祖父のギターでラテン・グラミー候補へ、メルセデス・ルハン/ラ・ルピの告白/ぶらんこの歌バンベラ【2026/10/22】

2026-10-22 / スペイン便り


概要

少しずつ積み上げて、遠くまで来た人たちの回です。音楽学者ファウスティノ・ヌニェスが30年かけた曲種事典『Los palos de la A a la Z』を出しました。ギタリスト列伝は、ヘレスの名手の弟子だった祖父にギターを習い、10年の空白を経て初のソロ盤『Origen & Revolución』でラテン・グラミー賞候補になったロルカのメルセデス・ルハン。バイレ列伝は、マラガのホテルの舞台から王立劇場まで踊り、新作『Lo inédito』で自分の弱さを「総告解」したラ・ルピ。カンテ列伝は、8歳でテレビに出て、いまはSP盤の古い歌を学び直す公演『Pizarra』を歌うチクラナのランカピーノ・チコ。工房だよりは、祖父に習ったセビリア県ヒレナの製作家ヘスス・デ・ヒメネス。パロ解説は、ぶらんこを押しながら歌った村の歌から生まれたバンベラを12拍で数えます。今日のスペイン語は「ポコ・ア・ポコ・セ・バ・レホス(少しずつ進めば、遠くまで行ける)」。

▼ 今日のトピック ・ミレイ大統領がマドリードでサンチェス首相を罵倒、外務省が「最も強い非難」 ・ペレス=レベルテの新作『La hipótesis más peligrosa』、地中海を渡る父と子 ・25歳の監督アナ・デ・アルバ(マラガ出身、踊り手の家) ・バスクの音楽家・詩人イゴール・アルスアガ、50歳で死去 ・ファウスティノ・ヌニェス『Los palos de la A a la Z』/マリアノ・クルセタの展示『Tacón [bailar el impacto]』/ムルシアの連続公演「フラメンコス・デル・メディテラネオ」/バルセロナのシウタット・フラメンコ ・ギター列伝: メルセデス・ルハン ・バイレ列伝: ラ・ルピ ・カンテ列伝: ランカピーノ・チコ ・工房だより: ヘスス・デ・ヒメネス(セビリア県ヒレナ) ・パロ解説: バンベラ

▼ 関連リンク(アーティスト・パロ・工房) ・メルセデス・ルハン『Primera Luz』(ホセ・メルセと、本人公式) https://www.youtube.com/watch?v=5piZNaBqCEo ・メルセデス・ルハン『Malaka(マラゲーニャ)』(ランカピーノ・チコと、公式配信) https://www.youtube.com/watch?v=6aTUbNawIiU ・メルセデス・ルハン『Taranta Para Paco』(公式配信) https://www.youtube.com/watch?v=I1p1iWIrL2s ・メルセデス・ルハン『Ahora o Nunca(ブレリア)』2021年(ソレラ・フラメンカ公式) https://www.youtube.com/watch?v=riuqOhTgyB0 ・ラ・ルピ、マントン・デ・マニラの舞台 2026年(舞踊団公式) https://www.youtube.com/watch?v=YkybnAFiEcA ・ミゲル・ポベダとラ・ルピ『アレグリアス』2012年(ミゲル・ポベダ公式) https://www.youtube.com/watch?v=lu6FQh_i4XI ・ラ・ルピ『セラーナ』2013年(舞踊団公式) https://www.youtube.com/watch?v=Dg84YDm8wfc ・ラ・ルピ、テアトロ・フラメンコ・マドリード 2018年(デフラメンコTV) https://www.youtube.com/watch?v=wCp0XjTPMFk ・ランカピーノ・チコ『ソレア』2020年(カナル・アンダルシア・フラメンコ) https://www.youtube.com/watch?v=X3FKeI5Gi7I ・ランカピーノ一家のブレリア 2011年(アンダルシア公共放送アーカイブ) https://www.youtube.com/watch?v=i8Mqiv05rYw ・8歳のランカピーノ・チコ『Veo veo』1996年(アンダルシア公共放送アーカイブ) https://www.youtube.com/watch?v=iIZYlHikFlg ・ヘスス・デ・ヒメネス 2024年製フラメンコギター(セコイア) https://www.flamencoguitarsforsale.net/en/jesus-de-jimenez-guitars/flamenco-guitar-jesus-de-jimenez-2024-secuoya/ ・ラ・ニーニャ・デ・ロス・ペイネス『Bamberas』(ギターはメルチョール・デ・マルチェナ、公式配信) https://www.youtube.com/watch?v=RFuJnUBY6bk ・ホセ・メネセ『バンベラ』2000年(カナル・アンダルシア・フラメンコ) https://www.youtube.com/watch?v=A_y8PSALTXk ・アウロラ・バルガス『バンベラ』1991年(カナル・アンダルシア・フラメンコ) https://www.youtube.com/watch?v=ORHPtCW7Q4w ・エル・ミンブレ、バンベラを踊る 1995年(アンダルシア公共放送アーカイブ) https://www.youtube.com/watch?v=QbkAlLPks_c

▼ 参考記事・ソース ・El Mundo「Exteriores rechaza los “ataques e injurias” de Milei a Pedro Sánchez…」 https://www.elmundo.es/espana/2026/10/21/6ad8d17e21efa0ff4a8b459f.html ・El Mundo「La nueva novela de Arturo Pérez-Reverte…」 https://www.elmundo.es/cultura/literatura/2026/10/20/6ad7071f21efa077598b4595.html ・El Mundo / La Lectura「Ana de Alva, la voz de la nueva generación del cine español」 https://www.elmundo.es/la-lectura/2026/10/20/6ac8d0b0fdddffc46e8b45d6.html ・El Mundo「Muere Igor Arzuaga, músico vasco y artista polifacético, a los 50 años」 https://www.elmundo.es/cultura/2026/10/21/6ad8f55621efa0fb678b4597.html ・ExpoFlamenco「Faustino Núñez publica ‘Los palos de la A a la Z’」 https://expoflamenco.com/faustino-nunez-el-flamenco-es-simple-pero-esta-plagado-de-trucos/ ・El Mundo / La Lectura「”Lo hemos convertido todo en un ‘show’ para turistas…”」 https://www.elmundo.es/la-lectura/2026/10/20/6ac8f715fc6c83d6118b45bd.html ・DeFlamenco「Murcia estrena Flamencos del Mediterráneo…」 https://www.deflamenco.com/revista/noticias/murcia-estrena-flamencos-del-mediterraneo-un-ciclo-estable-de-flamenco-de-noviembre-a-mayo.html ・ExpoFlamenco「Ciutat Flamenco celebra su 33.ª edición en Barcelona…」 https://expoflamenco.com/ciutat-flamenco-celebra-su-33-a-edicion-en-barcelona-con-una-apuesta-por-la-creacion-contemporanea/

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スペイン文化・フラメンコ便り(2026年10月22日)

オープニング:2026年10月22日 — スペイン文化・フラメンコ便り

  • 今日のスペイン語は「ポコ・ア・ポコ・セ・バ・レホス(Poco a poco se va lejos)」。「少しずつ進めば、遠くまで行ける」ということわざで、急がず積み重ねる人を励ますときに使う。日本語の「千里の道も一歩から」に近い。
  • 今日の軸は「根と更新」である。音楽学者ファウスティノ・ヌニェスが、30年かけたフラメンコの曲種事典『Los palos de la A a la Z(パロのAからZまで)』を出した。列伝は、祖父の形見のギターで初のソロ盤を出し、ラテン・グラミー賞の候補になったロルカのギタリスト、メルセデス・ルハン、舞台で自分の「告白」を踊るマラガの踊り手ラ・ルピ、SP盤の古い歌を掘り起こすチクラナの歌い手ランカピーノ・チコ。パロ解説は、ぶらんこの歌から生まれたバンベラを数える。

国際情勢(スペイン視点)

  • アルゼンチンのミレイ大統領は10月21日(水)、マドリードの討論会「ヌエバ・エコノミア・フォーラム」の朝食会で、サンチェス首相を「とんでもない独裁者、犯罪者、泥棒」と呼んだ。11月29日の総選挙が決まってから初めての訪問である。エル・ムンド紙によると、外務省(アルバレス外相)は同日、「最も強い非難」を表明し、「兄弟国の最高位にある人が、スペイン人の間に分断と暴力の空気をあおるためだけに訪れるのは品位に欠ける」とする声明を出した。サンチェスは、ミレイが左派をさげすむ言葉「スルド(左利き)」を逆手に取り、「年金を上げるのが左利きなら、私は左利きだ」という動画を出した。2024年5月の初訪問では不意打ちだった攻撃に、今回は政権が備えていた。スペインにとって中南米は家族と言葉でつながる「兄弟」であり、その国の大統領が選挙前の国内政治に口を出すことへの反発は、左右を問わず強い。

文化・芸能ニュース

  • ペレス=レベルテ、地中海の父子の物語: 作家アルトゥーロ・ペレス=レベルテ(ムルシア州カルタヘナ出身)の新作『La hipótesis más peligrosa(最も危険な仮説)』が10月20日、アルファグアラ社から初版18万部で出た。エル・ムンド紙は、ナポリ沖のプロシダ島で開かれた記者向けの発表会から伝えた。16歳の少年が、会ったことのない父を港に訪ね、船で地中海を東の端まで渡る話で、少年と父はホメロスの『オデュッセイア』のテレマコスとオデュッセウスの遠い写し絵である。本人は、15歳で落第続きだった時、父に2か月、漁船に乗せられた経験を語り、「朝3時に凍えながら起こされた。翌年はちゃんと勉強した」と笑った。30年以上、自分の帆船で地中海を回る作家は、「私の祖国は地中海だ。パリやニューヨークより、プロシダのバルやイスタンブールのカフェの方がくつろげる」と言い、移民の小舟にも触れて「ヨーロッパは地中海に植民し直されるのがふさわしい」と語った。元戦場記者らしい、挑発を含んだ言い方である。
  • 25歳の監督アナ・デ・アルバ: エル・ムンド紙の文化誌ラ・レクトゥーラは10月20日、マラガ県アラウリン・デ・ラ・トーレ出身、2001年生まれの映画監督アナ・デ・アルバを紹介した。芸術家と踊り手の家に生まれ、音楽院で踊りを学び、8年前にミュージカル『グリース』に出るためマドリードへ出た。そこで出会った監督ダビ・セラーノの青春音楽映画の続編『Voy a pasármelo mejor(もっと楽しんでやる)』を2025年に23歳で監督し、80万ユーロを超える興行収入を上げた。前作は200万ユーロを超えていた。続いてネットフリックスのドラマ『Oasis』の2話を監督し、いまは2本目の長編の脚本を書いている。「若い女性として、いつも年齢と女らしさで値踏みされた」「誰も若すぎることはない」と語り、家賃の高騰に抗議してマドリードのソル広場に座り込む同世代の一人でもある。インタビューでは「多くの人が持っているドゥエンデ(魔力)」という、フラメンコの言葉で才能を語っている。
  • バスクの音楽家イゴール・アルスアガ、50歳で死去: エル・ムンド紙は10月21日、バスクの音楽家・詩人イゴール・アルスアガが10月20日(火)に50歳で亡くなったと報じた。死因は公表されていない。1976年、アラバ県リョディオのアレタ地区に生まれ、子どものころはバスクのアコーディオン「トリキティシャ」を通りで弾いた。18歳でバンド「エクスキシュ」に加わり、パンクの4人組「ウネ・ラツァク」ではグリーン・デイと同じ舞台に立った。25歳で最初のソロ盤『Argi izpi bat(一筋の光)』を出し、2025年の『Eider laukotea』まで十数作を出した。バスク語とスペイン語で歌い、2冊の詩集も出し、パリやニューヨークでは地下鉄や路上でも弾いた。10月初め、故郷リョディオの公園の開園式では、彼のピアノ曲が流れたばかりだった。

フラメンコニュース

  • ファウスティノ・ヌニェス、30年の曲種事典: フラメンコ専門誌エクスポフラメンコは10月21日、音楽学者ファウスティノ・ヌニェス(1961年、ガリシアのビーゴ生まれ)が『Los palos de la A a la Z』を自費出版したと伝えた。430ページで、曲種(パロ)と、その中の様式や変種を網羅する。もとは、プロデューサーのヘスス・ボラから頼まれた「全部のパロを説明するウェブサイト」で、依頼が立ち消えた後も一人で続け、解説サイト「フラメンコポリス」に育てた。1990年代末には、アントニオ・ガデス舞踊団の作曲家・ギタリストを辞めた後、同じ題の分冊を出し、7万セットが売れた。カディスのカフェ・デ・レバンテでの取材で、彼は「フラメンコは、音楽院で学んだ人に分からないように作られたような、反アカデミックな音楽だ」と言い、その「隠れた鍵」を「1拍目を沈黙のまま置くこと。弱起(アナクルーシス)に慣れたヨーロッパの音楽では、とても珍しい」と説明した。カンテ・ホンド(深い歌)については、「19世紀のロマン主義の音楽だ」と言い、失われたアンダルシアを探しに来た英仏の旅行者向けに、歌い手が古さを演じた面があったという自説を示した。マドリードでの発表会は10月29日(木)20時、タブラオ・トレロの「ガルシア・ロルカの間」で、入場は無料である。
  • マリアノ・クルセタ、フラメンコを画廊へ: エル・ムンド紙は10月20日、ベテランの振付家マリアノ・クルセタが、マドリード近郊アルコベンダスの現代美術空間エスト・アルト・スペースで『Tacón [bailar el impacto](かかと――衝撃を踊る)』を開いていると報じた。工場を改装した5,500平方メートルの建物の地下に、かつての踊り手たちが残したすり減った靴が円形の黒い布の上に並び、写真と映像が足の衝撃をとらえる。床には15枚の札が置かれ、観客が「ソレア、シギリージャ、ファルーカ、アレグリアス、タンゴ、ブレリア」などの札の前で一度足を踏み鳴らすと、踊り手がその場で踊りを組み立てる。同じ踊りは二度とない。クルセタは「すべてを観光客向けのショーにしてしまった」「フラメンコはかび臭くてはいけない」と言う一方、「ウサギの腹を割いたり裸になったりすれば現代的だと思い込むのは違う」とも語った。展示は2027年1月23日まで、踊り手ボルハ・レブロンの実演は11月7日と28日である。
  • ムルシア、毎月のフラメンコ連続公演: フラメンコ誌デフラメンコは10月21日、ムルシアで「第1回フラメンコス・デル・メディテラネオ(地中海のフラメンコたち)」が始まると伝えた。主催はメディテラネオ財団と制作会社フラメンクムで、2026年11月13日から2027年5月14日まで、毎月1回、金曜に7公演を開く。発表会は今日10月22日、財団のムルシアの本部で開かれる。開幕はグラナダの踊り手イバン・バルガスの『Pellizco(ひとつまみ)』、閉幕はサクロモンテの洞窟で13歳から踊ってきたラ・モネタの『Mujeres del Mediterráneo(地中海の女たち)』。3月12日には今日のバイレ列伝のラ・ルピが『Trece mantones y pico(十三枚と少しのマントン)』を、4月16日には今日のギタリスト列伝のメルセデス・ルハンが『Origen & Revolución』を演奏する。券は1公演15〜25ユーロ、7公演の通し券は120ユーロ(ばらで買えば146ユーロ)。制作会社のルベン・カルデロン代表は「7本の公演を運ぶのではなく、根と大物と地元の才能と次の世代が同居する、定まった場を作る」と語った。
  • バルセロナ、シウタット・フラメンコ: エクスポフラメンコによると、バルセロナの音楽学校タジェ・デ・ムジクスが主催する第33回「シウタット・フラメンコ(フラメンコの都市)」が10月16日から25日まで開かれている。マルタ・ピニョルとホセ・マヌエル・アルバレスが共同で芸術監督を務め、カタルーニャで育った踊りの才能に光を当てる。今夜22日は、2022年の国民舞踊賞の踊り手アナ・モラレスが『Más que baile(踊り以上のもの)』を踊る。23日には即興の踊りの競技会「シウタット・バタジャ」の決勝があり、25日の閉幕では、フラメンコとジャズの間を10年歩いてきたグループ「ロス・アウロラ」が、市の音楽堂ラウディトリで舞台に別れを告げる。
  • アンダルシアの外で語られるフラメンコ: 今日の話題を並べると、ガリシア生まれの学者がカディスで曲種の事典を語り、マドリード近郊の画廊で靴が展示され、ムルシアとバルセロナで連続公演が組まれている。アンダルシアの人々には、自分たちの芸能が首都や他の地方で「国の文化」として語られることへの誇りと戸惑いが同居する。一方、カタルーニャのシウタット・フラメンコは、アンダルシアからの移住者が根づいた街の、自分たちのフラメンコを育てる場として33年続いてきた。

フラメンコギタリスト列伝

  • 今日の一人はメルセデス・ルハン(Mercedes Luján)。本名メルセデス・デル・ロシオ・サンギアオ・オルネロス。1987年、ムルシア州ロルカ生まれ。母はコプラ(スペインの歌謡)の歌手ロサ・マリア・ルハン、父はラジオの司会者ルイス・テリー。最初にギターを手に持たせたのは、父方の祖父で、ヘレス出身のギタリスト「マエストロ・パルミータ」である。パルミータは、ヘレスの名手ハビエル・モリーナの弟子だった。エクスポフラメンコの批評は、彼女を「ロマの家系ではない、パヤの」ギタリストとして紹介し、祖父から「ヘレスの面」を受け継いだと書く。
  • 転機1(母の伴奏と10年の空白): 子どものころは母の公演について全国を回った。本人は「父方はギタリスト、母は歌手。選んだのではなく、決まっていた」と話す。17歳で母の伴奏を始めたが、その後10年、ギターから離れた。いちばん自分を表すパロにはソレアとブレリアを挙げ、家族のヘレスの影響だと説明する。サンバやラテン・ジャズ、祖父の影響で聴くセファルディ(スペイン系ユダヤ人)の音楽も好きだという。
  • 転機2(2017〜2019年、伴奏者として): 2017年、マドリードの若手フラメンコ祭に出て、ギターこそ自分の道だと気づいた。歌い手ロシオ・マルケス、ソルデリータ、ペドロ・エル・グラナイーノの伴奏をし、フアン・バルデラマの公演『Mujeres de carne y verso(肉と詩の女たち)』の旅に加わった。2018年にはスウェーデンのウプサラ国際ギター祭で、カルロス・ピニャーナやムルシア州交響楽団と共演し、2019年にはムルシアのロ・フェロ国際フラメンコ祭のポスターに、女性ギタリストとして初めて登場した。女性の弾き手の見えにくさを描いた記録映画『Tocaoras』にも出ている。
  • 転機3(2021〜2025年、作曲家へ): 本人は、コロナ禍の自宅待機の間に「後ろで弾く音楽家」をやめ、作曲を始めたと語る。SGAE(スペイン著作権協会)の「パコ・デ・ルシア賞」の作曲部門で賞を受け、パコの娘ルシア・サンチェス・バレラから手渡された。対象曲はタランタで、ほかの応募者が楽器を足す中、伴奏を入れずギター1本で臨んだ。「裸のギターの真実をずっと守ってきた。ギターの後ろには隠れられない」と本人は言う。盤は、録音した音楽家がそのまま舞台でも弾く編成で作り、第二ギターを重ねていない。2025年10月24日、初のソロ盤『Origen & Revolución(起源と革命)』を出し、11月7日にロルカのマルガリータ・ロサノ講堂で発表した。その夜は祖父のギターを抱いて、ソレアから弾き始めた。
  • 代表作1(初のソロ盤の先行曲): 本人公式の『Primera Luz(最初の光)』(ホセ・メルセと)。2025年9月に出た約4分15秒の映像で、ヘレスの歌い手ホセ・メルセがタンゴを歌う。説明文が言う「古い打楽器とパルマ」と「今の和声のギターと管楽器」の二層が聴きどころで、タンゴの2拍子の土台の上に、ギターがどんな和音を重ねていくかに注目したい。
  • 代表作2(歌い手との対話): 盤に入った『Malaka(マラゲーニャ)』(ランカピーノ・チコと)。約5分20秒。今日のカンテ列伝のランカピーノ・チコが歌う。拍のない自由なマラゲーニャで、歌の句が終わるたびに、ギターがどの長さの合いの手を返し、次の句の高さをどう用意するかを聴きたい。
  • 代表作3(パコに捧げたタランタ): 『Taranta Para Paco(パコに捧げるタランタ)』。約4分45秒の独奏で、批評家は発表会の夜、「ここで弦が性格を見せた」と書いた。鉱山の歌タランタの、不協和音を含む独特の響きが聴きどころである。2026年4月の独奏会で同じ曲を聴いた批評家は、トレモロ(同じ音を指で速く連打する奏法)の繊細さをほめ、「踊りの伴奏のように素直で甘い」と書いた。
  • 代表作4(ブレリアの現場): ギター専門店ソレラ・フラメンカ公式の『Ahora o Nunca(今か、二度とないか)』(ブレリア)。2021年の約4分30秒の映像で、打楽器はダビ・ドミンゲス、歌はホアキン・ゴメス「エル・ドゥエンデ」。使ったのは2021年製のフェリペ・コンデのギターである。右手のかき鳴らし(ラスゲアード)で区切りを作る箇所に注目すると、批評家の言う「楽器に重みを与える右手」が分かる。
  • 技法の比較: 2026年4月18日、グラナダのペーニャ「ラ・プラテリア」での独奏会を聴いた批評家は、「どの流派にも寄らず、フラメンコでありながら現代的で、同時に古典的に響く」と書き、ソレアでの拍のずらしやシンコペーションの自在さをほめた。一方で、和音を回すだけの部分が多く、彼女だけのファルセータ(独奏の旋律の型)をもっと聴きたいとも注文した。10月13日のジェライ・コルテスが、ギターの響きそのものを壊して組み直すのに対し、ルハンは伝統の型の手前にとどまり、管楽器やベースを外側に足して更新する。
  • いま: 『Origen & Revolución』は、11月12日にラスベガスで開かれる第27回ラテン・グラミー賞の最優秀フラメンコ・アルバム部門の候補である。競う相手は、ジェライ・コルテスの『POPULAR』、10月8日のカンテ列伝のマイテ・マルティンの『In Illo Tempore』、ホセ・メルセのマヌエル・アレハンドロ作品集。故郷ロルカの市長は「ロルカの名を連れて歩く大使」と祝った。2025年11月にはセルビアのベオグラードでも演奏し、2027年4月16日にはムルシアの連続公演に立つ。
  • 位置づけと入り方: 女性のギタリストが舞台の中央で独奏することがまだ珍しい世界で、伴奏者から作曲家へ移った人である。まず『Ahora o Nunca』で右手の力を、次に『Malaka』で歌への寄り添い方を、最後に『Primera Luz』で管楽器と打楽器を含む「革命」の側を聴くと、題名の「起源と革命」の両方が見えてくる。

フラメンコバイレ列伝

  • 今日の一人はラ・ルピ(La Lupi)。本名スサナ・ルピアニェス・ピント。1971年8月22日、マラガ生まれのロマ(ヒターナ)の踊り手である。12歳でコスタ・デル・ソルのホテルやタブラオを回る小さな舞踊団に入り、14歳で踊り手ハビエル・モレノと二人組を作って自分で振付をし、17歳で大きなナイトクラブの舞踊団に入った。同時にマラガの高等舞踊音楽院でスペイン舞踊を学び、優秀な成績で修了した。
  • 転機1(マドリードと自分の一座、1990年代): 踊る姿を見たギタリストのフアン・マヤ「マローテ」が、彼女をマドリードへ連れて行った。アンヘレス・アランスの舞踊団で3年、全国を回った後、1999年に自分の「ラ・ルピ舞踊団」を作った。2007年8月25日には、カディスのペーニャ「ラ・ペルラ・デ・カディス」の全国コンクールで、シギリージャの自由舞踊の1位とアレグリアスの2位を取った。
  • 転機2(2012〜2015年、大舞台): 2012年から2年間、歌い手ミゲル・ポベダの公演『arteSano』の旅に加わり、アレグリアス、ベルディアーレス、セビジャーナス、トリアナのタンゴ、ナナ(子守歌)、ブレリアの6曲を踊って、マドリードの王立劇場での収録にも残った。2015年には国立バレエ団から振付を頼まれ、タンゴ『La fonda de Carmencita(カルメンシータの宿)』を作品『Zaguán』に入れた。2014年の『Cartas a Pastora(パストーラへの手紙)』は、20世紀前半の大舞踊家パストーラ・インペリオへの讃歌で、2016年のマックス賞の最優秀舞踊家の候補になった。
  • 転機3(2025〜2026年、『Lo inédito』): 2025年7月、マラガのフラメンコ・ビエナルで新作『Lo inédito(未発表のもの)』を初演し、2026年3月7日、ヘレス・フェスティバルの最終夜をヘレスのビジャマルタ劇場で締めた。演出はアルベルト・ベラスコ、第4場の「外の目」はエバ・ジェルバブエナ、歌はアルフレド・テハダ、ギターはアントニオ・ゴンサレス、共演の踊り手はミゲル・アンヘル・コルバチョとイバン・アマヤ。舞台は首のないマネキンと開けかけの木箱が並ぶ倉庫のようで、黄色の衣装の彼女が、人形のように動かされることに反抗する場面から始まる。
  • 代表作1(いまの関心): 本人の舞踊団公式の『マントン・デ・マニラをめぐる絵物語の舞台』(2026年)。2026年5月に公開された約1分50秒の映像で、刺しゅうの大きな肩掛け「マントン・デ・マニラ」を主役にした新しい企画の紹介である。布が腕の延長になって空中で開き、身体の回転とともに落ちてくる瞬間に、マントンの重さと遅れが見える。2027年3月にムルシアで上演する『Trece mantones y pico』へつながる仕事である。
  • 代表作2(ポベダとの舞台): ミゲル・ポベダ公式の『アレグリアス』(コルドバ・ギター祭、2012年7月11日)。コルドバのアクセルキア劇場での約6分20秒の記録である。ポベダの歌の句の間で、彼女が上体と腕で歌を受け、明るいアレグリアスの足技(サパテアード)へ切り替える瞬間を見てほしい。
  • 代表作3(山の歌を踊る): 本人の舞踊団公式の『セラーナ』(マラガ、テアトロ・カノバス、2013年2月27日)。約8分50秒。10月16日に解説したロンダの山の歌セラーナを、シギリージャと同じ重い拍で踊る。足技を急がず、腕(ブラソ)の大きな弧と止まる瞬間で、山の孤独を描いていく構成に注目したい。
  • 代表作4(タブラオの近さ): デフラメンコTVの『ラ・ルピ、そのままの姿で』(テアトロ・フラメンコ・マドリード、2018年10月15日)。歌はアルフレド・テハダとダビ・エル・ガジ、ギターはクーロ・デ・マリア。約6分15秒で、ギターと歌の2人を目で見ながら、足の連打の終わりをコンパスの区切りにぴたりと合わせる呼吸が見どころである。
  • 技法と比較: ルピの持ち味は、マントンや扇のような道具を体の一部のように使うことと、喜劇の間合いである。エクスポフラメンコの批評は、『Lo inédito』の冒頭を、悪夢になりかねない場面を「明らかに喜劇の側へ持っていった」と書いた。10月16日のアンドレス・マリンが音を減らし、型そのものを崩して問いを立てたのに対し、ルピは古い型と庶民的な笑いを、舞台の言葉としてそのまま残す。教師としても知られ、2026年の舞踊団の資料は、彼女の教室からロシオ・モリーナ(9月22日などのバイレ列伝)らが育ったと書く。
  • 本人の言葉: 『Lo inédito』の中で、彼女はマイクの前で「総告解」をする。批評家が書き留めた言葉は、「足のために喪に服したことを告白します」「踊っている時の自分の顔が好きではありません」「なりたかった踊り手になれなかった自分を許しました」。最後は仮面をつけたまま、ソレア・アポラとチャラムスコのソレアを踊り、身につけた物を一つずつ外していく。
  • 位置づけと入り方: マラガのホテルの舞台から王立劇場まで、40年以上、舞台に立ち続けてきた人である。まず2012年の『アレグリアス』で明るい踊りの芯を、次に2013年の『セラーナ』で重い拍の踊りを、最後に2026年のマントンの映像で今の関心を見ると、「型を守る人」が自分をさらけ出す舞台へ進んだ道筋がつかめる。

フラメンコカンテ列伝

  • 今日の一人はランカピーノ・チコ(Rancapino Chico)。本名アロンソ・ヌニェス・フェルナンデス。1988年7月12日、カディス県チクラナ・デ・ラ・フロンテーラ生まれ。父は大歌手アロンソ・ヌニェス・ヌニェス「ランカピーノ」、母はフアナ・フェルナンデス・ヌニェス。叔父に歌い手オリージョ・デル・プエルト、曽祖母に「ラ・オビスパ」がいる。父によれば、「この子は、話し始める前から歌を口ずさんでいた」。チクラナは、10月14日のカンテ列伝のアントニオ・レジェスと同じ町である。
  • 転機1(1996年、テレビの子ども): ビエナルの資料によると、6歳でアンダルシアの公共放送の子ども番組『Veo Veo』に出て、新人賞を取った。公共放送の記録庫に残る1996年10月15日の決勝の映像では、8歳でタンゴを歌っている。賞を手渡したのは大歌手フォスフォリートである。その後、カディスのファリャ劇場で、ギタリストのパコ・セペロの伴奏でデビューし、チャノ・ロバト、フアン・ビジャールらと同じ舞台に立った。10歳でギタリストのフアン・アビチュエラへの讃歌盤に参加し、エンリケ・モレンテ、エストレージャ・モレンテ、ミゲル・ポベダと名を並べた。
  • 転機2(2010〜2019年、大人の歌い手へ): 22歳でチクラナのペーニャのコンクールで1位を取った。歌ったのはマルティネーテ、ファンダンゴ、ブレリアである。2014年ごろから大きな夏の祭りに次々と呼ばれ、2016年にロマ文化賞の若手創作者部門を受け、2019年には、踊り手マヌエラ・カラスコが本賞を受けた同じ回に、クルスカンポ財団の第32回コンパス・デル・カンテの新人賞「ヌエボ・コンパス・デル・カンテ」を受けた。2019年、最初の盤『Por mi amor al arte(芸を愛するがゆえに)』を出した。ある宴を丸ごと録った盤で、闘牛士クーロ・ロメロ、歌い手パンセキート、フアン・ビジャール、踊り手マヌエラ・カラスコ、クリスティナ・オヨスらが加わった。
  • 転機3(2026年、30年と『Pizarra』): 2026年1月、ヘレスのペーニャ「ブエナ・ヘンテ」が、プロとしての30年を記念する会を開き、会場は入り切れない人であふれた。9月15日には、セビリア・ビエナルの王宮アルカサルの「旗の中庭」で『Pizarra(ピサラ)』を歌った。ピサラは「石板」の意味で、フラメンコでは、1分間に78回転のSP盤を指す。マヌエル・トーレ、アントニオ・チャコン、ラ・ニーニャ・デ・ロス・ペイネスらが3分ずつ録り残した歌を、ビエナルの紹介文の言葉で「旧約聖書」として歌い直す公演である。ギターはアントニオ・イゲーロとラファエル・ロドリゲス、踊りはルイス・ペーニャ。
  • 代表作1(芯の歌): アンダルシア公共放送系のカナル・アンダルシア・フラメンコの『ソレア』(番組『Música para mis oídos』、2020年)。約4分の映像である。ソレアの12拍の区切りの中で、句の頭をどれだけ遅らせ、どこで声をかすれさせるかを聴きたい。ビエナルの批評家が「キャラメルの声」と呼んだ、甘くかすれた声質がいちばんよく分かる。
  • 代表作2(家族の歌): アンダルシア公共放送の記録庫の『ランカピーノ一家のブレリア』(番組『El Sol, la Sal y el Son』、2011年1月31日)。約3分40秒で、父ランカピーノを家族が囲み、息子も加わる。父と子の声が一節ずつ受け渡される箇所で、同じ家の節回しが二つの声でどう違うかを聴き比べたい。
  • 代表作3(ギターとの共作): メルセデス・ルハンの盤の『Malaka(マラゲーニャ)』。発表会では、マラゲーニャとアバンドラオ(マラガの拍のある歌)を続けて歌い、批評家は「深みと奥行きを与えた」と書いた。拍のないマラゲーニャで、長く伸ばす声が最後にどの高さへ下りてくるかに注目したい。
  • 代表作4(8歳の記録): アンダルシア公共放送の記録庫の『8歳で歌う『Veo veo』』(1996年10月15日の決勝)。ギターはランプリ・デ・チクラナ。約3分40秒のタンゴで、子どもの声で、すでにタンゴの拍の頭を少し遅らせて入る「間」が身についていることが分かる。2019年の『ブレリア』(エスメラルダ・ランカピーノと、ギターはアントニオ・イゲーロ)と並べると、30年の変化が聴こえる。
  • 声と比較: ビエナルの資料は、彼の手本をラ・ペルラ・デ・カディス、エンリケ・エル・メジーソ、フアン・タレガ、パコ・トロンホ、そして父の流れのマノロ・カラコル、アントニオ・エル・デ・ラ・カルサ、カマロン、アウレリオ・セジェス、フアニート・バルデラマと挙げる。同じチクラナのアントニオ・レジェスが柔らかく揺れる節で聴かせるのに対し、ランカピーノ・チコはカディスの塩気のある明るい歌と、カラコルゆずりの太い声の両方を持つ。
  • 本人の言葉: 30年記念の会の後、出来を問われて「いつも同じように乗れるわけじゃない」と笑った。『Pizarra』の公演では「その時、霊感が命じることをやる」と予告し、王宮では父の名曲『Las Tres Gracias(三美神)』のアレグリアスも歌った。
  • 位置づけと入り方: テレビの子どもから、古いSP盤を学び直す大人の歌い手へ育った人である。まず1996年の『Veo veo』で子どもの声を、次に2020年の『ソレア』で今の声の芯を、最後に『Malaka』で同世代のギタリストとの対話を聴くと、カディスの歌の家の30年が一本の線になる。

フラメンコギター工房だより

  • 全履歴を照合し、未紹介のスペイン国内の製作家として、セビリア県ヒレナのヘスス・デ・ヒメネス(Jesús de Jiménez)を取り上げる。1973年、セビリア県オスナ生まれ。2000年に、オスナから南東へ約30キロの小さな町ヒレナに工房を開いた。
  • 祖父から: 専門店ソレラ・フラメンカの紹介によると、子どものころからギターを弾き、その音の美しさに引かれて、20歳で製作に興味を持った。最初に手ほどきをしたのは、名の知れたギタリストで、余暇にギターを作っていた祖父である。今日のギタリスト列伝のメルセデス・ルハンも、ギタリストの祖父から楽器を受け取った。祖父から孫へという同じ形で、一方は弾き手、一方は作り手になった。
  • 使った弾き手: 楽器はパコ・デ・ルシア、10月7日のギタリスト列伝で紹介したマノロ・フランコ、ニーニョ・デ・プーラが使ったとされる。米国の楽器市場には、2013年の「マノロ・フランコ・セリエ・オロ」という黒い楽器の出品も見られる。
  • 2024年の「セコイア」: ソレラ・フラメンカは、自分たちで仕入れたセコイアの木材を腕のいい製作家たちに配り、特別な楽器を頼んだ。ヒメネスの2024年製は、表板がセコイア、側板と裏板がシープレス、弦長655mm、12フレットの弦高2.8mm、ナット幅53mm、重さ1,320g、セラックを手で塗り重ねるフレンチポリッシュ仕上げである。専門店は、セコイアを「杉の速さと明るさに、松の甘さと低音を合わせた響き」と説明し、『2024年製フラメンコギター(セコイア)』の紹介では、低音が楽器全体を震わせ、高音が澄んで遠くへ届くと評した。
  • 2021年製と比べる: 同じ店の2021年製は、表板がドイツ松、側板と裏板がローズウッド、弦長650mm、弦高3.2mm、ナット幅52mm、重さ1,540g。2024年製のセコイアと比べると、220g重く、弦高は0.4mm高い。10月19日のアンドレス・ドミンゲスの1997年製(1,430g)は、ちょうどその間に入る。同じ「フラメンコギター」でも、重さは楽器ごとに200g以上違う。軽い楽器は反応が速く、踊りの伴奏で足音に負けにくい。重い楽器は低音が太く、歌の伴奏や独奏で響きが残る。
  • 町の工房: ヒレナは、セビリア県の東の端、コルドバ県とマラガ県に近い丘の町である。大都市の大工房ではなく、農村の町の一人の工房から、パコ・デ・ルシアの手に渡る楽器が出てきた。日本でも、地方の町の一人の職人が、世界の演奏家から注文を受けることがある。腕と口コミが、場所を越える。

フラメンコのパロ解説

  • 今日のパロはバンベラ(Bambera)。複数形でバンベラスとも呼ぶ。名の由来は、アンダルシアの村の「バンバ」、つまりぶらんこである。アンダルシア州観光局の解説によれば、旋律が大きく揺れることから「カンテ・デル・コルンピオ(ぶらんこの歌)」とも呼ばれた。ぶらんこを押しながら歌う民謡がもとで、フラメンコに取り込まれた「アフラメンカミエント(フラメンコ化)」の最も分かりやすい例の一つとされる。
  • ぶらんこの場面: 英語版の百科事典の解説によれば、クルミの大木に二人乗りのぶらんこを吊るし、恋人たちが座り、周りの人々が押しながら歌った。歌い手たちは即興の句で答え合い、恋の不満、嫉妬、優しさを歌った。歌が「バンバ」や「メセデーロ(揺らす歌)」と呼ばれたのはそのためである。
  • ラ・ニーニャ・デ・ロス・ペイネスの仕事: 今の形を作ったのは、10月11日などのカンテ列伝で紹介したセビリアの大歌手ラ・ニーニャ・デ・ロス・ペイネス(パストーラ・パボン、1890〜1969年)である。観光局の解説によれば、パストーラは民謡の歌詞をいくつも集めてフラメンコの性格を与え、ファンダンゴの拍に合わせて歌った。「ソレアの拍だった」と書かれることが多いが、そうではないという。
  • 拍の変化(諸説あり): その後、セビリアの歌い手ナランヒート・デ・トリアナとギタリストのパコ・デ・ルシアが、パストーラの旋律を残したまま、拍をソレア・ポル・ブレリアに変えた。英語版の百科事典も、12拍の型を決めたのはナランヒートだとする。フォスフォリートとパコの録音を挙げる解説もあり、誰が最初かは一つに決まっていない。今のバンベラは、この12拍で歌われる。
  • コンパス: ソレア・ポル・ブレリアの12拍で、強いのは3、6、8、10、12拍目である。「イチ、に、サン、し、ご、ロク、しち、ハチ、く、ジュウ、じゅういち、ジュウニ」と数える。前半の1〜6拍は3拍ずつの二つに、後半の7〜12拍は2拍ずつの三つにまとまる。ソレアより速く、ブレリアより遅い中くらいの速さで、ぶらんこが行って戻る揺れのように、前半はゆったり、後半は小刻みに弾む。パルマは強い拍を打ち、裏で弱く刻む。
  • 調性とコード進行: ギターは「ポル・アリーバ」、つまりEの位置で伴奏する。和音は、Am、G、F、Eと下りてEで止まる「アンダルシア終止」が骨組みで、Eの響きはフリジア旋法(ミの音から始まる、半音で終わる独特の音階)の色を持つ。歌の揺れる句の間は明るく響き、観光局の解説が言うように、句の締め(レマーテ)は短調の響きへ戻る。カポは、歌い手の声の高さに合わせて付ける。
  • レトラ(歌詞): 1連は、8音節の4行の詩(コプラ)である。パストーラの録音の題『Entre sábanas de Holanda(オランダ布のシーツの間で)』『Eres palmera y yo dátil(あなたはヤシの木、私はナツメヤシの実)』が示すように、恋の甘さとからかいが中心で、二人の距離を植物や布にたとえる。ぶらんこの上の恋人たちが言葉を投げ合った名残が、短い問答のような句に残っている。
  • カンテ、バイレ、ギターの聴きどころ: 歌は、句の頭で一度高く上がり、ゆっくり下りてくる旋律の弧が「ぶらんこ」である。踊りは、ソレア・ポル・ブレリアと同じ型で、呼びかけの「ジャマーダ」、歌を受ける部分、足技を続ける「エスコビージャ」を経て、最後は速いブレリアで締めることが多い。ギターは、12拍の後半の小刻みな刻みで揺れを作り、句の終わりでEの和音に落ち着かせる。
  • 代表録音1(原型): 『Bamberas: Entre Sábanas de Holanda / Eres Palmera y Yo Dátil』(ラ・ニーニャ・デ・ロス・ペイネス、ギターはメルチョール・デ・マルチェナ、公式配信)。約2分50秒。ギターは10月10日のギタリスト列伝で紹介したメルチョール・デ・マルチェナである。パストーラの声が、一つの句の中で何度も上下に揺れる箇所を聴くと、「ぶらんこの歌」という名の意味が分かる。今の12拍の録音より、拍の取り方がゆるやかなことにも注目したい。
  • 代表録音2(12拍の歌): アンダルシア公共放送系の『バンベラ』(ホセ・メネセ、ギターはアントニオ・カリオン、2000年)。番組『La Venta del Duende』の約5分の映像である。メネセの硬く強い声が、12拍のどこで句を始め、どこで切るかを数えながら聴くと、パストーラの録音とのコンパスの違いがはっきりする。
  • 代表録音3(祭りの歌): 同じく『バンベラ』(アウロラ・バルガス、ギターはニーニョ・ヘロとモライート・チコ、1991年)。番組『La Puerta del Cante』で、カディス県アルコス・デ・ラ・フロンテーラの農園で撮った約5分の映像である。バイオリンやフルートも入るにぎやかな伴奏の中、セビリアの歌い手アウロラのくだけた節回しで、メネセとは正反対の陽気な解釈が聴ける。
  • 代表録音4(踊り): アンダルシア公共放送の記録庫の『バンベラを踊るエル・ミンブレ』(1995年4月18日)。セビリアの踊り手マヌエル・コラレス「エル・ミンブレ」の約5分30秒の映像である。12拍の後半の小刻みな刻みを、上体の装飾的な動きと足の細かい連打でどう見せるかに注目したい。
  • 似たパロとの聴き分け: ソレア・ポル・ブレリアとは、拍と和音が同じなので、旋律で聴き分ける。句の頭で大きく上がって揺れながら下りる「ぶらんこ」の旋律と、恋の問答のような歌詞があればバンベラである。ファンダンゴとは、拍で分ける。パストーラの古い録音はファンダンゴの3拍子系に近く、今のバンベラは12拍で数えられる。

まとめ

  • 2026年10月22日のスペインは、根を掘り直す人たちの一日だった。30年かけてパロを事典にしたヌニェス、祖父のギターから「起源と革命」へ進んだメルセデス・ルハン、舞台で自分の弱さを告白したラ・ルピ、SP盤の歌を学び直すランカピーノ・チコ、祖父に習ったヒレナの製作家、そしてぶらんこの民謡から12拍のフラメンコになったバンベラ。少しずつ進んだ人が、遠くまで来ていた。
  • 別れは「アスタ・ラ・プロクシマ(Hasta la próxima)」。「また次の機会に」という、再会を約束する別れの言葉である。

参考ソース

  • 国際: El Mundo「Exteriores rechaza los "ataques e injurias" de Milei a Pedro Sánchez…」(2026年10月21日) https://www.elmundo.es/espana/2026/10/21/6ad8d17e21efa0ff4a8b459f.html
  • 文化: El Mundo「La nueva novela de Arturo Pérez-Reverte: "Europa merece que el Mediterráneo la recolonice…"」(2026年10月20日) https://www.elmundo.es/cultura/literatura/2026/10/20/6ad7071f21efa077598b4595.html
  • 文化: El Mundo / La Lectura「Ana de Alva, la voz de la nueva generación del cine español」(2026年10月20日) https://www.elmundo.es/la-lectura/2026/10/20/6ac8d0b0fdddffc46e8b45d6.html
  • 文化: El Mundo「Muere Igor Arzuaga, músico vasco y artista polifacético, a los 50 años」(2026年10月21日) https://www.elmundo.es/cultura/2026/10/21/6ad8f55621efa0fb678b4597.html
  • フラメンコニュース: ExpoFlamenco「Faustino Núñez publica 'Los palos de la A a la Z'」(2026年10月21日) https://expoflamenco.com/faustino-nunez-el-flamenco-es-simple-pero-esta-plagado-de-trucos/ /ExpoFlamenco「…presenta en el Tablao Flamenco Torero su nuevo libro」 https://expoflamenco.com/el-reputado-musicologo-faustino-nunez-presenta-en-el-tablao-flamenco-torero-su-nuevo-libro-los-palos-de-la-a-la-z/ /El Mundo / La Lectura「"Lo hemos convertido todo en un 'show' para turistas…"」(2026年10月20日) https://www.elmundo.es/la-lectura/2026/10/20/6ac8f715fc6c83d6118b45bd.html /DeFlamenco「Murcia estrena Flamencos del Mediterráneo…」(2026年10月21日) https://www.deflamenco.com/revista/noticias/murcia-estrena-flamencos-del-mediterraneo-un-ciclo-estable-de-flamenco-de-noviembre-a-mayo.html /ExpoFlamenco「Ciutat Flamenco celebra su 33.ª edición en Barcelona…」(2026年10月19日) https://expoflamenco.com/ciutat-flamenco-celebra-su-33-a-edicion-en-barcelona-con-una-apuesta-por-la-creacion-contemporanea/
  • ギター列伝: FOML「Mercedes Luján」 https://fomlorca.org/proyectos/lorca-con-nombre-de-mujer/mercedes-lujan/ /Murcia.com(ロルカ市)「La guitarrista lorquina Mercedes Luján nominada a los Latin Grammy 2026…」(2026年9月16日) /Solera Flamenca「"Ahora o Nunca", Mercedes Luján…」 https://www.flamencoguitarsforsale.net/en/ahora-o-nunca-mercedes-lujan-the-ambassador-of-the-flamenco-guitar-in-solera-flamenca/ /La Estrategia del Caracol「Entrevista a Mercedes Luján」(2025年11月) https://laestrategiadelcaracol.com/2025/11/entrevista-a-mercedes-lujan-origen-revolucion-y-su-pasion-por-la-guitarra-flamenca/ /ExpoFlamenco「La nieta de El Palmita y su puente sonoro」(2025年11月8日) https://expoflamenco.com/la-nieta-de-el-palmita-y-su-puente-sonoro/ /ExpoFlamenco「La renovación del toque en femenino: Mercedes Luján」(2026年4月19日) https://expoflamenco.com/la-renovacion-del-toque-en-femenino-mercedes-lujan/ /ExpoFlamenco「Yerai, Luján, Mayte y Mercé competirán por el Grammy Latino」(2026年9月18日) https://expoflamenco.com/yerai-lujan-mayte-y-merce-competiran-por-el-grammy-latino/
  • バイレ列伝: Festival de Jerez 2026『Lo inédito』資料 https://www.festivaldejerez.es/wp-content/uploads/2026/03/LA-LUPI-DOSSIER.pdf /Flamencología「La Lupi」 https://www.flamencologia.org/la-lupi/ /Málaga Magazine「La Lupi: "Soy más malagueña que el cenachero"」 https://www.malagamagazine.es/la-lupi-soy-mas-malaguena-que-el-cenachero-entrevista/ /ExpoFlamenco「La confesión general de La Lupi」(2026年3月8日) https://expoflamenco.com/festival-de-jerez-la-confesion-general-de-la-lupi/
  • カンテ列伝: Bienal de Flamenco 2026「Rancapino Chico – Pizarra」 https://www.labienal.com/programa-general/real-alcazar/rancapino /DeFlamenco「Rancapino Chico」 https://www.deflamenco.com/revista/cante/rancapino-chico-3.html /ExpoFlamenco「Rancapino Chico viaja con éxito por el 'antiguo testamento de lo jondo'」(2026年9月16日) https://expoflamenco.com/rancapino-chico-viaja-con-exito-por-el-antiguo-testamento-de-lo-jondo/ /ExpoFlamenco「Rancapino Chico: 30 años de cante joven」(2026年2月1日) https://expoflamenco.com/rancapino-chico-30-anos-de-cante-joven/
  • 工房: Solera Flamenca「Jesús de Jiménez guitars」 https://www.flamencoguitarsforsale.net/en/jesus-de-jimenez-guitars/ /「Flamenco guitar Jesús de Jiménez 2021」 https://www.flamencoguitarsforsale.net/en/jesus-de-jimenez-guitars/flamenco-guitar-jesus-de-jimenez-2021-26/
  • パロ: Andalucía.org「Bamberas」 https://www.andalucia.org/es/bamberas /Wikipedia(英語)「Bambera」 https://en.wikipedia.org/wiki/Bambera

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