洞窟から全員一致のヒラルディージョへミゲル・アンヘル・コルテス、1998年の3本をたどるペドロ・デ・ミゲル工房、歌のないサパテアード【2026/10/30】
2026-10-30 / スペイン便り
概要
「道具と手」の回です。ギタリスト列伝は、8歳でグラナダのサクロモンテの洞窟の舞台に入り、2014年のセビリア・ビエナルで史上初めて全員一致のヒラルディージョを受けたミゲル・アンヘル・コルテス。長年弾いたペドロ・ペレス製の1998年のギター(ドイツ松とインド・ローズウッド、弦長664ミリ)と、2019年のヘロニモ・ペレス製も紹介します。工房だよりは、ユーザーの指名で9月30日に続きマドリードのギターラス・ペドロ・デ・ミゲルを再訪。ブランカとネグラの仕様、同じ年に同じ仕様で作られたコルテス、ペペ・アビチュエラ、ボリータの3本、フアン・ラモン・カロの試奏まで、「誰がどの年の1本を弾いたか」をたどります。バイレ列伝は、国立バレエ団の第一舞踊手からボリショイ劇場のブノワ賞、新作『Tentativo』へ進んだバルセロナのヘスス・カルモナ。カンテ列伝は、アンダルシアに家系を持たずに1993年のラ・ウニオンで4つの賞を取り、コプラ、カタルーニャの詩、ロルカへ道を広げたミゲル・ポベダ。パロ解説は、歌がなく足とギターだけで会話する8分の6拍子のサパテアードです。今日のスペイン語は「サパテロ、ア・トゥス・サパトス(靴屋は自分の靴に戻れ)」。
▼ 今日のトピック ・トレド県ウルダの高速列車衝突、最初の技術報告(AVEの速度は時速160〜200キロと推定) ・国民音楽賞の作曲家マリサ・マンチャード、事故で行方不明に ・セ・タンガナ、原点のラップ集団アゴラセインと4公演で復帰 ・エル・ボラが語る「カンデーラ」とカマロン/ヘレスのペーニャ・ラ・ブレリア50周年/カディス・カンタ/バダホスの「ハレオ・ウィーク」/ホセ・メネセ没後10年 ・ギター列伝: ミゲル・アンヘル・コルテス ・バイレ列伝: ヘスス・カルモナ ・カンテ列伝: ミゲル・ポベダ ・工房だより: ギターラス・ペドロ・デ・ミゲル(マドリード、再訪・ユーザー指名) ・パロ解説: サパテアード
▼ 関連リンク(アーティスト・パロ・工房) ・ミゲル・アンヘル・コルテス『Tangos. Sueños de un torero』2014年(アンダルシア・フラメンコ放送公式) https://www.youtube.com/watch?v=3fEpBkDweiY ・ミゲル・アンヘル・コルテス『Aljibe de madera(ブレリア)』独奏(エル・ドラード公式) https://www.youtube.com/watch?v=vQWNhbHJ0-w ・アルカンヘル、ミゲル・アンヘル・コルテス『Fandangos de Huelva』2022年(エル・ドラード公式) https://www.youtube.com/watch?v=HLYpOaxewOE ・ホセ・マリア・ガジャルド、ミゲル・アンヘル・コルテス『Albéniz Flamenco』(エクスポフラメンコ公式) https://www.youtube.com/watch?v=eXjW1wFnmNY ・ヘスス・カルモナ『Baile de Bestias』初演(ナバラ大学美術館公式) https://www.youtube.com/watch?v=g9j0RUsT-PA ・ヘスス・カルモナ カサ・パタス #168(カサ・パタス公式) https://www.youtube.com/watch?v=hErjWb7Ht9c ・ヘスス・カルモナ『Súper viviente』(ナバラ大学美術館公式) https://www.youtube.com/watch?v=c7yaNTMged0 ・ミゲル・ポベダ ランパラ・ミネラ1993(ラ・ウニオン公式) https://www.youtube.com/watch?v=Ur-TTSs-kD0 ・ミゲル・ポベダ『A Ciegas』映画版(配信元公式) https://www.youtube.com/watch?v=XskdLqK2OU8 ・ミゲル・ポベダとスペイン国立管弦楽団『A Ciegas』2010年(本人公式) https://www.youtube.com/watch?v=f7h9w8HN1iY ・ミゲル・ポベダ、ヘスス・ゲレーロ『¡AY! (Caña)』(公式) https://www.youtube.com/watch?v=cmfeFXsAKg4 ・フアン・ラモン・カロ、ペドロ・デ・ミゲル2007年製を弾く(ソレラ・フラメンカ公式) https://www.youtube.com/watch?v=LA0mKES-0TM ・ペドロ・デ・ミゲル 2007年製「モデロ・エストゥディオ」(ソレラ・フラメンカ公式) https://www.youtube.com/watch?v=bgPmD2fChyg ・ペドロ・デ・ミゲル 1998年製(ミゲル・アンヘル・コルテス旧蔵、ソレラ・フラメンカ) https://www.flamencoguitarsforsale.net/en/pedro-de-miguel-guitars/flamenco-guitar-pedro-de-miguel-ex-miguel-angel-cortes/ ・スペイン国立バレエ団『Zapateado de Sarasate』フランシスコ・ベラスコ 2020年(公式) https://www.youtube.com/watch?v=IZO5FCbshxk ・スペイン国立バレエ団『Zapateado de Sarasate』アントニオ・ルイス・ソレール追悼(公式) https://www.youtube.com/watch?v=ChUJ2nPVPfY ・サビーカス『Zapateado en Re』(配信元公式) https://www.youtube.com/watch?v=aK0OjtJSkTw ・ビセンテ・アミーゴ『Vivencias Imaginadas』(配信元公式) https://www.youtube.com/watch?v=Cz2IkghfpBg
▼ 参考記事・ソース ・El País「El primer informe técnico del accidente estima que el AVE circulaba de 160 a 200 kilómetros por hora cuando chocó en Urda」 https://elpais.com/espana/2026-10-29/el-primer-informe-tecnico-del-accidente-fija-en-160-a-200-kilometros-por-hora-la-velocidad-del-ave-que-choco-en-urda.html ・El Mundo「El CEO de Iryo alertó 23 días antes del accidente…」 https://www.elmundo.es/economia/2026/10/29/6ae32535e4d4d8256c8b45bf.html ・El País「Consternación en el mundo de la música por la desaparición de la compositora Marisa Manchado…」 https://elpais.com/cultura/2026-10-29/consternacion-en-el-mundo-de-la-musica-por-la-desaparicion-de-la-compositora-marisa-manchado-en-el-accidente-ferroviario-de-urda.html ・El País「El regreso de C. Tangana a la música con el grupo de rap…」 https://elpais.com/cultura/2026-10-29/el-regreso-de-c-tangana-a-la-musica-con-el-grupo-de-rap-que-lo-cambio-todo-y-al-que-tildaron-de-pijo.html ・ExpoFlamenco「El Bola: «Escuché a Camarón mil veces en el Candela…»」 https://expoflamenco.com/revista/el-bola-escuche-a-camaron-mil-veces-en-el-candela-era-como-si-tuviera-una-orquesta-en-la-garganta/ ・ExpoFlamenco「La Peña La Bulería de Jerez celebra su 50 aniversario…」 https://expoflamenco.com/revista/la-pena-la-buleria-de-jerez-celebra-su-50-aniversario-con-cuatro-viernes-de-arte-flamenco/ ・ExpoFlamenco「…II Cádiz Canta」 https://expoflamenco.com/revista/vicente-soto-sordera-lucia-beltran-y-manuel-de-la-tomasa-protagonizan-el-ii-cadiz-canta/ ・ExpoFlamenco「…Badajoz Jaleo Week」 https://expoflamenco.com/revista/el-flamenco-inundara-calles-plazas-y-espacios-culturales-pacenses-durante-la-badajoz-jaleo-week/ ・ExpoFlamenco「Una década sin José Menese」 https://expoflamenco.com/revista/una-decada-sin-jose-menese/
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スペイン文化・フラメンコ便り(2026年10月30日)
オープニング:2026年10月30日 — スペイン文化・フラメンコ便り
- 今日のスペイン語は「サパテロ、ア・トゥス・サパトス(Zapatero, a tus zapatos)」。直訳は「靴屋は自分の靴に戻れ」。自分の専門外に口を出すな、自分の仕事に専念せよ、という意味のことわざである。「靴(サパト)」は、今日のパロ解説で扱う足の踊り「サパテアード」と同じ語の仲間でもある。
- 今日の軸は「道具と手」。ギタリスト列伝は、8歳でグラナダのサクロモンテの洞窟から舞台に入り、2014年のセビリア・ビエナルで史上初めて全員一致のヒラルディージョを受けたミゲル・アンヘル・コルテス。工房だよりは、ユーザーの指名で、9月30日に紹介したマドリードのギターラス・ペドロ・デ・ミゲルをもう一度訪ね、コルテスが長年弾いた1998年の1本を含め、「誰がどの年の楽器を弾いたか」をたどる。バイレ列伝は、ロシアのボリショイ劇場でブノワ賞を受けたバルセロナの踊り手ヘスス・カルモナ。カンテ列伝は、アンダルシアに家系を持たずに1993年のラ・ウニオンで4つの賞をさらったバダロナの歌い手ミゲル・ポベダ。パロ解説は、歌のない「足と弦だけのパロ」、サパテアード。
スペイン国内ニュース
- ウルダの列車衝突、最初の技術報告: 今週、トレド県ウルダの高速線で、国鉄の高速列車AVEが民間会社イリョの列車に衝突した。エル・パイス紙によると、鉄道事故の独立調査機関は最初の技術報告で、衝突時のAVEの速度を時速160〜200キロと見積もり、正確な値は「ブラックボックス」の解析を待つとした。イリョの運転士は、止まった列車の制御を2度解こうとして果たせず、マドリードのアトーチャの管制と自社に助けを求めていた。エル・ムンド紙は、イリョの最高経営責任者が事故の23日前に、列車の自動制御装置LZBの不具合で車両が立ち往生すると警告していたこと、運輸省が21日前に鉄道網を「許容できる危険の水準」と認定していたことを伝える。プエンテ運輸相は即時辞任を否定し、来週火曜に議会の常設委員会で説明する。国王は「尊厳と厳密さ」をもって向き合うよう求めた。
文化・芸能ニュース
- 作曲家マリサ・マンチャード、ウルダの事故で行方不明に: 2024年の国民音楽賞を受けた作曲家マリサ・マンチャード(1956年マドリード生まれ)が、衝突したAVEに乗っていて行方不明になっている。エル・パイス紙によると、彼女はセビリアへ向かう途中で、その朝、セビリア大学の教育学部では彼女の作品をめぐる集いが開かれていた。文化省は2024年10月1日、受賞理由として、作家クラリンの19世紀の小説『ラ・レヘンタ』を原作とする彼女のオペラ『La Regenta』を挙げ、様式の混交と新しい形式の探求を評価した。王立マドリード音楽院で作曲と管弦楽法を学び、心理学の学位も持つ。1998年の著書『Música y mujeres, género y poder(音楽と女性、ジェンダーと権力)』は、スペイン語で初めて女性の視点から音楽学を論じた本とされる。音楽界には動揺が広がっている。
- C・タンガナ、原点のラップ集団アゴラセインと戻る: 歌手C・タンガナが、自分が出てきたヒップホップ集団「アゴラセイン」の再結成で音楽に戻る。エル・パイス紙によると、公演はマドリードのモビスター・アリーナでの4回だけ。かつて聴き手から「軟弱」「お坊ちゃん」と呼ばれた彼らのラップが、いまのスペインの大衆音楽になっていった道筋を、記事はこの集団の歴史からたどっている。
フラメンコニュース
- エル・ボラ、「カンデーラ」でのカマロンを語る: エクスポフラメンコは10月29日、マドリード生まれ(1967年)のギタリスト、アグスティン・カルボネル「エル・ボラ」の長いインタビューを載せた。サビーカスは彼の大叔父で、13歳から首都のタブラオで弾き、ラモン・モントーヤの伝記も書いた。彼は、若いギタリストが集まったラバピエス地区の酒場「カンデーラ」を「現代のフラメンコ・ギターの大学だった。全部そこから出てきた」と呼ぶ。そこでは誰も話さず、演奏会のように聴き、聴かない人やパルマ(手拍子)が下手な人は追い出されたという。カマロンについては「千回は聴いた。喉にオーケストラを持っているようだった」と語る。一方で、いまの若い世代は伴奏の修業を飛ばして独奏から始め、競争が強くなったとも嘆いた。10月25日には、スマ・フラメンカの一環で、ラスカフリアのエル・パウラール修道院で弾いている。
- ヘレスのペーニャ「ラ・ブレリア」、50周年: ヘレスのペーニャ・フラメンカ「ラ・ブレリア」が創立50年を迎え、4週続けて金曜の夜に記念の催しを開く。初回は今夜10月30日22時、エンペドラーダ通り20番地の本部で、踊り手サロメ・ラミレスに、歌のマヌ・ソトとミゲル・アンヘル・エレディア、ギターのアルバロ・モラが付く。11月6日はアントニオ・マレナが息子のギターで歌い、13日は若い歌い手アロンソ「エル・プリリ」。20日にはディエゴ・カラスコに第2回「ラ・ブレリア賞」を贈る。入場は無料である。
- カディスで「カディス・カンタ」、3世代の歌: カハソル財団の連続公演「カディス・カンタ」の第2回が、昨夜10月29日に始まった。初日は、ヘレスのサンティアゴ地区の名家に生まれ、2023年にヘレスのフラメンコ学講座の国民カンテ賞を受けたビセンテ・ソト「ソルデーラ」。父は、10月25日のパロ解説で取り上げたマヌエル・ソト「ソルデーラ」である。11月5日はウエルバ県トリゲロス出身の若い歌い手ルシア・ベルトラン、12日は1999年生まれで、ホセ・デ・ラ・トマサの孫マヌエル・デ・ラ・トマサが歌う。入場は10ユーロ。
- バダホスで「ハレオ・ウィーク」、エストレマドゥーラの踊りを街へ: エストレマドゥーラ州バダホスで11月13〜15日、第3回「ハレオス・エストレメーニョス(エストレマドゥーラのハレオ)による国際フラメンコ舞踊コンクール」が開かれる。決勝は13日、ロペス・デ・アヤラ劇場で、応募は日本、チリ、アルゼンチン、米国、フランスなどから52件。審査員は、クリスティナ・オヨス、スペイン国立バレエ団のルベン・オルモ、アンダルシア・フラメンコ・バレエ団のパトリシア・ゲレーロ、ペドロ・コルドバ。賞金は上位3人で計1万5,000ユーロ。主催者は、ハレオスを「バダホスのプラサ・アルタ(高台の広場)のヒターノの婚礼で生まれ、体から体へ受け継がれた拍子」と説明する。今年は広場での公開講座や街歩きを加えた「ハレオ・ウィーク」として、街ぐるみで開く。
- ホセ・メネセの没後10年、コラル・デ・ラ・モレリアで語り合う: 10月24日、マドリードの老舗タブラオ、コラル・デ・ラ・モレリアで、歌い手ホセ・メネセの没後10年を語る集いが開かれた。30年以上伴奏したギタリスト、アントニオ・カリオンは、20歳のとき、出られなくなった伴奏者の代わりに、打ち合わせも調の確認もなしにメネセを弾いたのが始まりだったと語り、「父であり、友であり、兄弟だった」と振り返った。カリオンは、詩人フランシスコ・モレノ・ガルバンについて「メネセの人生から詞を書き、彼の拍と息に合わせて仕立てた」と述べた。
フラメンコギタリスト列伝
- 今日の一人はミゲル・アンヘル・コルテス(Miguel Ángel Cortés)。1972年1月26日、グラナダ生まれ。専門誌デフラメンコは「古い血筋のギタリストの家」に生まれたと書き、兄のパコ・コルテスもギタリストである。8歳のとき、ヒターノ(スペインのロマ)が暮らすサクロモンテの洞窟で婚礼の歌と踊りを見せる「サクロモンテのサンブラ」に加わり、フラメンコの世界に入った。
- 転機1(14歳、踊りの伴奏で世界へ): 1986年、14歳で、踊りのマリキージャ、マノレテ、アントニオ・カナレス、ハビエル・バロン、フアン・アンドレス・マヤ、エバ・ジェルバブエナらの伴奏者として、欧州、トルコ、米国、日本を回り始めた。歌では、ホセ・デ・ラ・トマサ、ホセ・メルセ、チャノ・ロバト、ルイス・エレディア「エル・ポラコ」らを支えた。1990年からは兄パコと二人で、歌い手カルメン・リナレスの世界ツアーに加わった。
- 転機2(1994〜1998年、賞とモレンテと初のソロ作): 1994年、パコ・デ・ルシア・ギター・コンクールで受賞した(デフラメンコは1位、2015年のスマ・フラメンカの資料は2位と書く)。1995年末には、歌のエンリケ・モレンテとグラナダのロックバンド、ラガルティハ・ニックによる『Omega』(1996年)の録音に加わった。1998年に初のソロ作『Patriarca(族長)』を出した。
- 転機3(2006〜2014年、『Bordón de trapo』からヒラルディージョへ): 2006年の2枚目『Bordón de trapo(布の低音弦)』は、ギタリストのヘラルド・ヌニェスの制作で、カルメン・リナレス、エスペランサ・フェルナンデス、アルカンヘルが歌った。デフラメンコ賞の2007年最優秀ギター・アルバムに選ばれ、2011年にはフラメンコ・オイ賞の最優秀伴奏ギターを受けた。2013年には、詩人ロルカに捧げた3枚目『El calvario de un genio(天才の受難)』を出した。そして2014年の第18回セビリア・ビエナルで、ヒラルディージョを受けた。スマ・フラメンカの資料によると、審査員全員一致で、「独奏、作曲、編曲、踊りと歌の伴奏の全ての面での成熟」に対して贈られたのは、この賞の歴史で初めてだった。
- 使っているギター1(1998年のペドロ・デ・ミゲル): マドリードの販売店ソレラ・フラメンカの記録によると、コルテスは、ペドロ・デ・ミゲル工房の創業者の一人ペドロ・ペレス(1958〜2008年)が1998年に作った1本を、数えきれない演奏会と、教則映像『La guitarra flamenca de Miguel Ángel Cortés(ミゲル・アンヘル・コルテスのフラメンコ・ギター)』の録画に使った。表面板はドイツ松、裏板と側板はインド・ローズウッド、弦長664ミリ、ナット幅53ミリ、重さ1,610グラム。表面板の3か所の割れは修理されている。販売店は、高音は倍音が多く余韻が長く、低音は「うつろで深く」、かき鳴らし(ラスゲアード)は「引き裂くように澄む」と書く。同じ年に、ペペ・アビチュエラとホセ・ケベド「ボリータ」のためにも、同じ仕様の1本ずつが作られた。今日の工房だよりで、この3本の行方をたどる。
- 使っているギター2(2019年のヘロニモ・ペレス)と弦: 同じソレラ・フラメンカは、コルテスが製作家ヘロニモ・ペレスの2019年製の1本で、エスペランサ・フェルナンデスとのタンゴや独奏のブレリアを弾く映像を紹介している(2019年12月ごろの記事)。販売店はその音を「力強く、とてもフラメンコらしい」と書く。弦はフランスのサバレス社の「トマティート・ハイテンション」を使う、と同社の演奏家紹介にある。
- 代表作1(タンゴの夢): アンダルシアのフラメンコ放送チャンネル公式の『Tangos. Sueños de un torero. Miguel Ángel Cortés. 2014』。『El calvario de un genio』に収めた『闘牛士の夢』を、ヒラルディージョを受けた2014年に弾いた映像である。2015年のスマ・フラメンカでは、同じ曲を「アダージョとタンゴ」として演奏した。ゆっくりした序の部分から、4拍のタンゴの刻みに入る瞬間、右手の親指の低音がどこで拍の頭を打ち始めるかを聴きたい。
- 代表作2(独奏のブレリア): バルセロナのフラメンコ協会エル・ドラード公式の『Miguel Ángel Cortés - Solo de guitarra (Versión libre de "Aljibe de madera" - Bulerías)』。『木の貯水槽』という自作を、ブレリアの12拍で自由に弾き直した独奏である。速さで押すのではなく、一つの旋律を左手のなめらかなつなぎで歌わせ、決めの句(レマーテ)の前でどれだけ間を取るかに耳を澄ませたい。
- 代表作3(歌の伴奏): エル・ドラード公式の『Arcángel, Miguel Ángel Cortés y Los Mellis "Fandangos de Huelva"』。2022年、バルセロナのノウ・バリス地区の祭り「デスバリオ」の映像で、10月24日のカンテ列伝のアルカンヘルが歌う。コルテスは2006年のアルバムにも彼を招き、2008年には、アルカンヘルがマノロ・カラコルに捧げた舞台『Zambra 5.1』でもギターを弾いた。歌の一節が終わったあと、ギターがどれだけ短く次の節へ橋を架けるかに、伴奏者としての手腕が出る。
- 代表作4(クラシック・ギターとの二重奏): エクスポフラメンコ公式の『José María Gallardo y Miguel Ángel Cortés - Albéniz Flamenco: dos guitarras hermanas』。クラシック・ギターのホセ・マリア・ガジャルド・デル・レイとの二重奏『Albéniz flamenco(フラメンコのアルベニス)』の紹介映像で、この組は2023年7月15日にロンドンのフラメンコ・フェスティバル、2024年9月22日にセビリア・ビエナルで演奏した。二人は2015年の『Lo Cortés no quita lo Gallardo(コルテスでもガジャルドでもある)』から組んでいて、資料はその題を「クラシックであることがフラメンコの血を消すわけではない」と説明する。クラシックの爪弾きと、フラメンコの打ち付けるような弾き方が、一つの和音の中でどう分かれるかを聴き比べたい。
- 技法と比較: ワールド・ミュージック・セントラルによると、コルテスは、速さより、感性で「痛みを感じる」ことのほうが大事だと語っている。10月23日のヘロニモ・マヤが速弾きの爆発で聴かせ、10月25日のホセミ・カルモナが低音楽器との「間」でジャズとつながったのに対し、コルテスは、歌い手と踊り手の後ろで40年近く鍛えた伴奏の耳を、独奏とクラシックとの二重奏にまで持ち込んだ人である。
- 歌い手たちとの関係: サバレスの紹介によると、エスペランサ・フェルナンデス、アルカンヘル、ロシオ・マルケスの常連のギタリストで、ミゲル・ポベダ(今日のカンテ列伝)、エストレージャ・モレンテ、マリナ・エレディアも伴奏してきた。2021年には、10月25日のカンテ列伝のエスペランサ・フェルナンデスのアルバム『Se prohíbe el cante』を制作している。フラメンコの外では、元ローリング・ストーンズのミック・テイラー、歌手ルス・カサル、ディアナ・ナバロとも共演した。
- いま: 2025年5月8日、ビルバオのアリアガ音楽院のホールで、第5回スペイン・ギター国際フェスティバルに出演した。セビリア・ビエナルでは2024年に、ガジャルド・デル・レイとの『Albéniz flamenco』を演奏している。
- 位置づけと入り方: サクロモンテの洞窟、踊りの伴奏、カルメン・リナレスとの旅、モレンテの『Omega』を経て、独奏と伴奏の両方でヒラルディージョを受けた人である。まず『Fandangos de Huelva』で伴奏の耳を、次に『Sueños de un torero』で作曲者の顔を、最後にガジャルドとの二重奏で、クラシックとフラメンコの境目に立つ現在を聴くと、彼の40年がつながる。
フラメンコバイレ列伝
- 今日の一人はヘスス・カルモナ(Jesús Carmona)。1985年、バルセロナ生まれ。エル・エスパニョール紙によると、7歳でバルセロナの演劇舞踊学院に入り、スペイン舞踊とフラメンコ、クラシック・バレエを学んで、2003年にスペイン舞踊で卒業した。カタルーニャ生まれのフラメンコの踊り手である点は、今日のカンテ列伝のミゲル・ポベダと同じである。
- 転機1(2002〜2010年、16歳でマドリードへ、国立バレエ団の第一舞踊手へ): 2002年、16歳でマドリードへ移り、「ヌエボ・バレエ・エスパニョール」でプロとして踊り始めた。2006年にスペイン国立バレエ団へ入り、1年もたたずに第一舞踊手になった。踊りのカルメン・コルテス、エル・グイト、アントニオ・カナレスとも共演した。2010年に自分の舞踊団を作った。
- 転機2(2019〜2021年、国の賞とボリショイ): 2019年に国営ラジオの「エル・オホ・クリティコ」舞踊賞、2020年に創作部門の国民舞踊賞を受けた。2020年12月19日には、第21回セビリア・ビエナルのロペ・デ・ベガ劇場で『El salto(跳躍)』を初演した。踊りの中の男女の役割を問い直す作品で、彼の7作目の自主制作である。2021年6月9日、モスクワのボリショイ劇場で、「舞踊のアカデミー賞」と呼ばれるブノワ賞の最優秀男性舞踊手を受けた。デフラメンコは、この賞の受賞者として2人目のスペイン人だと書いている。
- 転機3(2021年〜、『Baile de bestias』と監督職): 2021年、ナバラ大学美術館で『Baile de bestias(獣たちの踊り)』を初演し、2022年のマックス賞で最優秀舞踊作品と最優秀男性舞踊手の2部門を受けた。2023年10月16日、マドリード州は、新しく作る「マドリード州スペイン・バレエ団」の芸術監督に彼を指名した。
- 代表作1(獣たちの踊り): ナバラ大学美術館公式の『Jesús Carmona estrena 'Baile de Bestias' en el MUN』。初演を伝える美術館の映像である。速い足技(サパテアード)をどこまでも積み上げる場面と、上体をかがめて動物のように床を這う場面が、同じ舞台で切り替わる瞬間に注目したい。
- 代表作2(タブラオの近さ): マドリードの老舗タブラオ公式の『CASA PATAS, FLAMENCO EN VIVO #168 - JESUS CARMONA, BAILAOR』。劇場の大作と違い、数メートル先の客の前で踊る映像である。足技の一つひとつの粒が、マイクを通さずに板からどれだけはっきり聞こえるかを確かめたい。今日のパロ解説のサパテアードを、目と耳でつかむ入口になる。
- 代表作3(三部作の3作目): ナバラ大学美術館公式の『Súper viviente, una producción de la Compañía Jesús Carmona y el MUN』。美術館の紹介は、『El salto』『Baile de bestias』に続く、内面を探る三部作の作品として位置づけている。前の2作と比べ、踊り手の数や照明が、どこで彼一人の体へ絞り込まれていくかに注目したい。
- 本人の言葉: ブノワ賞の受賞時、デフラメンコの取材に「いま、キャリアの転換点にいる」「芸術上の語り口に十分な自信がついたので、新しい可能性を探り続けられる」と語った。『El salto』については「フラメンコやスペイン舞踊の見方以上のもので、私たちの文化をどう理解するかという、私のやり方だ」と述べ、舞台の自分を「上から見ていた。昔の大舞踊家たちのビデオのように」とも言った。
- 技法と比較: 10月19日のアルフォンソ・ロサがタブラオで鍛えた男の踊りの型を守り、10月14日のエドゥアルド・ゲレーロがカディスの拍の上で体を極限まで引き伸ばしたのに対し、カルモナは、国立バレエ団で身につけたスペイン舞踊とクラシックの技術を土台に、足技の名人芸と、物語や問いを持つ舞台作りの両方を進めてきた。エクスポフラメンコの評は、今年の新作で「舞台の存在感は常に優雅で、踊りの手段があふれている」と書いた。
- いま: 2026年3月4日、第30回ヘレス・フェスティバルのビジャマルタ劇場で、新作『Tentativo. Basado en paisajes reales(試み、実在の風景に基づく)』を踊った。振付は本人、演出は演劇のルイス・ルケ、音楽監督はマヌ・マサエド。評によると、街の踊りの動きとフラメンコを重ね、ショールを使うペテネーラ、グアヒーラ、歌い手ラファエル・ロメロの歌ったサンブラ、男性のカスタネット独奏とホタ、ペペ・マルチェナの『La Rosa』、そしてブレリアのリズムのファンダンゴへ進み、最後はセビジャーナスで締めた。積み上げたタンバリンの塔が何度も崩れる場面が繰り返されたという。7月26日には、マドリードの夏の催し「ベラノス・デ・ラ・ビジャ」で、アレグリアス、ソレア、タランタ、ブレリアをめぐるガラ『Bailando al tiempo(時に合わせて踊る)』を開いた。
- 位置づけと入り方: 7歳で入った学校から国立バレエ団の第一舞踊手、ボリショイの賞、州の舞踊団の監督へと進んだ、現代スペイン舞踊の中心にいる踊り手である。まずカサ・パタスの映像で足技の粒を、次に『Baile de bestias』で名人芸と物語の切り替えを見ると、足で語ることと舞台で問うことの両方を手放さない理由が分かる。
フラメンコカンテ列伝
- 今日の一人はミゲル・ポベダ(Miguel Poveda)。本名ミゲル・アンヘル・ポベダ・レオン。1973年2月13日生まれ(出生地をバルセロナとする資料とバダロナとする資料がある)。バルセロナ近郊バダロナのブファラ地区で育った。父はムルシア州ロルカのラ・パカの出身、母はシウダ・レアル県プエルトジャノの生まれで、アンダルシアの家系も、音楽の家系もない。内気な子どもで、ラジオや母のレコードで、コプラ(スペインの大衆歌謡)と、アントニオ・マイレナ、カマロン、エンリケ・モレンテを聴いて育った。
- 転機1(15〜20歳、バダロナのペーニャからラ・ウニオンへ): 1989年、15歳で、バダロナのペーニャで初めて人前で歌った。兵役のあと、バルセロナのランブラス通りのタブラオ「エル・コルドベス」で、踊りの伴奏の歌を1年近く歌った。1993年、ムルシア州ラ・ウニオンの第33回「カンテ・デ・ラス・ミナス(鉱山の歌)」に、ギタリストのフアン・ラモン・カロと出て、5つの賞のうち4つを取った。最高賞のランパラ・ミネラ(鉱夫のランプ)に加え、カルタヘネーラ、マラゲーニャ、ソレアの賞である。カロは、10月25日のフラメンコニュースでマドリードの独奏会を紹介した人である。
- 転機2(2005〜2009年、カタルーニャの詩と国の賞): 2005年の『Desglaç(雪解け)』で、ジャシント・ベルダゲー、ジョアン・マルガリットらカタルーニャ語の詩に節を付け、カタルーニャの文化とフラメンコに橋を架けた。2006年にセビリア・ビエナルの歌のヒラルディージョ、2007年に国民音楽賞の演奏部門を受け、文化省は「大きな質と多才さ」を評価した。
- 転機3(2009年、『Coplas del querer』とアルモドバル): 2009年6月の2枚組『Coplas del querer(恋のコプラ)』で、古典的なコプラを、編曲家ジョアン・アルベール・アマルゴスの新しい編曲で歌い直した。ギターはチクエロ。発売後すぐに3万枚で金、翌年に6万枚でプラチナとなり、2010年のスペイン音楽賞で3部門を受けた。同じ年、ペドロ・アルモドバル監督の映画『抱擁のかけら』のために、作詞作曲家トリオのキンテーロ、レオン、キロガによるサンブラ『A ciegas(目隠しで)』を、作曲家アルベルト・イグレシアスの編曲で歌った。
- 代表作1(20歳の決勝): ラ・ウニオンの「カンテの町」公式の『MIGUEL POVEDA - LAMPARA MINERA 1993』。カタルーニャ育ちの20歳が、鉱山の歌の本場でランパラ・ミネラを取った年の記録である。フアン・ラモン・カロのギターに乗せて、自由なリズムの鉱山の歌で、一つの母音をどこまで伸ばし、どこで声を折り返すかを聴きたい。アンダルシアの家系を持たない若者が、型を徹底して身につけていたことが分かる。
- 代表作2(コプラとサンブラ): 配信元公式の『A Ciegas (Version Película Los Abrazos Rotos)』。映画のために録った版で、マノロ・カラコルとローラ・フローレスが1940年代に広めた「サンブラ」という歌の型である。フラメンコの喉の使い方のまま、オーケストラの上で旋律の語尾を、どこで泣くように揺らすかを聴きたい。ポベダ本人の公式チャンネルには、2010年にスペイン国立管弦楽団と歌った『Miguel Poveda y la ONE "A Ciegas"』もある。
- 代表作3(ロルカの詩をカーニャで): 公式配信の『Miguel Poveda, Jesús Guerrero - ¡AY! (Caña)』。2024年の『Poema del cante jondo(カンテ・ホンドの詩)』から、ロルカの同名の詩集に節を付けた1曲で、ギターは10月18日のギタリスト列伝のヘスス・ゲレーロ。ロルカが詩の題にした「アイ」という叫びを、10月8日にパロ解説で扱った古いカーニャの長い節回しで、どう引き延ばすかを聴きたい。
- 本人と言葉: 2012年7月10日、マドリードの学生寮でのロルカ追悼で、メキシコの歌手チャベーラ・バルガス、マルティリオと一緒に歌った。資料はこれを、チャベーラの最後の演奏会と書いている。2013年6月21日、ラス・ベンタス闘牛場での「音楽生活25年」の演奏会には、歌手ジョアン・マヌエル・セラートが加わった。
- 声と比較: 10月25日のエスペランサ・フェルナンデスがトリアーナの家の歌を持ったまま声の器を変え、10月24日のアルカンヘルがウエルバのファンダンゴから出かけたのに対し、ポベダは、家に歌のない場所から、ラジオとレコードと鉱山の歌の大会を通って入った。ランパラ・ミネラの厳しい型、カタルーニャ語の詩、コプラ、ロルカと、入口を変えながら、カンテの喉を一度も手放していない。
- いま: 2026年4月、ロルカをめぐる記録映画『Enlorquecido. Solo el misterio nos hace vivir(ロルカにとりつかれて、神秘だけが私たちを生かす)』を4月23日の劇場公開に合わせて紹介した。今年は『Coplas del querer』の15周年ツアーを回っていて、12月18日にはマドリードのモビスター・アリーナで歌う。2025年には同作の37曲の再編集版と、クリスマス・アルバム『El árbol de la alegría(喜びの木)』も出した。10月24日のニュースで伝えたとおり、2027年1月にはマラガで、ロルカの3人の男を描く舞台『El agua detenida(止まった水)』で俳優としてデビューする。
- 位置づけと入り方: アンダルシアに家系を持たない少年が、ラジオから歌を覚え、20歳で鉱山の歌の頂点に立ち、コプラとカタルーニャの詩とロルカへ道を広げた。まず1993年の決勝で型を、次に『A ciegas』でコプラの喉を、最後に『¡AY!』でロルカとの現在を聴くと、彼の「多才さ」が、一本の喉の上に積み上がっていることが分かる。
フラメンコギター工房だより
- 今日は、ユーザーの指名で、マドリードのギターラス・ペドロ・デ・ミゲル(Guitarras Pedro de Miguel)を、9月30日に続いてもう一度取り上げる。前回の振り返りは短くする。屋号は、ホセ・ラミレス3世の工房で14歳から修業した二人、ペドロ・ペレスとミゲル・アンヘル・ロドリゲスの名を合わせたもので、1991年にアモール・デ・ディオス通り13番地で独立した。今日は、前回扱わなかった「楽器の仕様」と「誰がどの年の1本を弾いたか」を中心にたどる。
- 創業者の年と継承: 米国の販売店トゥエルフス・フレットとスペインのソレラ・フラメンカの記録は、ペドロ・ペレスの生没年を1958〜2008年、ミゲル・アンヘル・ロドリゲスの生年を1960年とする。ペドロの没後は、ミゲル・アンヘルが同じ銘で作り続けている。2016年の取材記事は、ペドロの息子ルベンを、ミゲル・アンヘルが約束どおり弟子として育てていると書いた。一方、別の販売店の資料は、ミゲル・アンヘルの息子アルバロと、継子のルベンが加わったと書いていて、資料によって書き方が違う。
- 二つの系統、ブランカとネグラ: トゥエルフス・フレットの記録には、裏板と側板にシープレス(地中海の糸杉)を使う「フラメンカ・ブランカ」と、インド・ローズウッドを使う「フラメンカ・ネグラ」がある。2002年のブランカは、表面板がシダー、ネックがスパニッシュ・シダー、指板が黒檀で、弦長650ミリ、ナット幅54ミリ。ネックに側板を差し込む伝統の「スパニッシュ・ヒール」で組み、糸巻きはフラメンコ伝統の木ペグではなく、クラシック・ギターと同じ機械式である。販売店はこれを「とても実用的な改良」と書く。
- ラミレス譲りのもの、変えたもの: スペイン語の販売記録には、1990年と1992年のペドロ・デ・ミゲルを「ホセ・ラミレス風」と題したものがある。伝統の組み方は修業先から受け継いだ部分で、機械式の糸巻きは、扱いやすさを選んだ部分と言える。ソレラ・フラメンカの記録で見る限り、表面板はどれもドイツ松で、木目がまっすぐそろったものが選ばれている。
- 数字で見る1本: 2005年のネグラ(製造番号91264)は、表面板が松、指板が黒檀、弦長650ミリ、ナット幅52ミリで、トゥエルフス・フレットは新品の価格を5,500ユーロと書いた。販売記録の製造番号は、2001年が91.149、2002年が91-184と91186、2005年が91264と91276で、どれも「91」で始まる。弦長は650、660、664ミリと楽器によって違い、2001年の1本は重さ1,450グラムと軽い。ソレラ・フラメンカの公式チャンネルには「モデロ・エストゥディオ(練習用モデル)」の2007年製の試奏映像もある。
- 作り手の家族と、店の言葉: 2016年の取材記事によると、1本のギターは家族の何人もの手を通って仕上がり、根気と正確さが要る塗装は、伝統的に女性たちが受け持ってきた。英国のバンド、スーパートランプがリムジンで乗り付け、通りをふさいで1本買っていったこともある。逆に、ニューヨークの客は、65万ペセタ(いまの約4,000ユーロ)の1本を「安すぎる」と買わなかった。ミゲル・アンヘルは「いちばん高いギターを買うのは、弾かない人たちだ」と笑う。
- 弾き手1、ミゲル・アンヘル・コルテスの1998年: 今日のギタリスト列伝のコルテスが長年使った1本は、ペドロ・ペレスが1998年に作った。ドイツ松とインド・ローズウッド、弦長664ミリ、ナット幅53ミリ、弦高は12フレットで2.7ミリ、重さ1,610グラム。数えきれない演奏会と、教則映像『La guitarra flamenca de Miguel Ángel Cortés』の録画に使われ、表面板には修理した割れが3か所残る。販売店は、ソレラ・フラメンカの扱ったこの工房の楽器の中で、おそらく最高の1本と書いた。
- 弾き手2、同じ年の3本: 同じ記録によると、1998年、ペドロ・ペレスはコルテスの1本と同じ仕様で、ペペ・アビチュエラ(9月22日と28日の列伝、今年8月4日に死去)と、ギタリストのホセ・ケベド「ボリータ」のためにも1本ずつ作った。ボリータの1本は弦長660ミリ、重さ1,680グラムで、割れも修理もない。販売店は、打ち付け、かき鳴らし、音楽性、音量のどれも、要求の厳しい奏者に向くと書いた。一人の製作家が、同じ年に、伴奏の名手3人に同じ仕様の楽器を渡していたことになる。
- 弾き手3、録音の現場で: ソレラ・フラメンカは、2000年の1本について、録音の際、マヌエル・レジェス(コルドバの名工)の楽器と並べても引けを取らなかったと書く。この店は、ペドロ・デ・ミゲルを選んだ奏者として、ホセミ・カルモナ(10月25日の列伝)、ラファエル・リケーニ、ヘラルド・ヌニェス、ヘロニモ・マヤ(10月23日の列伝)の名を挙げる。ただし、どの録音でどの年の1本を弾いたかまでは、確かめられた資料がない。
- 弾き手4、フアン・ラモン・カロの試奏: ソレラ・フラメンカ公式の『Juan Ramon Caro plays the Pedro de Miguel 2007 flamenco guitar for sale』では、10月25日にマドリードで独奏会を開いたバルセロナのフアン・ラモン・カロが、2007年製の1本を弾いている。カロは1993年、ミゲル・ポベダのランパラ・ミネラを伴奏した人でもある。親指で打つ低音が濁らずに伸びるか、速い単音の連なり(ピカード)で高音がつぶれないかを聴くと、販売店の書く「低音のうつろな深さ」の意味が耳で分かる。
- 音の評価をまとめると: 販売店の記述は、どれも同じ方向を向いている。低音は「うつろで深い」、高音は「丸く太く、輝きと余韻がある」、かき鳴らしは「引き裂くように澄む」。張りは中くらいで、両手が楽に弾ける弦の高さ、という評価も繰り返し出てくる。歌い手の後ろで和音を刻み、踊り手の足技に負けない音量を出す、伴奏の楽器としての性格が見えてくる。
フラメンコのパロ解説
- 今日のパロはサパテアード(Zapateado)。名前は「靴(サパト)」から来ていて、「足で打つ」踊りを指す。パロとしてのサパテアードは、歌がなく、踊りとギターだけでできている。フラメンコの踊りの足技全般も「サパテアード」と呼ぶが、今日はパロとしての方を扱う。
- 起源と歴史(諸説): 英語版の百科事典は、アンダルシア起源の踊りと音楽とし、16世紀の人文学者が、ローマ帝国の踊り手の技に由来すると主張したことを紹介している。研究者の論文によると、19世紀には「カディスのサパテアード」が大成功し、その名で宣伝されることが多かった。米国のギタリストの解説は、ルーツをカディスのカーニバルの歌、タンギージョ(10月14日のパロ解説)に置く。メキシコにも「サパテオ」という似た踊りがある。
- 舞台芸術への広がり: 19世紀には、バイオリンのパブロ・サラサーテが『スペイン舞曲集』作品23に『サパテアード』を書いた。1946年には、踊り手アントニオ・ルイス・ソレール「アントニオ」がこの曲に振り付け、独舞者としての最大の成功作になった。スペイン国立バレエ団は1982年6月14日にセビリアで上演し、2021年4月15日の「アントニオ生誕100年」でも踊っている。アントニオの言葉は「これを踊るのは床を撫でること。床を蹴るのではなく、床に話しかけなければならない」。
- いまはギターの曲として: 解説は、サパテアードは踊られることが少なくなり、いまはおもにフラメンコの独奏ギターの曲目として残っていると書く。カディスのタンギージョが「歌とギター、踊りなし」なのに対し、サパテアードは「踊りとギター、歌なし」で、ちょうど裏返しの関係にある。
- コンパス(6拍子): 8分の6拍子で一周する。伝統的なサパテアードでは、「イチ、ニ、サン、シ、ゴ、ロク」と数えて、1と5を強く打つと説明される。英語版の百科事典は、二つの拍に力が来て、二つ目がより強いと書く。12拍で数えるソレアやアレグリアスと違い、短い6拍を何度も重ねていくので、足技の連打が途切れずに続く。
- 新しい数え方: ビセンテ・アミーゴの『Vivencias imaginadas(想像の体験)』のサパテアードは、8分の6拍子を2小節ひと組にして、1小節目は4と6、2小節目は4だけにアクセントを置く。「イチ、ニ、サン、シ、ゴ、ロク/イチ、ニ、サン、シ、ゴ、ロク」の、太字の位置が左右でずれるように聞こえる。
- 調性と和音: ギター教室の解説によると、サパテアードは普通Cの長調で弾く。例外として、サビーカスの『Zapateado en Re(Dのサパテアード)』はDの長調である。音楽学者ファウスティノ・ヌニェスは、10月25日に公開したエクスポフラメンコの講座で、フラメンコのギターの和声を「長調、短調、フラメンコ調(フリジア旋法、ミの旋法)」の三つに分け、ソレアやシギリージャはフラメンコ調、カンティーニャス系は長調で伴奏すると説明した。サパテアードは、フラメンコでは数少ない、長調の明るさで最初から最後まで押し通す曲の一つで、Cの長調なら主の和音Cと、その5度上のG7との行き来が骨組みになる。
- 歌詞がない代わりに: 歌がないので、レトラ(歌詞)もない。その代わりに、踊り手の足技と、ギターの単音の連なり(ピカード)とかき鳴らし(ラスゲアード)が、問いと答えのように会話する。英語版の百科事典は、足の軽い打ちとベルのようなギターの音から始まり、繰り返す旋律の上で、だんだん速く複雑な足技へ進むと書く。
- 踊りの見どころ: 腕の大きな振り(ブラソ)より、床に打つかかと、つま先、足裏全体の音の違いを聴くパロである。アントニオ・ルイス・ソレールの振付では、米国のタップダンスの影響も指摘され、国立バレエ団の資料は「技巧を極めた、様式化されたフラメンコの代表例」と書く。今日のバイレ列伝のヘスス・カルモナが国立バレエ団で鍛えたのも、こうした様式化されたスペイン舞踊の足技である。
- 代表録音・映像1(踊り): スペイン国立バレエ団公式の『ZAPATEADO DE SARASATE. FRANCISCO VELASCO』。2020年、マドリードのサルスエラ劇場で、第一舞踊手フランシスコ・ベラスコがアントニオの振付を踊った映像である。オーケストラの速い旋律の上で、足の音だけで、もう一つの打楽器のパートを刻んでいる所に注目したい。同じ団の公式チャンネルには、別の踊り手による『ZAPATEADO DE SARASATE. Homenaje a Antonio Ruiz Soler』もあり、二人の足の音の粒の違いを比べられる。
- 代表録音2(独奏ギターの古典): 配信元公式の『Zapateado En Re (Zapateado)』(サビーカス)。今日のフラメンコニュースのエル・ボラの大叔父、サビーカスの作品である。普通のCではなく、Dの長調で書かれている。親指の低音が拍を刻み続け、その上で高音の旋律が、踊り手の足の役を引き受けている所を聴きたい。
- 代表録音3(現代の解釈): 配信元公式の『Vivencias Imaginadas(ビセンテ・アミーゴ)』。1995年のアルバム『Vivencias imaginadas』の表題曲で、配信元の表記は「サパテアード」。上で数えた2小節ひと組のずれたアクセントが、サビーカスの真っすぐな6拍とどう違うかを聴き比べたい。ほかに、パコ・デ・ルシアの『Percusión flamenca(フラメンコの打楽器)』もサパテアードの名曲として知られる。
- 似たパロとの聴き分け: タンギージョとは、歌の有無で分ける。タンギージョはカディスの冗談まじりの歌があり、8分の6拍子と4分の2拍子が混ざる。サパテアードは歌がなく、6拍を真っすぐ重ねる。アレグリアスとは、拍の数で分ける。どちらも長調で明るいが、アレグリアスは12拍で一周し、歌がある。足の音とギターだけが聞こえ、6拍ごとに頭が戻ってくれば、サパテアードである。
まとめ
- 2026年10月30日のスペインは、「道具と手」の一日だった。サクロモンテの洞窟から始め、ペドロ・ペレスが1998年に作った1本で数えきれない舞台を弾き、ヒラルディージョを全員一致で受けたミゲル・アンヘル・コルテス。同じ年に同じ仕様の楽器を3人の伴奏者に渡し、いまも「うつろで深い低音」で語られるペドロ・デ・ミゲル工房。国立バレエ団で鍛えた足で、名人芸と問いの両方を舞台に置くヘスス・カルモナ。アンダルシアに家系を持たず、ラジオと鉱山の歌から入ったミゲル・ポベダ。そして、歌を持たず、足と弦だけで会話するサパテアード。一方で、ウルダの列車事故では、オペラ『La Regenta』の作曲家マリサ・マンチャードが行方不明になっている。
- 別れは「アスタ・オトラ(¡Hasta otra!)」。「また次の機会に」を短く言う、親しい相手への別れの言葉である。
参考ソース
- 国内: El País「El primer informe técnico del accidente estima que el AVE circulaba de 160 a 200 kilómetros por hora cuando chocó en Urda」(2026年10月29日) https://elpais.com/espana/2026-10-29/el-primer-informe-tecnico-del-accidente-fija-en-160-a-200-kilometros-por-hora-la-velocidad-del-ave-que-choco-en-urda.html /El País「La maquinista del Iryo de Urda intentó desbloquear su tren dos veces…」 https://elpais.com/espana/2026-10-29/la-maquinista-del-iryo-de-urda-intento-desbloquear-su-tren-en-dos-ocasiones-sin-exito-y-busco-el-consejo-de-su-empresa-antes-de-la-colision.html /El Mundo「El CEO de Iryo alertó 23 días antes del accidente…」 https://www.elmundo.es/economia/2026/10/29/6ae32535e4d4d8256c8b45bf.html /El Mundo「El Ministerio de Transportes certificó, 21 días antes de la tragedia de Urda…」 https://www.elmundo.es/economia/empresas/2026/10/28/6ae22636fdddffcd688b45c5.html /El Mundo「Óscar Puente descarta una dimisión inmediata…」 https://www.elmundo.es/espana/2026/10/29/6ae36d49e9cf4a23398b4583.html /El Mundo「El Rey pide afrontar con "dignidad y rigor" la tragedia de Urda…」 https://www.elmundo.es/espana/2026/10/29/6ae30ca121efa00f4b8b45a7.html
- 文化: El País「Consternación en el mundo de la música por la desaparición de la compositora Marisa Manchado…」(2026年10月29日) https://elpais.com/cultura/2026-10-29/consternacion-en-el-mundo-de-la-musica-por-la-desaparicion-de-la-compositora-marisa-manchado-en-el-accidente-ferroviario-de-urda.html /文化省 国民音楽賞2024 発表資料 https://todalamusica.es/files/20241001_ndp_pn-música_.pdf /El País「El regreso de C. Tangana a la música con el grupo de rap…」(2026年10月29日) https://elpais.com/cultura/2026-10-29/el-regreso-de-c-tangana-a-la-musica-con-el-grupo-de-rap-que-lo-cambio-todo-y-al-que-tildaron-de-pijo.html
- フラメンコニュース: ExpoFlamenco「El Bola: «Escuché a Camarón mil veces en el Candela…»」(2026年10月29日) https://expoflamenco.com/revista/el-bola-escuche-a-camaron-mil-veces-en-el-candela-era-como-si-tuviera-una-orquesta-en-la-garganta/ /ExpoFlamenco「La Peña La Bulería de Jerez celebra su 50 aniversario…」(2026年10月29日) https://expoflamenco.com/revista/la-pena-la-buleria-de-jerez-celebra-su-50-aniversario-con-cuatro-viernes-de-arte-flamenco/ /ExpoFlamenco「Vicente Soto 'Sordera', Lucía Beltrán y Manuel de la Tomasa protagonizan el II Cádiz Canta」(2026年10月28日) https://expoflamenco.com/revista/vicente-soto-sordera-lucia-beltran-y-manuel-de-la-tomasa-protagonizan-el-ii-cadiz-canta/ /ExpoFlamenco「…Badajoz Jaleo Week」(2026年10月27日) https://expoflamenco.com/revista/el-flamenco-inundara-calles-plazas-y-espacios-culturales-pacenses-durante-la-badajoz-jaleo-week/ /ExpoFlamenco「Una década sin José Menese」(2026年10月27日) https://expoflamenco.com/revista/una-decada-sin-jose-menese/
- ギター列伝: DeFlamenco「Miguel Angel Cortés」 https://deflamenco.com/revista/guitarra/miguel-angel-cortes-3.html /Suma Flamenca 2015「Lo Cortés no quita lo Gallardo」 https://www.madrid.org/sumaflamenca/2015/pdf/locortes.pdf /World Music Central「Artist Profiles: Miguel Angel Cortés」 https://worldmusiccentral.org/?p=58465 /Savarez「Miguel Ángel Cortés」 https://www.savarez.com/node/2564 /Solera Flamenca「Miguel Angel Cortés in Solera Flamenca」 https://www.flamencoguitarsforsale.net/en/?p=24335 /Solera Flamenca「Esperanza Fernández & Miguel Ángel Cortés: Dream tangos come true」 https://www.flamencoguitarsforsale.net/en/esperanza-fernandez-miguel-angel-cortes-dream-tangos-come-true/ /Guitarras Ramírez「Miguel Angel Cortes in Bilbao, V FIGUE 2025」 https://guitarrasramirez.com/en/miguel-angel-cortes-in-bilbao-v-figue-2025/ /Bienal de Flamenco 2024 プログラム https://femas.es/xxiii-bienal-de-flamenco-sevilla-2024/archivos/programas-de-mano/22-9-jose-maria-gallardo-miguel-angel-cortes.pdf /DeFlamenco「XVI Festival Flamenco Caja Madrid 2008. Arcángel 'Zambra 5.1'」 https://www.deflamenco.com/revista/resenas-actuaciones/xvi-festival-flamenco-caja-madrid-2008-arcangel-zambra-51-con-dorantes-miguel-a-cortes-dani-mendez-y-rosario-toledo1-1.html
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- 工房: Solera Flamenca「Pedro de Miguel guitars」 https://www.flamencoguitarsforsale.net/en/pedro-de-miguel-guitars/ /同「Flamenco guitar Pedro de Miguel 1998, ex-Miguel Ángel Cortés」 https://www.flamencoguitarsforsale.net/en/pedro-de-miguel-guitars/flamenco-guitar-pedro-de-miguel-ex-miguel-angel-cortes/ /同「1998 Bolita's」 https://www.flamencoguitarsforsale.net/en/pedro-de-miguel-guitars/flamenco-guitar-pedro-de-miguel-1998-bolita/ /同「2000」 https://www.flamencoguitarsforsale.net/en/?p=82655 /同「2001 nº91.149」 https://www.flamencoguitarsforsale.net/en/pedro-de-miguel-guitars/flamenco-guitar-pedro-de-miguel-2001-91149/ /The Twelfth Fret「2002 Pedro de Miguel Flamenco Blanca」 https://archive.12fret.com/instruments/2002-pedro-de-miguel-flamenco-blanca-guitar /The Twelfth Fret「2005 Pedro de Miguel Flamenco Negra」 https://archive.12fret.com/sold-archive/2005-pedro-de-miguel-flamenco-negra-guitar/ /mYmO「Guitarrería Pedro de Miguel: el sonido de la artesanía」(2016年3月31日) https://mymo.es/guitarreria-pedro-miguel-sonido-la-artesania/
- パロ: Richter Guitar「Zapateado」 https://richterguitar.com/flamenco-guitar/flamenco-guitar-toques-and-palos/zapateado/ /Diego Alonso「Vivencias Imaginadas (Flamenco Guitar)」 https://diegoalonsomusic.com/post/vivencias-imaginadas-flamenco-guitar /Wikipedia(英語)「Zapateado (Spain)」 /Ballet Nacional de España「Zapateado」 https://balletnacional.inaem.gob.es/en/company/repertory/zapateado /ExpoFlamenco「Los tres modos de la guitarra flamenca / ExpoMúsica #17 con Faustino Núñez」(2026年10月25日) https://expoflamenco.com/revista/los-tres-modos-de-la-guitarra-flamenca-expomusica-17-con-faustino-nunez/ /Telethusa(Dialnet)サパテアード論文 https://dialnet.unirioja.es/descarga/articulo/7653640.pdf