トマティートの息子ホセ・デル・トマテの『Sonanta 3.0』、20年の伴唱からランパラ・ミネラへヘスス・コルバチョ、バレンシアのプルデンシオ・サエス、南米から来たビダリータ【2026/10/26】
2026-10-26 / スペイン便り
概要
「続けてきた人」の回です。ギタリスト列伝は、トマティートの息子で13歳でギターの道を選び、初アルバム『Plaza Vieja』から、父の遺産を組み直す独奏の舞台『Sonanta 3.0』へ進んだアルメリアのホセ・デル・トマテ。使用ギターとして、2018年のフランシスコ・サンチェス製も紹介します。バイレ列伝は、ラファエラ・カラスコの舞踊団からタブラオ、ヘレス・フェスティバル新人賞、パリのシャイヨー劇場、王立劇場へ進み、11月に新作『Bien vale un imperio』を初演するセビリアのパウラ・コミトレ。カンテ列伝は、約20年踊り手の伴唱を務め、2024年にランパラ・ミネラを取ったウエルバのヘスス・コルバチョ。工房だよりは、1963年創業、バレンシア県トレンテのプルデンシオ・サエス(白の5-FPと黒の3-FP)。パロ解説は、アルゼンチンとウルグアイの民謡から来た「行き帰りの歌」ビダリータです。今日のスペイン語は「エル・ケ・ラ・シゲ、ラ・コンシゲ(続ける者が手に入れる)」。
▼ 今日のトピック ・映画監督ホセ・ルイス・ガルシア・サンチェスへ、映画アカデミー会長メンデス=レイテの文章 ・ヘレスのペーニャでピアニストのロサリオ「ラ・レイナ・ヒターナ」/モゲールのペーニャの夜/ファウスティーノ・ヌニェスの「ギターの三つの旋法」/コラム「フラメンコのDNAを量り売りで」 ・ギター列伝: ホセ・デル・トマテ ・バイレ列伝: パウラ・コミトレ ・カンテ列伝: ヘスス・コルバチョ ・工房だより: プルデンシオ・サエス(バレンシア県トレンテ) ・パロ解説: ビダリータ
▼ 関連リンク(アーティスト・パロ・工房) ・ホセ・デル・トマテ『Al mejor de todos los tiempos』王立劇場2018年(デ・フラメンコTV公式) https://www.youtube.com/watch?v=FZ4Kl8Ahh84 ・ホセ・デル・トマテ『A mi padre (Bulería)』(リンバエ公式) https://www.youtube.com/watch?v=Vbq30Cd9uKQ ・ホセ・デル・トマテ『A mi padre (Bulerías)』フランシスコ・サンチェス2018年製(ソレラ・フラメンカ公式) https://www.youtube.com/watch?v=9OtJHhZLwE0 ・パウラ・コミトレ『Alegrías』カンテ・デ・ラス・ミナス決勝(本人公式) https://www.youtube.com/watch?v=kIO9wL-E-E8 ・パウラ・コミトレ、オルランド・バス『Après vous, Madame』(エル・ドラード公式) https://www.youtube.com/watch?v=qBFxV-8v4uk ・パウラ・コミトレ『Bien vale un imperio』予告 https://www.youtube.com/watch?v=z8p6YnZObt0 ・ヘスス・コルバチョ ランパラ・ミネラ2024のミネラ(デ・フラメンコTV公式) https://www.youtube.com/watch?v=7Z4lAV9QG4g ・ヘスス・コルバチョ 18歳のファンダンゴ2005年(メモランダ) https://www.youtube.com/watch?v=fidQIkVnLVE ・プルデンシオ・サエス 3-FP(工房公式) https://www.youtube.com/watch?v=NWoHxrjuQhU ・プルデンシオ・サエス 5-FP 試奏(ラ・ギターラ・エスパニョーラ) https://www.youtube.com/watch?v=tJT7U99Imw4 ・ニーニョ・デ・マルチェナ『Vidalita: Oye mi china querida』(配信元公式) https://www.youtube.com/watch?v=eVqoafI9QcA ・エンリケ・モレンテ『Vidalita de Marchena』(配信元公式) https://www.youtube.com/watch?v=6DcYBVL_6eM ・エル・グラナイーノ、アントニオ・パトロシニオ(子)『Vidalita de Marchena』2024年(フラメンコマニアTV) https://www.youtube.com/watch?v=APYqp3DsFQs
▼ 参考記事・ソース ・El País「José Luis García Sánchez: había que deshacer la casa」 https://elpais.com/cultura/cine/2026-10-25/jose-luis-garcia-sanchez-habia-que-deshacer-la-casa.html ・ExpoFlamenco「La Reina Gitana se corona en Santiago」 https://expoflamenco.com/revista/la-reina-gitana-se-corona-en-santiago/ ・ExpoFlamenco「Las noches peñeras de Moguer」 https://expoflamenco.com/revista/las-noches-peneras-de-moguer/ ・ExpoFlamenco「Los tres modos de la guitarra flamenca」 https://expoflamenco.com/revista/los-tres-modos-de-la-guitarra-flamenca-expomusica-17-con-faustino-nunez/ ・ExpoFlamenco「ADN Flamenco, al peso」 https://expoflamenco.com/revista/adn-flamenco-al-peso/
#スペイン #フラメンコ #ギター #バイレ #カンテ #ビダリータ #ホセデルトマテ #ギター工房 #ずんだもん
スライド(クリックで展開)
スペイン文化・フラメンコ便り(2026年10月26日)
オープニング:2026年10月26日 — スペイン文化・フラメンコ便り
- 今日のスペイン語は「エル・ケ・ラ・シゲ、ラ・コンシゲ(El que la sigue, la consigue)」。「続ける者が手に入れる」、つまり継続は力なり、である。
- 今日の軸は「続けてきた人」。ギタリスト列伝は、トマティートの息子で、13歳でギターの道を選び、いま初めての独奏者としての舞台『Sonanta 3.0』に挑むホセ・デル・トマテ。カンテ列伝は、約20年踊りの伴唱を務め、2024年にランパラ・ミネラを取ったウエルバのヘスス・コルバチョ。バイレ列伝は、そのコルバチョと2025年に王立劇場の舞台に立ったセビリアのパウラ・コミトレ。工房だよりはバレンシア県トレンテの「プルデンシオ・サエス」、パロ解説は南米から来た歌「ビダリータ」。
文化・芸能ニュース
- 映画監督ホセ・ルイス・ガルシア・サンチェスに、60年来の友が別れの文章: 10月25日、エル・パイス紙に、スペイン映画アカデミー会長のフェルナンド・メンデス=レイテが、同級生だった監督ホセ・ルイス・ガルシア・サンチェス(愛称ペペ)について寄稿した。1960年代半ば、国立映画学校(EOC)はフランコ政権から「赤の巣」と見られ、解体されかけていた。ガルシア・サンチェスは撮り続けるために留年を重ね、「この家を壊さなければ」と叫んで学生の先頭に立ち、校長に退学させられた。仲間は復学を求めてストライキを打ち、1970年春、学校から監督科と演技科の学生がいなくなった。
- 作品は、ベルリン映画祭で金熊賞の『Las truchas(マス)』、民主化移行期のフランコ派の家族と進歩派の家族を映した『El love feroz』と『Colorín colorado』、『La corte de Faraón(ファラオの宮廷)』、ヴァジェ=インクランの『Divinas palabras(神の言葉)』など。友人に「おれは映画を撮る。おまえは作品を撮りたがる」と言い、「スペイン映画はみんな良い」が口癖だった。文章は作品名にかけた「アディオス・コン・エル・コラソン(心から、さようなら)」で結ばれる。
フラメンコニュース
- ヘレスのペーニャで「ジプシーの女王」がピアノを弾く: 10月24日(土)、ヘレスのサンティアゴ地区にあるペーニャ・ティオ・ホセ・デ・パウラで、ピアニストのロサリオ「ラ・レイナ・ヒターナ」が、2年間巡演してきた『Sensaciones(感覚)』を弾いた(エクスポフラメンコ)。両親はこの地区の出身で、本人は市の音楽学校で教えている。ペリキンやモライートのギターを思わせる旋律、フェルナンド・テレモトとモライートを偲ぶシギリージャ、叔父に捧げたマラゲーニャを続け、最後は祈りの曲『Prendimiento』を、総立ちの客と「コンパスに合わせて祈る」ように終えた。バイオリンはベルナルド・パリージャ、歌はイサ・フェルナンデス。巡演はマラガ県アリアテで締めくくる。
- ウエルバ県モゲールで「ペーニャの夜」: ウエルバ県ペーニャ連盟の第20回巡回フラメンコは、ギタリストで歌も詞も書くホセ・マリア・デ・レペに捧げられた。10月23日、モゲールのペーニャ・デ・カンテ・ホンドで、職業歌手ではない愛好家の歌い手エステファノ・モリンス(1981年ウエルバ生まれ)と、ウエルバに住むオランダ人ギタリストのガスパル・デ・オランダ(本名ヤスペル・ロッケフェール)が共演した。ガスパルはロッテルダムの音楽院でパコ・ペーニャに学び、2026年に2枚目のアルバム『Encuentros flamencos』を出した。歌はマルティネーテとデブラから始まった。
- ファウスティーノ・ヌニェスが解く「ギターの三つの旋法」: 10月25日、エクスポフラメンコの動画講座『ExpoMúsica』第17回で、音楽学者ファウスティーノ・ヌニェスが、長調、短調、そして「ミの旋法」とも呼ぶフラメンコ旋法(フリジア旋法)の三つを解説した。ソレアとシギリージャはフラメンコ旋法、カンティーニャは長調、ファルーカは短調で伴奏する。今日のパロ解説のビダリータを聴く前の地図になる。
- コラム「フラメンコのDNAを量り売りで」: 10月26日、同誌のコラムは「カンテ・グランデ(大きな歌)、カンテ・チコ(小さな歌)と言うが、大きいか小さいかは歌の種類ではなく歌い手だ」と書いた。「トマス・パボンの息子でも才がないことはあるし、クエンカの公証人一家から一流の踊り手が出ることもある」とし、家系より努力と愛情を説く。今日の3人の列伝は、名家の息子、愛好家の家の子、学校で学んだ踊り手と、この問いへの三つの答えになっている。
- アンダルシアの地域性: ヘレスのペーニャも、ウエルバのペーニャ連盟も、地区や県の単位で歌を守る組織である。マドリードの大劇場が「国の顔」としてのフラメンコを見せる一方、アンダルシアでは、こうした小さな会場の夜が文化の土台になっている。
フラメンコギタリスト列伝
- 今日の一人はホセ・デル・トマテ(José del Tomate)。本名ホセ・フェルナンデス。1998年、アルメリア生まれ。父はトマティート、曾祖父は「エル・トマテ」と呼ばれたミゲル・フェルナンデス・コルテスで、この愛称は祖父にも受け継がれた。本人が最も影響を受けた人として挙げるのは、叔父のニーニョ・ミゲルで、サビーカスとパコ・デ・ルシアも手本だという(アテネオ・デ・マドリードの資料)。
- 生い立ち: 本人は「ごく小さいころから家にはフラメンコがあり、ギターがいつも周りにあった」と語り、13歳で家の道を継ぐと決めた。19歳までに、ラ・ウニオンの国際カンテ・デ・ラス・ミナス祭、マドリードのスマ・フラメンカ、グラナダ国際音楽舞踊祭に出て、父の巡演でニューヨーク、マイアミ、プエルトリコ、ボストン、ワシントンを回った(レオン大学の資料)。
- 転機1(2018年、初アルバム): 2018年、ユニバーサルから初アルバム『Plaza Vieja(古い広場)』を出し、7月にマドリードの王立劇場で披露した。デ・フラメンコTV公式の『José del Tomate "Al mejor de todos los tiempos"』は、2018年7月30日のその舞台の約5分の映像で、歌はキキ・コルティーニャスとマリアンヘレス・フェルナンデス。題は「史上最高の人へ」。冒頭の独奏から歌が入る所で、ギターが前に出る弾き方から、歌の後ろへ下がる弾き方へ切り替わる瞬間を聴きたい。
- 転機2(2019年、セビリアでの率直な批評): 2019年2月19日、セビリアのテアトロ・セントラルの公演を、デ・フラメンコ誌のサラ・アルギホが評した。タラントで始め、叔父ニーニョ・ミゲル風のサンブラ、父とのミシェル・カミロ『Two much』の二重奏、タンゴとブレリアと進んだ。批評は、温かく明るい音色と、タンゴとブレリアで弦が「歌うように」鳴る場面をほめた。一方で「知っていることを再現するのに夢中で、冒険して迷うことをしていない」とも書いた。バイオリンは、今日のフラメンコニュースにも出てきたベルナルド・パリージャだった。
- 転機3(父と巨匠たちの舞台): 父トマティートと歌のホセ・メルセの巡演『De Verdad(本当に)』、パコ・デ・ルシアの曲を演奏する「パコ・デ・ルシア・プロジェクト」に加わった。2026年も、2月15日のニーム・フラメンコ祭、7月のカディスの「フラメンカド」で、父の第2ギターを務めた。
- 代表作2(父に捧げたブレリア): リンバエ公式の『José del Tomate, Limbaé - A mi padre (Bulería)』。2025年2月に公開された約4分のスタジオ演奏で、題は「わが父へ」。12拍で回るブレリアの中で、低音の旋律で語る部分と、和音のかき鳴らし(ラスゲアード)で区切る部分がどう入れ替わるかを聴きたい。リンバエの紹介文は、彼の作品として『Plaza Vieja』と『Oripandó』を挙げている。
- 使用ギター: ギター販売店ソレラ・フラメンカ公式の『José del Tomate – A mi padre (Bulerías)』は、2018年11月公開の約2分の映像で、同店の紹介ページによると、弾いているのは製作家フランシスコ・サンチェスの2018年製である。同じ曲をスタジオ版と聴き比べると、楽器が変わると、低音の響き方と高音の抜け方がどう違うかが分かる。父トマティートについては、1987年製のエルマノス・コンデを弾いていたことが、ギター博物館サイト「flamenco-guitar.net」に記録されている。
- 技法と比較: 叔父ニーニョ・ミゲルは、アルメリア出身でサンブラや独特の和声で知られた人で、ホセがサンブラを弾くのはその系譜である。父が歌の伴奏から独奏へ道を広げたように、ホセも長く第2ギターとして父の音を内側から学んだ。2019年の批評が「再現」と呼んだものは、その学び方の表れでもある。
- いま: 2026年9月25日、バレンシアのテアトレ・エル・ムジカルで、初めての独奏者としての舞台『Sonanta 3.0』(約70分、402席)を上演した。市の紹介文によると、父と一族の遺産をいったん分解し、自分の視点で組み立て直す舞台で、素朴な生のフラメンコから始めて、音響効果や現代的な響きへ広げていく。「激しい断絶ではなく、意識的な進化」とも書かれ、2026年には2枚目のアルバムを予定している。歌はキキ・コルティーニャス、第2ギターはクリストバル・サンティアゴ、打楽器はジョニー・コルテス。
- 入り方: まず王立劇場の映像で「父の息子」としての出発点を、次にリンバエ版『A mi padre』で今の音を聴く。2019年の批評が求めた「迷う勇気」に、『Sonanta 3.0』がどう答えるかが、これからの聴きどころである。
フラメンコバイレ列伝
- 今日の一人はパウラ・コミトレ(Paula Comitre)。1994年10月15日、セビリア生まれ。セビリアの舞踊専門学校(アントニオ・ルイス・ソレール職業舞踊学校)でフラメンコ舞踊を修了した。子どものころは、劇場でアンダルシア舞踊団やエバ・ジェルバブエナの舞台を見るのが好きだったという(シエンポルシエン・フラメンコ)。
- 転機1(舞踊団の群舞から): 2013年にアンダルシア舞踊センターに入り、ラファエラ・カラスコが率いるアンダルシア・フラメンコ舞踊団の群舞に選ばれ、2016年まで在籍した。2017年にはカラスコの舞踊団の『Nacida Sombra(影に生まれて)』でソリスト兼振付を務めた。独り立ちはセビリアのタブラオ「ロス・ガジョス」で、ここでカーニャを磨いたと本人は語る。
- 転機2(2019年、ラ・ウニオンの決勝): 2019年、カンテ・デ・ラス・ミナス祭の踊りの部で決勝に進んだ。本人公式の『Paula Comitre - Alegrías // Final 59 Edición del Festival Internacional del Cante de las Minas』は約10分のアレグリアスで、見どころは、長調の明るいパロの中で、腕の動き(ブラソ)で歌を受ける所と、足の打ち(サパテアード)で速さを上げていく所の切り替えである。同じ決勝のタラントは、踊り手カルメン・ロハスに着想を得た、裾を長く引くドレス(バタ・デ・コラ)で踊った。
- 転機3(2020年、初の独舞): 2020年2月、ヘレス・フェスティバルで初の単独作『Cámara abierta(開いた部屋)』を初演し、新人賞を受けた。終幕はアレグリアスだった。2022年にはパリの国立シャイヨー劇場で『Alegorías(寓意)』を初演し、2023年にはパリの芸術アカデミーの奨学金で5か月の滞在制作をした。
- 代表作2(ピアノとの二人舞台): バルセロナのフラメンコ協会エル・ドラード公式の『Paula Comitre y Orlando Bass. Apres Vous Madame.』。2025年11月17日の公演の約9分で、ピアノのオルランド・バスと二人きりで踊る。ギターも歌もない中で、足音そのものが打楽器になり、ピアノの和音と掛け合う所を見たい。
- 2025年の王立劇場: 2025年6月18〜20日、マドリードの王立劇場で『Cuerpo nombrado(名づけられた体)』を上演した。ギターはフアン・カンパージョ、歌は18・19日がヘスス・コルバチョとエル・ボラ、20日がガブリエル・デ・ラ・トマサ。曲目はファンダンゴとセラーナ、グアヒーラ、タラント、ギター独奏、ミロンガ、カンティーニャ。南米から来た歌(グアヒーラ、ミロンガ)を2曲入れているのが特徴である。
- 踊りの特徴と比較: 師のラファエラ・カラスコが、物語の人物を踊り分ける作り手なら、コミトレは照明、舞台の配置、衣装まで含めて「何を表したいか」から作品を組み立てる。本人は舞台で最も大事なのは「動機、表したい考えや中身」だと言う。タブラオで鍛えた伝統のカーニャやタラントと、ピアノだけの二人舞台の両方を持つのが強みである。
- いま: 2026年、マドリードのセントロ・ダンサ・マタデーロの滞在芸術家となり、新作『Bien vale un imperio(帝国に値する)』を11月6・7日に初演する。20世紀初めにフラメンコとスペイン舞踊を形づくった3人の女性に着想を得た「女性の銀の時代」三部作の第2章で、ギターはフランシス・ゴメス、ペドロ・ロハス・オガジャル、ヘスス・ロドリゲスの3人。2026年10月13日に予告映像が公開された。
フラメンコカンテ列伝
- 今日の一人はヘスス・コルバチョ(Jesús Corbacho)。本名ヘスス・コルバチョ・バスケス。1986年、ウエルバ生まれ。家族から歌好きを受け継ぎ、最初はギターを学んだ。11歳で、ウエルバ県アロスノの「パコ・トロンホ」ファンダンゴ全国賞の子どもの部で優勝し、のちに大人の部でも同じ賞を取った(王立劇場のプログラム、アンダルシア放送の記録)。
- 学び: 2004年、セビリアのクリスティーナ・ヘーレン・フラメンコ芸術財団の奨学生となり、パコ・タラントやホセ・デ・ラ・トマサに学び、助手として教えもした。2005年7月12日、18歳でアンダルシアの放送局カナル・スールの番組に出て、レボージョ風とセペロ風のファンダンゴを歌っている。
- 転機1(2008年、マラゲーニャ): 2008年、ラ・ウニオンの第48回カンテ・デ・ラス・ミナス祭で、マラゲーニャの部の1位を取った。
- 転機2(約20年、踊りのための歌): 以後は踊り手の伴唱を中心に、ベレン・マジャ、ミラグロス・メンヒバル、メルチェ・エスメラルダ、パストーラ・ガルバン、マヌエル・リニャン、オルガ・ペリセらと世界を回った。デ・フラメンコ誌の取材では、「踊りの歌い手」という理由で疑う興行主がいたと語り、踊りの歌を格下に見るのは「ばかげた偏見だ」と言い切った。
- 転機3(2024年、ランパラ・ミネラ): 2024年8月、第63回カンテ・デ・ラス・ミナス祭で、最高賞のランパラ・ミネラを、ミネラとグアヒーラの部で取った。出場は父への捧げもので、その父は2か月後に亡くなった。準備では、歌い手のヘロモ・セグラが家に通い、ミゲル・ポベダが音声メッセージで直しを送ってくれたという。
- 代表作1(決勝のミネラ): デ・フラメンコTV公式の『Jesús Corbacho - Lámpara Minera Cante de las Minas 2024』。約7分のミネラで、拍の決まっていない鉱山の歌で、一つの音をどこまで長く保ち、どこで細かく揺らして下りるかという節回しに注目したい。踊りの伴唱で鍛えた、言葉をはっきり聞かせる発音にも注目したい。
- 代表作2(18歳のファンダンゴ): アンダルシア放送の記録を出すメモランダ公式の『Jesús Corbacho, Lámpara Minera 2024, canta por Fandangos con 18 años (2005)』。約3分で、ウエルバの名人の名を冠したレボージョ風とセペロ風を歌い分ける。決勝のミネラと比べると、19年でどれだけ声が深くなったかが分かる。
- 比較と位置づけ: ウエルバの歌い手には、ファンダンゴを看板にする人が多い。コルバチョは、その土台を持ちながら、ラ・ウニオンで東アンダルシアの鉱山の歌ミネラを制した。本人は「誰かのコピーより自分の声でいたい」と語り、各曲に人生の客を一人ずつ迎えるアルバムを構想し、リケーニかロレとの録音を望んでいる。
- いま: 2026年9月3〜5日、フランスのコンドンのフラメンコ祭に招かれた。11月6日には、セビリアのカハソル劇場の連続公演「フラメンコ・アパルテ」で、珍しい型や詞を集めた独唱会『Cante de Oriente a Occidente(東から西への歌)』を開く。同じ11月6日、マドリードではコミトレの新作が初演される。
フラメンコギター工房だより
- 全履歴を照合し、未紹介のスペイン国内の工房として、バレンシア県トレンテのプルデンシオ・サエス(Prudencio Sáez)を取り上げる。運営は家族経営の会社グイサマ(GUISAMA)。公式サイトによると、1963年、創業者プルデンシオ・サエスが、ほかのギター製作家の下で働いたあとに独立した。今は3代目のプルデンシオ・サエス・マリンが率いる。
- 作り方: 入門用から演奏会用まで、中級品や、胴をえぐって電気で増幅できるモデルも作る。公式サイトは、一部のモデルは「時が止まったかのように」完全な手作りを続けていると書き、生産の大部分を海外へ出している。
- 白の5-FP: マドリードの販売店ギターラス・デ・ルティエールの仕様では、表面板はスプルース(松の仲間)の単板、裏板と側板はシープレス(糸杉)の単板、ネックはシダー、弦長650ミリ、ナット幅52ミリ、ラッカー仕上げで、価格は1,620ユーロ。旧名は「サエス・パレデス・ブランカ(白)」で、速い単音の弾き(ピカード)と、親指の打ち(アルサプーア)がはっきり出る楽器と説明されている。
- 黒の3-FP: 工房公式チャンネルの『Guitarra Flamenco Prudencio Sáez modelo 3-FP (G18)』は約13秒の短い映像で、裏板と側板はパロサント(ローズウッド)、表面板はスプルース、すべて単板で、指板は黒檀。シープレスの白に比べ、ローズウッドの黒は、余韻が長く低音が深い。軽く乾いた音がほしいか、厚い響きがほしいかで選び分ける。
- 聴き比べ: ギター教室チャンネル、ラ・ギターラ・エスパニョーラの『PRUDENCIO SÁEZ 5FP - Guitarra Flamenca profesional Modelo Sáez Paredes [2022]』は約7分の試奏で、シープレスの楽器らしい、立ち上がりの速い乾いた高音を聴ける。
- 意味: フラメンコ・ギターの名工房はアンダルシアとマドリードに多いが、プルデンシオ・サエスは地中海側のバレンシアで、60年以上、手頃な価格帯の本格的な楽器を作り続けてきた。学生がタブラオに立つ前の最初の1本として、伴奏の現場を下から支えている。
フラメンコのパロ解説
- 今日のパロはビダリータ(Vidalita)。もとは南米の民謡で、アルゼンチン北西部のカタマルカ州やトゥクマン州に広く、19世紀初めにウルグアイにも入った(スペイン語版ウィキペディア)。近い歌に「ビダラ」がある。名は「わが命(ミ・ビダ)」から来たという説がある(タブラオ・コルドベス)。
- ビダラとの違い: ビダラのほうがゆっくりで、ビダリータの詞は恋の歌が多く明るいのに、旋律は悲しい。詞の中に「ビダリタ」と最後を強めた呼びかけが何度も入り、歌い手がビダリータそのものに話しかけるように聞こえる。
- 詞の型: ウルグアイの型では、6音節の4行詩の1行目と3行目のあとに「ビダリタ」をはさむ。音楽学者ラウロ・アジェスタランが挙げた例は「白い小鳩よ、ビダリタ、赤い胸よ」と続き、「愛しい人へこの手紙を届けて」と頼む。
- フラメンコでの位置: フラメンコでは、グアヒーラ、コロンビアーナ、ミロンガと並ぶ「行き帰りの歌(カンテス・デ・イダ・イ・ブエルタ)」の一つである。アンダルシアからの移民が南米へ持って行き、形を変えて戻ってきたという昔の考え方からついた名で、名付けたのはカディスの作家フェルナンド・キニョネスとされる。ミロンガとの区別をしない専門家もいる。
- コンパスと調: ソレアやブレリアのような12拍の型は持たない。ギターが「1、2、1、2」とゆったりした2拍子系で刻む上で、歌は言葉ごとに伸び縮みする。踊りの曲ではなく、聴かせる歌である。ファウスティーノ・ヌニェスの三つの旋法で言えば、フラメンコ旋法ではなく、短調・長調の和声の側にある。たとえば短調ならAマイナーとE7の往復を軸に、サビで長調へ明るく開く、といった動きが聴き取れる。
- 代表録音1(マルチェナ): この歌をフラメンコの舞台へ広げたのは、ニーニョ・デ・マルチェナ(ペペ・マルチェナ)である。カレ・レコーズが78回転盤を復刻した『Vidalita: Oye Mi China Querida』は約2分で、ギターはカルロス・ベルデアル。高い声で旋律を甘く伸ばし、語尾を細かく震わせる歌い方を聴きたい。ニーニョ・リカルドのギターで録った『Vidalita de Juan Simón』もある。
- 代表録音2(モレンテ): エンリケ・モレンテの1990年のアルバム『Nueva York - Granada』の『Vidalita de Marchena』(アリオラ配信の公式音源、約3分半)。クレジットにはギターと作曲にサビーカスの名がある。マルチェナの甘さに対し、モレンテは声をこもらせ、間を長く取って、同じ旋律をカンテ・ホンドに近い重さで歌う。
- 代表録音3(いまの舞台): フラメンコマニアTVの『El Granaíno y Antonio Patrocinio (Hijo) - Vidalita de Marchena (Morente) y Dime Ana (Pedro Peña)』。2024年2月9日、マラガのテアトロ・ソーホー・カイシャバンクで、グラナダの歌い手エル・グラナイーノが「モレンテ版のマルチェナのビダリータ」を歌った約8分の映像である。マルチェナからモレンテ、そして今の歌い手へと、同じ曲が受け継がれていく流れが分かる。マイテ・マルティンもアルバム『Querencia』で、フアン・バルデラマ版をもとにした、夢で恋人に会い、目覚めて泣く詞を歌った。
- 聴き分け: グアヒーラ(10月2日に解説)はキューバ由来で、12拍の中で3拍子と2拍子が交互に入る踊りの曲で、長調で明るい。コロンビアーナ(10月10日)はマルチェナが1931年ごろ作ったとされる、ルンバに近い4拍の曲である。ビダリータは決まった拍の型を持たず、歌が拍を待たせるように伸びる、物思いの歌である。
まとめ
- 今日は「続けてきた人」の回。13歳でギターを選び、いま父の遺産を分解し直すホセ・デル・トマテ、20年の伴唱の末に頂点に立ったヘスス・コルバチョ、タブラオから王立劇場へ進み新作を控えるパウラ・コミトレ。60年作り続けるバレンシアのプルデンシオ・サエス、海を往復した歌ビダリータ。コラムの言う通り、大きさを決めるのは家系ではなく続ける力だった。
- お別れの言葉は「ケ・テ・バヤ・ビエン(Que te vaya bien)」。「うまくいきますように」という、別れ際の気づかいである。
参考ソース
- El País「José Luis García Sánchez: había que deshacer la casa」 https://elpais.com/cultura/cine/2026-10-25/jose-luis-garcia-sanchez-habia-que-deshacer-la-casa.html
- ExpoFlamenco「La Reina Gitana se corona en Santiago」 https://expoflamenco.com/revista/la-reina-gitana-se-corona-en-santiago/
- ExpoFlamenco「Las noches peñeras de Moguer」 https://expoflamenco.com/revista/las-noches-peneras-de-moguer/
- ExpoFlamenco「Los tres modos de la guitarra flamenca / ExpoMúsica #17 con Faustino Núñez」 https://expoflamenco.com/revista/los-tres-modos-de-la-guitarra-flamenca-expomusica-17-con-faustino-nunez/
- ExpoFlamenco「ADN Flamenco, al peso」 https://expoflamenco.com/revista/adn-flamenco-al-peso/
- Ateneo de Madrid「José del Tomate trío」 https://ateneodemadrid.com/wp-content/uploads/2024/07/Jose-del-Tomate-trio.pdf
- Universidad de León「Dossier José del Tomate」 https://actividadesculturales.unileon.es/uploads/attachments/61a11df6f26bb_Dossier%20JOS%C3%89%20DEL%20TOMATE.pdf
- DeFlamenco「José del Tomate. Cosas de juventud」 https://deflamenco.com/revista/resenas-actuaciones/jose-del-tomate-cosas-de-juventud.html
- València「Sonanta 3.0 - José del Tomate」 https://www.valencia.es/w/sonanta-3.0-jos%C3%A9-del-tomate-/-guitarra-flamenca
- Solera Flamenca「José del Tomate: A mi padre」 https://www.flamencoguitarsforsale.net/en/?p=16405
- flamenco-guitar.net「Hermanos Conde 1987 Tomatito」 https://flamenco-guitar.net/museum/hermanos-conde/hermanos-conde-1987-guitar-4
- CIENXCIEN Flamenco「Paula Comitre」 https://cienxcienflamenco.com/entrevistas/paula-comitre
- Teatro Real「Paula Comitre. Cuerpo nombrado」 https://www.teatroreal.es/sites/default/files/2025-06/Paula%20Comitre_Programa%20de%20mano.pdf
- Centro Danza Matadero「Paula Comitre artista residente 2026」 https://www.youtube.com/watch?v=xrWMJyGha20
- Bleu Prod「Teaser Bien vale un imperio」 https://www.youtube.com/watch?v=z8p6YnZObt0
- DeFlamenco「Interview Jesús Corbacho」 https://deflamenco.com/english/flamenco-interviews/interview-jesus-corbacho-the-lampara-minera-has-given-me-opportunities-i-didnt-have-before.html
- Planomato「Cante de Oriente a Occidente, Jesús Corbacho」 https://planomato.com/es/sevilla/p/cante-de-oriente-a-occidente-jesus-corbacho
- Prudencio Sáez「Quienes somos」 https://www.guisama.com/quienes-somos/
- Guitarras de Luthier「Prudencio Sáez Modelo 5-FP」 https://www.guitarrasdeluthier.com/en/product/guitar-prudencio-saez-5-fp/2468
- Wikipedia「Vidalita」 https://es.wikipedia.org/wiki/Vidalita
- Wikipedia「Cantes de ida y vuelta」 https://es.wikipedia.org/wiki/Cantes_de_ida_y_vuelta
- Tablao Cordobés「Milonga, vidalita」 https://tablaocordobes.es/?p=5165
- Experience Flamenco「Vidalita」 https://experienceflamenco.com/blog/2015/01/vidalita-viernes-con-una-letra