ氏は先週、セウタに残るモロッコ人未成年者について「彼らは私たちの子どもだ。18歳未満の子は国へ、親のもとへ戻らなければならない」と述べ、スペインとの「不一致点」だと明言した。北アフリカを「自分たちの問題」として見るスペインでは、新首相の就任は外交儀礼ではなく、国境の町の子どもたちの行方に直結する人事として受け止められる。

スペイン国内ニュース

  • 政府は9月29日の閣議で住宅に関する2本の緊急政令を承認した。脆弱世帯の立ち退き保護を2030年まで延長し、2028年12月31日までに満了する賃貸契約を2年延長、投資ファンドによる住宅購入の禁止(2028年まで)などを盛り込む。賃貸の自動更新は支持が足りないため別の政令に分けた。下院は10月2日(金)の臨時本会議で採決する。
  • 引き金は87歳の女性マリカルメンさんの立ち退きだった。人民党(PP)は「市場をさらに壊す」と拒否し、ソル広場の野営者は「見せかけの政令」だとして撤収しない。一人の高齢女性の名前が、数か月動かなかった連立交渉を72時間の採決日程へ押し出したところに、個人の物語で政治が動くスペインの気質が表れている。

文化・芸能ニュース

  • 映画監督・作家ゴンサロ・スアレスが9月29日、マドリードで92歳で亡くなった。1934年オビエド生まれ。『ディティランボ』『風の中の小舟(Remando al viento)』『探偵と死』などを撮り、1988年に『Remando al viento』で監督賞のゴヤ賞とサン・セバスティアン映画祭の銀貝賞を得た。今年2月にはゴヤ栄誉賞を受けている。
  • スアレスは1958年にバルセロナへ戻った後、妻の姓を借りた「マルティン・ジラール」の筆名でサッカー記事を書き、名将エレニオ・エレーラのためにインテルの偵察報告まで作った。本人は自らの歩みを「成功ではなく幸運の経歴」と呼び、「映画は目覚めたまま夢を見られる最後の砦だ」と語った。小説、映画、スポーツ記事の境界を気にしなかった人生は、専門の枠を越えて行き来するスペインの知識人像そのものである。日本でいえば、作家がスポーツ紙の名物記者を兼ねていたような広がりだ。
  • マドリード・ブックフェアの新ディレクターに、サラゴサのブックフェアを率いた作家・編集者サムエル・アロンソ・オメニャカが就いた。「もう量では成長できない。質でなら成長できる」と語り、書店の役割と読者との関係を強める方針を示した。来場者数より書店の体力を重視する発想は、書店減少に悩む日本にも通じる。

フラメンコニュース

  • セビリアのビエナル・デ・フラメンコ(9月9日〜10月3日)は終盤に入り、9月30日(水)夜にはテアトロ・アラメダで、ヘレスの歌い手ホセ・デ・ロス・カマロネス(71歳)とカプージョ・デ・ヘレス(72歳)が『フラメンコは床屋へ行かない(Los flamencos no van a la barbería)』を歌う。ホセは12歳から父と川で働き、エビを売り歩きながら年長者の歌を覚えた。今も4世代続くエビ籠を手に売り歩くことがある。「舞台へは死にに行き、そして生き返る」という彼の言葉に、カプージョは「疲れこそが歌をうまくする」と応じた。
  • 二人は自分たちを「純粋さの番人」とは見ていない。ホセは「私たちは体系の教義を壊す」と言い、今の歌い手には「個性の複製」が多いと批判した。伝統派に見える長老が、実は型の固定を嫌っているという逆説が面白い。
  • セビリア出身の美術家ピラール・アルバラシン(1968年生)が2026年の国民造形芸術賞(賞金3万ユーロ)に選ばれた。数百着のフラメンコ衣装を奉納品のように吊るした『捧げものの天井』、自らの血で水玉を描いた『ルナーレス』など、フラメンコ衣装や「スペイン人形」の決まり文句を、ジェンダーの視点から問い直してきた。代表作のパフォーマンス『ビバ・エスパーニャ』(2004年)の所蔵先がすべて国外だった事実は、スペインが自国の「フラメンコ像」を批判的に見ることに時間がかかったことを示す。
  • アルゼンチン・ラパンパ州サンタロサでは、地元のバイラオーラ3人(アレハンドラ・ラボルデ、ラウラ・ロペス、パオラ・シルベストレ)が3年目のタブラオ公演を10月17日に開く。ブエノスアイレスの踊り手ビコ・サパタ、アルゼンチン・コルドバ州のカンテとギターを招く。スペインのコルドバではなく南米のコルドバから歌とギターが来る点に、言語と家族でつながるラテンアメリカとの距離の近さが見える。
  • ヘレスのエビ売りの歌、セビリアの美術家の衣装批評、南米の小さなタブラオ。フラメンコはアンダルシアの土地と家族に根を持ちながら、その根を問い直す作品や、遠い土地の自主公演によっても形を保っている。

フラメンコギタリスト列伝

  • 今日の一人はビクトル・モンヘ「セラニート」(本名ビクトル・モンヘ・セラーノ、1942年マドリード生)。アンダルシア出身ではない奏者として、フラメンコギターを「伴奏者」から「独奏の主役」へ押し上げた世代の先頭に立った。
  • 子どもの頃にギターを始め、兄と組んだ3人組「ロス・セラーノス」で最年少だったことから「セラニート(小さなセラーノ)」と呼ばれた。12歳でプロとして働き、14歳でマドリードのタベルナ・ヒターナ(後のトーレス・ベルメハス)に雇われた。タブラオではカルメン・アマヤ、ルセロ・テナら踊り手の伴奏を重ね、のちにカルメン・リナーレスの歌も支えた。クラシックのナルシソ・イエペスからも教えを受けている。
  • 転機は独奏への執着である。本人はエクスポフラメンコのインタビューで、カフェ・デ・チニータスで「独奏させてくれないなら誰の伴奏もしない」と言い切ったと振り返る。当時の店は「独奏のギタリストをどう使えばいいのか」と戸惑ったが、彼はカルメン・アマヤに捧げた曲『ヒターナ』を弾いて喝采を得た。フェスティバルでも独奏の枠を求め、出演料を削ってでもギターの日を作らせたという。1969年に独立したコンサート・ギタリストとなり、インドへフラメンコの独奏を初めて持ち込んだ奏者ともされる。
  • 1971年、コルドバのフラメンコ芸術全国コンクールでラモン・モントーヤ賞(ギター部門)を受けた。このコンクールは2026年に創設70年を迎え、今年7月の第45回コルドバ・ギターフェスティバルが記念事業を組んだ。1978年にはヘレスのフラメンコ学講座の賞、2004年にセビリアのビエナル25周年記念賞、2019年に芸術功労金章、2024年にラ・ウニオンの「カンテ・デ・ラス・ミナス」金盾を受けている。
  • 作曲家としては管弦楽と組んだ『アンダルス・シンフォニコ(Andaluz sinfónico)』(1982年)、『グアダルキビールのこだま』(1997年)などを残し、60年以上で約20作を録音した。マドリード州のスマ・フラメンカは、その音楽を「内容(霊感)と形式(技術)の均衡」「拍の中で置かれる沈黙」「バロック的な深さ」と評する。速い走句だけで押すのではなく、コンパスの中に意図した休止を置き、和声の緊張を長く保つ書法である。パコ・デ・ルシア、マノロ・サンルーカルと並び、スペインのギター独奏を世界へ出した3人の一人と数えられる。
  • 鑑賞には、本人の演奏映像と譜面を出版するフラメンコ・ライブ社の『Llora la farruca(ファルーカは泣く)』を挙げたい。約40年前に作られたファルーカで、本人はガリシアの様式に想を得て、移民して音楽の伝統を捨てた恋人を嘆く女性を描いたと説明する。サビーカスの解釈から学んだと明かし、第2ギター、ベース、打楽器(息子ビクトル・モンヘ・バリオス)と演奏する。独奏ギターが旋律を歌い、第2ギターとベースが低音と和音を分担する層の分け方を聴きたい。伴奏の現場で育った奏者が、独奏者として自分の周りに伴奏を配置し直している点が面白い。
  • もう一本、コスタリカ国際ギターフェスティバルが公開する『第6回コスタリカ国際ギターフェスティバルでのセラニート』では、一人で舞台に座り、伴奏者なしで曲を組み立てる姿そのものが見どころになる。カフェ・デ・チニータスで勝ち取った「独奏」という形式が、半世紀後に国際音楽祭の標準になっていることが確認できる。
  • 2021年の引退ツアー『夢のように(Como un sueño)』は10月19日にマドリードで締めくくられ、2022年のヘレス・フェスティバルではパコ・ビダル、ハビエル・コンデとのギター3重奏で出演した。後進にとっての遺産は曲目以上に、アンダルシアの外に生まれた奏者でも、独奏という形式を自ら交渉して勝ち取れるという前例である。

フラメンコバイレ列伝

  • 今日の一人はマリオ・マジャ(1937年コルドバ生、2008年9月27日セビリア没)。今週の9月27日で没後18年になった。ヒターノの家庭に生まれ、幼い頃からグラナダのサクロモンテの洞窟で観光客のために踊った。イギリスの画家ジョゼット・ジョーンズが彼の肖像で賞を得て、その賞金を寄付したことで、1950年代初めにマドリードで学ぶ道が開けた。
  • マドリードではエル・エスタンピオの教室に通い、1956〜58年にピラール・ロペス舞踊団で国際巡演を経験した。1959年にはタブラオのコラル・デ・ラ・モレリアに入り、南北アメリカを巡演、1965年にはニューヨークへ渡った。タブラオの踊り手から劇場の振付家へ移った経路は、同時代の男性舞踊家の中でも際立って広い。
  • 1974年の『セレモニアル』を足場に、1976年、詩人ホセ・エレディア・マジャの詩と組んだ『カメラモス・ナケラール(私たちは語りたい)』をグラナダ大学で初演した。ロマ語の一種であるカロ語の題が示す通り、ヒターノが自分たちの受けた迫害を自ら語る作品である。踊り、言葉、音楽、沈黙を組み合わせ、飾りを削った舞台で政治的な内容を強めたと、グラナダ大学のラ・マドラサは評価する。続く『アイ・ホンド』(1977年)は欧州と英国を巡演し、ロルカの詩による『アマルゴ』も作った。
  • 踊りの特徴は、意図的に官能を抑えた冷たさにある。腰を静かに保ち、手首の回転と足技で緊張を作る。大きく揺らして熱を見せるのではなく、止めた体の中で音を鳴らす型である。ファルーカを踊った男性舞踊家の系譜(アントニオ・ガデス、エル・グイトら)にも名が挙がる。
  • ロム・アーカイブ(RomArchive)の公開作品『Camelamos Naquerar(カメラモス・ナケラール)』は、1976年にミゲル・アルコベンダス、マリオ・マジャ、ホセ・エレディア・マジャが映像化した版で、エゲダ(EGEDA)の許諾で視聴できる。ヒターノを取り締まった歴代の法令の文言と、踊りやカンテが並べて示される構成に注目したい。足技は物語の伴奏ではなく、法の言葉に対する身体の返答として置かれている。
  • 1983年にセビリアで自身の教室を開き、1994〜97年にはアンダルシア舞踊団を率いた。カルロス・サウラの映画『フラメンコ』(1995年)にも出演している。9月26日の回で扱った踊り手ベレン・マジャは娘にあたり、劇場で考えるフラメンコの系譜は次の世代へ続いている。

フラメンコカンテ列伝

  • 今日の一人はカプージョ・デ・ヘレス、本名ミゲル・フローレス・キロス(1954年ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ生)。今夜のビエナル公演に立つ72歳の現役で、60年歌い続け、今も年に約60公演をこなす。
  • 愛称は母親が付けた。小さな赤ん坊が絹の繭(カプージョ)のようだったからだという。育ったのはサンティアゴ地区のカンテレリア通りで、その後アスンシオン地区へ移った。近所にはテレモト、ティオ・ボリコ、ラ・パケーラらがいた。サッカー選手を夢見た少年は、ギタリストのマヌエル・モラオが主催した「フラメンコの木曜日」で頭角を現した。最も影響を受けたのはフェルナンド・テレモトで、幼い頃にその家へ通い、アントニオ・マイレナが訪ねてくる場面も見たという。
  • 彼はヒターノではない。それでもヒターノの聴衆を沸かせる数少ない歌い手とされる。本人は2022年のインタビューで「自分がヒターノなのか、イギリス人なのかドイツ人なのか分からない。人と違うことの方が、うまいか下手かより大事だ」と語った。子どもの頃は仲間と、洗礼式や誕生日、近所のヒターノの結婚式を回って歌ったという。
  • 得意はヘレスらしいブレリア、タンゴ、フラメンコ・ルンバで、ファンダンゴやマルティネーテも歌う。声を長く伸ばして誇るより、短い句を拍の頭へ正確に投げ込み、合間に体全体を揺らして手拍子の輪を引っ張る。歌と身振りが一体になった舞台姿は、一度見たら忘れられないと評される。録音には『ポデリオ(Poderío)』(1989年)、『エステ・ソイ・ジョ』(2001年)、『フロール・イ・カネラ』(2007年)、『ミ・ムシカ』(2019年)があり、パコ・デ・ルシアとアンダルシア州歌のフラメンコ版でも共演した。2001年のエスパラゴ・ロック、2018年のプリマベーラ・サウンドなどロックの祭典にも立っている。
  • ロ・フェロ・フラメンコ・フェスティバルの公式映像『CAPULLO DE JEREZ por Bulerías en el Festival de Lo Ferro 2023』では、ブレリアの12拍の周期の中で、歌の句をどの拍へ着地させ、次の句までの間を手拍子と体の動きでどう埋めるかを聴きたい。旋律の美しさよりも、コンパスへの食いつきで客席を巻き込む歌い方がよく分かる。
  • 「日本へは行ったことがないし行くつもりもない。遠いし、子どもが多くて孫も11人いる」と冗談めかして語る。地元の祝いの場で鍛えた歌を、そのまま大舞台へ持ち込む人である。ギタリストが独奏を勝ち取り、舞踊家が劇場へ出た一方、カプージョは家族と近所の宴を離れずにフラメンコの中心に立ち続けている。

フラメンコギター工房だより

  • 今日の工房は、マドリードのアモール・デ・ディオス通り13番地にあるギターラス・ペドロ・デ・ミゲル。全履歴を照合し、この工房が未紹介であることを確認した。なお創業者2人は、過去に取り上げたホセ・ラミレス工房の出身だが、ペドロ・デ・ミゲルは1991年に独立した別の工房である。
  • 屋号は2人の製作家、ペドロ・ペレス(1958年生)とミゲル・アンヘル・ロドリゲス(1960年生)の名を合わせたもの。ともに14歳でラミレス工房に入り、徒弟から職人へ進み、ラミレス3世の製作チームで1990年まで働いた。1991年に自分たちの工房を開き、ペドロの没後はミゲル・アンヘルが同じ銘で製作を続けている。
  • 2人は互いの息子に技術を教え合う約束をしていたという。いまはミゲル・アンヘルが、ペドロの息子ルベンを弟子として育てている。本人は製作を「直感が多く、科学はごく少ない」と語り、最も大事なのは楽器が最終的にどう仕上がるかだと言う。親方の家族でなく、同じ工房で育った仲間同士が継承を引き受ける形である。
  • 店は小さく薄暗く、奥の作業場にはいつも明かりがともる。マドリードの老舗商店を記録する団体は「マドリードのギター店で最も伝統的」と評し、ショーウインドー越しに腕利きの奏者が試奏する姿が見られると紹介する。販売店の記録では、ラファエル・リケーニ、ヘラルド・ヌニェス、ペペ・アビチュエラ、ヘロニモ・マジャらがこの工房の楽器を手に入れた。在庫記録にはドイツ松の表面板とインド・ローズウッドの裏板・側板を使った黒系のフラメンコギターも見られる。
  • 通りの名にも意味がある。1953年から続くフラメンコとスペイン舞踊の名門教室「アモール・デ・ディオス」は、この通りにあった時代の名をそのまま名乗り、いまは同じアントン・マルティン界隈の市場の建物(サンタ・イサベル通り5番地)に入っている。踊り手の稽古場と工房が徒歩圏に並ぶ地理は、ギターが独奏楽器である前にバイレを支える伴奏楽器であることを思い出させる。日本の御茶ノ水の楽器店街に似た密度だが、ここでは製作と稽古が同じ界隈で続いてきた。

フラメンコのパロ解説

  • 今日のパロはファルーカ(Farruca)。アンダルシアではガリシアやアストゥリアスの人を「ファルーコ」と呼んだことが名の由来とされる。ただしガリシア起源は学術的に証明されておらず、アンダルシア州のフラメンコ研究所(Instituto Andaluz del Flamenco)は「アンダルシア以外の民謡に起源を持ち、フラメンコ化した歌」と分類する。19世紀末から20世紀初めに形を整え、フラメンコ化の決定版はエル・ロリに、広めた立役者はマヌエル・トーレに帰される。
  • 今日の形を決めたのは踊りである。セビリアの踊り手ファイコ(フランシスコ・メンドーサ・リオス)が、ギタリストのラモン・モントーヤと組んで20世紀初頭に踊りの型を作った。背筋を伸ばした姿勢、抑えた腕、強い足技、鋭い回転、劇的な静止を特徴とし、長く男性舞踊の代表曲とされた。一方でカルメン・アマヤやサラ・バラスは、女性として別の表現を切り開いた。
  • 構成は、登場(サリーダ)、ギターのファルセータ、拍を示すマルカーヘ、合図のジャマーダ、歌が入ればレトラ、足技を連ねるエスコビージャ、速度を上げるスビーダ、終止(シエレ)と進むのが典型である。レトラは8音節4行の詩節で、2行目と4行目が韻を踏む。ただし現代では歌われることが少なく、踊りとギター独奏の曲として生きている。
  • コンパスは2拍子系(4拍子)で、タンゴやティエントに近い。4拍子を2小節つないだ8拍で数え、1・3・5・7拍に重心を置く。12拍のソレアやブレリアと違い、拍の数え方は単純だが、その分だけ静止と加速の対比がはっきり出る。
  • 調は短調で、Aマイナーで弾くのが一般的である。ギターはE7(イー・セブン)とAマイナーの往復を土台に、Dマイナー→Aマイナー→E7→Aマイナーの終止型でまとまりを作る。フリジア旋法のアンダルシア終止ではなく、短調の属七和音から主和音へ戻る進行が、北から来た曲らしい硬い響きを生む。モントーヤははじめEマイナーで弾き、のちにAマイナーに定着したとする解説もある。
  • パコ・デ・ルシアの『Farruca de Lucía(ファルーカ・デ・ルシア)』(1972年のアルバム『エル・ドゥエンデ・フラメンコ・デ・パコ・デ・ルシア』収録、4分38秒)では、ギター1本で8拍の周期を保ちながら、E7からAマイナーへ戻る終止のたびに生まれる区切りと、踊りのスビーダ(加速)とシエレ(終止)の考え方がギター1本でどう表されるかを聴きたい。
  • 歌われるファルーカの例として、ラ・ニーニャ・デ・ロス・ペイネスがラモン・モントーヤの伴奏で録音した『Un Farruca en Galicia(ガリシアのファルーカ)』(2分44秒の歴史的録音)もある。題名そのものが「北の人」をめぐる歌であることを示しており、4行詩のレトラが短い間奏をはさんで区切られる形を確かめられる。

まとめ

  • 今日つながったのは「中心の外から入ってきた人と形式」だった。北の民謡と結びつけられたファルーカ、マドリード生まれの独奏者セラニート、洞窟から劇場へ出たマリオ・マジャ、非ヒターノとしてヘレスの宴を背負うカプージョ、ラミレス工房から独立した2人の職人。フラメンコはアンダルシアに根を持ちながら、外から来たものを受け入れて形を変え、それでもコンパスで自分を保ってきた。

参考ソース

  • El Mundo「El rey de Marruecos nombra primera ministra a Fatima-Zahra El Mansouri」 https://www.elmundo.es/internacional/2026/09/29/6abbe0fbe9cf4a34418b459f.html
  • El País「El Gobierno aprueba la protección frente a los desahucios hasta 2030」 https://elpais.com/espana/2026-09-29/el-gobierno-aprueba-la-proteccion-frente-a-los-desahucios-hasta-2030-y-la-prorroga-de-los-contratos-de-alquiler-hasta-2028.html
  • El País「El PP rechaza los decretos de vivienda」 https://elpais.com/espana/2026-09-29/el-pp-rechaza-los-decretos-de-vivienda-van-a-destruir-todavia-mas-el-mercado-de-la-vivienda.html
  • El Mundo「Los acampados seguirán en Sol」 https://www.elmundo.es/espana/2026/09/29/6abb7234fdddff4e248b456e.html
  • El País Cultura「Muere Gonzalo Suárez」 https://elpais.com/cultura/2026-09-29/muere-gonzalo-suarez-referente-del-cine-y-la-literatura-espanola-a-los-92-anos.html
  • El Mundo Cultura「Samuel Alonso Omeñaca, nuevo director de la Feria del Libro de Madrid」 https://www.elmundo.es/cultura/literatura/2026/09/29/6abb80dbe9cf4a17038b4586.html
  • El Mundo Cultura「José de los Camarones y Capullo de Jerez」 https://www.elmundo.es/cultura/2026/09/28/6ab93d0a21efa0f30c8b45b4.html
  • El País Cultura「Pilar Albarracín, premio Nacional de Artes Plásticas 2026」 https://elpais.com/cultura/2026-09-29/pilar-albarracin-premio-nacional-de-artes-plasticas-2026.html
  • Telón Pampeano「El cante, la guitarra y el baile se unen en un nuevo Tablao Flamenco en Santa Rosa」 https://www.telonpampeano.com.ar/teatro-y-danza/3763-el-cante-la-guitarra-y-el-baile-se-unen-en-una-nuevo-tablao-flamenco-en-santa-rosa
  • Suma Flamenca(Comunidad de Madrid)「Víctor Monge "Serranito"」 https://www.madrid.org/sumaflamenca/2021/serranito.html
  • ExpoFlamenco「Víctor Monge 'Serranito': En el Café de Chinitas dije que o me dejaban tocar solo o no tocaba para nadie」 https://expoflamenco.com/archivo/entrevistas/victor-monge-serranito-en-el-cafe-de-chinitas-dije-que-o-me-dejaban-tocar-solo-o-no-tocaba-para-nadie/
  • Festival de Jerez「Víctor Monge "Serranito"」 https://www.festivaldejerez.es/espectaculos/victor-monge-serranito/
  • El Arte de Vivir el Flamenco「Víctor Monge "Serranito"」 https://elartedevivirelflamenco.com/guitarristas22.html
  • Córdoba Hoy「El 45 Festival de la Guitarra de Córdoba celebra el 70 aniversario del Concurso Nacional」 https://www.cordobahoy.es/articulo/cultura/45-festival-guitarra-cordoba-reune-grandes-figuras-flamenco-edicion-que-celebra-70-aniversario-concurso-nacional/20260504184655196319.html
  • La Madraza(Universidad de Granada)「Mario Maya y Camelamos Naquerar」 https://lamadraza.ugr.es/revista/mario-maya-y-camelamos-naquerar-estetica-artes-visuales-y-memoria-activa/
  • El Arte de Vivir el Flamenco「Mario Maya」 https://elartedevivirelflamenco.com/bailaores13.html
  • Wikipedia「Mario Maya」 https://en.wikipedia.org/wiki/Mario_Maya
  • RomArchive「Camelamos Naquerar」 https://www.romarchive.eu/en/collection/camelamos-naquerar/
  • Wikipedia「Capullo de Jerez」 https://es.wikipedia.org/wiki/Capullo_de_Jerez
  • MAKMA「Capullo de Jerez: Yo no sé si soy gitano, inglés o alemán」 https://www.makma.net/capullo-de-jerez-gitano-cantante-panorama-flamenco/
  • Arte por Derecho「Capullo de Jerez」 https://arteporderecho.com/capullo-de-jerez/
  • Flamenco Guitars for Sale「Pedro de Miguel」 https://www.flamencoguitarsforsale.net/en/pedro-de-miguel-guitars/
  • mYmO「Guitarrería Pedro de Miguel: el sonido de la artesanía」 https://mymo.es/guitarreria-pedro-miguel-sonido-la-artesania/
  • Comercios Históricos de Madrid「Guitarrería Pedro de Miguel」 https://comercioshistoricosdemadrid.com/guitarreria-pedro-de-miguel/
  • Amor de Dios公式「Emblema del Flamenco y la Danza Española, desde 1953」 https://amordedios.com/
  • Flamenco Madrid「Amor de Dios」 https://flamencomadrid.com/en/schools/amor-de-dios/
  • Instituto Andaluz del Flamenco「Farruca」 https://www.juntadeandalucia.es/cultura/flamenco/content/farruca
  • Wikipedia「Farruca」 https://en.wikipedia.org/wiki/Farruca

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音声合成: VOICEVOX / キャラクター: ずんだもん ・ 四国めたん