バルセロナの声とギター、カルメン・アマヤの大姪、ヒターノの町のルンバ【2026/10/18】
2026-10-18 / スペイン便り
概要
共作盤『Ofrenda』から1年を迎えた歌い手アルバ・カルモナとギタリストのヘスス・ゲレーロ、今夜マドリードで新作『Carmen』を踊るカルメン・アマヤの大姪カリメ・アマヤの歩みと、キューバとバルセロナを往復して育ったルンバのコンパス「3+3+2」を掘り下げます。今日のスペイン語は「キエン・カンタ、ス・マル・エスパンタ(歌う者は災いを追い払う)」。
▼ 今日のトピック ・サンチェス首相、総選挙を前に妻を伴って集会 ・プラネタ賞はイサベル・アジェンデ、最終候補に32歳のセルヒオ・エルナンデス/ペネロペ・クルス『La invitación』/6人兄弟のバンド「エンビード6」 ・カルメン・リナレス『女性のカンテ選集』30周年の再演、アリシア・モラレスとトリニダ・ヒメネス、ベナルマデナのフラメンコ週間 ・ギター列伝: ヘスス・ゲレーロ ・バイレ列伝: カリメ・アマヤ ・カンテ列伝: アルバ・カルモナ ・工房だより: グラナダの製作家アントニオ・ラヤ・パルド ・パロ解説: ルンバ
▼ 関連リンク(アーティスト・パロ・工房) ・ヘスス・ゲレーロ『Rafaela (Rondeña)』カタルーニャ音楽堂公演(本人公式) https://www.youtube.com/watch?v=_0nU5baZzoc ・ミゲル・ポベダ&ヘスス・ゲレーロ『¡AY! (Caña)』(ポベダ公式) https://www.youtube.com/watch?v=cmfeFXsAKg4 ・ヘスス・ゲレーロ『Café Noir』2025年ロンドン公演(モザイク・シリーズ公式) https://www.youtube.com/watch?v=9sQKPd3nx98 ・ヘスス・ゲレーロ『Calma (Granaína)』(公式配信) https://www.youtube.com/watch?v=hFv_OsNK8-Q ・カリメ・アマヤ『シギリージャ』第40回アントニオ・マイレナ記念祭(主催ペーニャ公式) https://www.youtube.com/watch?v=wZ36zf1gSgE ・カリメ・アマヤ『ソレア』カサ・パタス 2019年(カサ・パタス公式) https://www.youtube.com/watch?v=1wgw_483o4g ・カリメ・アマヤ『Con Carmen Amaya en la memoria』(タブラオ・コルドベス公式) https://www.youtube.com/watch?v=HH2oFlv7Nhw ・アルバ・カルモナ『Ay amor (Montañesa)』(本人公式) https://www.youtube.com/watch?v=66LiFzVNJpk ・アルバ・カルモナ&ヘスス・ゲレーロ『Pequeño Vals Vienés』(本人公式) https://www.youtube.com/watch?v=k4BNEeD3eZA ・アルバ・カルモナ&ヘスス・ゲレーロ『El oro』(本人公式) https://www.youtube.com/watch?v=VbhXJRENAqY ・アントニオ・ラヤ・パルド 1982年製フラメンコギター https://www.flamencoguitarsforsale.net/en/sold/flamenco-guitar-antonio-raya-pardo-68-1982/ ・パコ・デ・ルシア『Entre dos aguas』(公式配信) https://www.youtube.com/watch?v=0vq3qZwaXrw ・ペレ『Borriquito』(スペイン国営放送の映像、公式) https://www.youtube.com/watch?v=5nchCNteFm0
#スペイン #フラメンコ #ギター #バイレ #カンテ #ルンバ #ずんだもん
スライド(クリックで展開)
スペイン文化・フラメンコ便り(2026年10月18日)
オープニング:2026年10月18日 — スペイン文化・フラメンコ便り
- 今日のスペイン語は「キエン・カンタ、ス・マル・エスパンタ(Quien canta, su mal espanta)」。「歌う者は、自分の災いを追い払う」という古いことわざで、つらい時ほど歌えという励ましにも使われる。
- 今日の軸はバルセロナとフラメンコである。バルセロナ育ちの歌い手アルバ・カルモナと、公私のパートナーでカディス県サン・フェルナンド出身のギタリスト、ヘスス・ゲレーロの二人組が、共作盤『Ofrenda』の発売からちょうど1年を迎えた。今夜マドリードで新作『Carmen』を踊るカリメ・アマヤは、バルセロナの浜辺の集落で生まれたカルメン・アマヤの血を引く。パロ解説は、バルセロナのヒターノの町で育ったルンバを数える。
スペイン国内ニュース
- 11月29日の総選挙を前に、サンチェス首相は10月17日、マドリード近郊フエンラブラダの集会に妻ベゴーニャ・ゴメスを伴い、約3,000人の前で「私たちは壊されかけたが、いまはより強い。愛している」と語った。妻は影響力行使と公金横領の容疑で裁判を待つ身で、右派のエル・ムンド紙は、その妻が3,000人の喝采を浴びたことを見出しに取った。
文化・芸能ニュース
- プラネタ賞の最終候補に32歳のバレンシア人: 賞金100万ユーロで、受賞者アジェンデが「スペイン語で最も重要な賞」と呼ぶプラネタ賞が10月16日、バルセロナで発表された。受賞はチリ出身のイサベル・アジェンデ(84歳)の『La hora antes del alba(夜明け前の一時間)』で、『精霊たちの家』の続編である。最終候補には、1994年生まれのバレンシアの文献学者で脚本家のセルヒオ・エルナンデスの『La añoranza(郷愁)』が選ばれた。1959年、独裁下のスペインを舞台に、恋と亡命を描き、フランスのコリウールに眠る詩人アントニオ・マチャドを亡命の象徴として登場させる。エルナンデスは「内戦について、自分には遠い逸話しかない。孤児のような感覚がある」と語り、「歴史の記憶は、特にこの国で必要だ」と述べた。アジェンデは会見で「まだ取っていないもの? 4人目の夫かしら。いえ、いまの夫は機能しているわ」と笑わせた。
- ペネロペ・クルスの『La invitación』: カタルーニャの監督セスク・ゲイの戯曲『Los vecinos de arriba(上の階の隣人)』を、米国のオリヴィア・ワイルドが映画化した。この戯曲の映像化は9本目で、最初はゲイ自身の『Sentimental』だった。上の階の奔放な夫婦をエドワード・ノートンとクルスが演じ、下の階の夫婦をワイルドとセス・ローゲンが演じる108分の会話劇である。エル・ムンド紙の批評家ルイス・マルティネスは4つ星を付け、「映画はペネロペに始まりクルスに終わる」と書いた。表情豊かな「ラテン系の女性」という型の役に、沈黙で内面を見せる演技を加えた点を評価している。クルス本人は、アカデミー賞で二つの部門に候補入りする可能性を伝えられた時、「緊張しすぎて、返信を書いては消した」と語った。
- 6人兄弟のバンド「エンビード6」: マドリードのカニョ家の兄弟6人(18〜26歳)が、夏の夜に自宅の玄関ポーチで、ギターとパルマに合わせてバンド「ブロマス・アパルテ」の失恋歌『Dama y Vagabundo』を歌った動画が、3,000万回以上再生された。3人は学生、3人は働いており、Spotifyの再生は300万回を超え、初めての自作曲を仕上げている。暮らしぶりや社会的な立場、信仰をめぐる中傷も浴びたが、兄弟は「レッテルは人を定義しない」と答えた。家族が集まると誰かがギターを弾き、全員が手を叩くという光景は、歌がまだ家庭の中に生きているスペインらしさでもある。日本でいえば、親戚の集まりのカラオケが、そのまま全国に流れたような出来事である。
フラメンコニュース
- カルメン・リナレス『女性のカンテ選集』30周年: エル・パイス紙は10月17日、リナレスが1996年の名盤『Antología de la mujer en el cante』を、10月27日にマドリードのスマ・フラメンカで再演すると報じた。女性の歌い手が、カンテの正典に誰を入れるかを自分で選んだ初めての例で、リナレスはいつも「ペテネーラを広めたのはニーニャ・デ・ロス・ペイネスだ」と語ってきた。記事によると、いまスペインで重要なフラメンコ祭のうち女性が監督を務めるのは、オランダのエルネスティーナ・ファン・デル・ノールトの祭典だけだという。
- その道を行く研究者の歌い手たち: グラナダの歌い手アリシア・モラレス(45歳)は、3年以上かけて19世紀末から20世紀初めの歌い手エル・モチュエロを調べた盤『Honores a El Mochuelo』を、10月22日にテアトロス・デル・カナルで披露する。モチュエロは「蝋管とシェラック盤に初めて録音したフラメンコの歌い手で、史上最も多く録音した人。大成功したのに、路上で貧しく死んだ」と語る。アルメリア県アドラ出身のフルート奏者トリニダ・ヒメネス(42歳)は、アルメリア、グラナダ、マラガの音をたどる『Raíz Sureste』を今日10月18日に上演する。フラメンコに低音のバスフルートを持ち込んだ人で、「一番珍しいシギリージャは、タブラオで日本人の女性から教わった」と明かした。
- カリメ・アマヤ『Carmen』: 今日10月18日19時30分、同じテアトロス・デル・カナルのサラ・ベルデで、大叔母カルメン・アマヤに捧げる新作を上演する(詳しくはバイレ列伝)。
- ベナルマデナのフラメンコ週間: マラガ県ベナルマデナのペーニャ(愛好会)「ラ・レポンパ」が、11月13〜20日の第14回フラメンコ週間の内容を発表した。カンテ、バイレ、ギターの公演に、映画、食、地元の小学生向けの教育コンサートを組み合わせ、若い世代の出演者に重点を置く。
- カタルーニャとアンダルシア: 今日の主役のうち、カルモナとアマヤはバルセロナと深く結びつく。カタルーニャには「フラメンコ=スペイン全体の文化」とされることへの違和感がある一方、バルセロナにはソモロストロ、グラシア、オスタフランクスのヒターノが育てた独自のフラメンコとルンバの歴史がある。アンダルシアの町のペーニャが地元で祭りを守り、首都マドリードの祭典が全国の顔ぶれを並べる。同じ芸能を、三つの土地がそれぞれの形で抱えている。
フラメンコギタリスト列伝
- 今日の一人はヘスス・ゲレーロ(Jesús Guerrero)。1985年、カディス県サン・フェルナンド(ラ・イスラ)生まれ。2022年のセビリア・ビエナルの資料は、カマロン・デ・ラ・イスラやチャト・デ・ラ・イスラが生まれたラス・カジェフエラス地区で、幼いころからフラメンコの文化に浸って育ったと紹介している。11歳で地元の師ホセ・ルイス・バラオにギターを習い始め、カディス大学で音楽教育の教員資格も取った。
- 転機1(伴奏者として): ニーニャ・パストーリ、ミゲル・ポベダ、アルヘンティーナといった歌い手の録音と舞台に呼ばれ、カルロス・サウラ監督の映画『Flamenco, Flamenco』(2010年)にも参加した。2014年、批評家が選ぶ「フラメンコ・オイ賞」の最優秀伴奏ギタリストに選ばれ、2024年にはセビリア・ビエナルで伴奏ギターに贈られるファティギージョ賞を受けた。
- 転機2(舞踊作品の作曲家として): メルチェ・エスメラルダの『Última parada』、ダビ・コリアの『Espiral』、アナ・モラレスの『ReciclArte』、エドゥアルド・ゲレーロの『El callejón de los pecados』、アンドレス・ペーニャの『A fuego lento』などの音楽を書いた。ラファエル・エステベスが率いた時期のアンダルシア・フラメンコ舞踊団では、19世紀の歌い手シルベリオを描く『Aquel Silverio…』と『Flamencolorquiano』を作曲した。10月14日・15日のバイレ列伝で紹介したエドゥアルド・ゲレーロとダビ・コリアの舞台を、音楽の側から支えた人である。
- 転機3(2016〜2017年、初のソロ盤): 2016年3月、初のソロ盤『Calma』を出した。2017年、バルセロナのカタルーニャ音楽堂でこの盤を披露し、批評誌デフラメンコは、公演が亡き母に捧げたロンデーニャで始まり、盤そのものがその喪失から生まれたと伝えた。録音にはニーニャ・パストーリが歌うブレリアも入り、公演にはポベダが客演した。同じ公演の別の曲では、アルバ・カルモナも共演している。
- 転機4(2022〜2025年): 2022年9月16日、ビエナルの「裸のギター」連続公演で独奏『Viaje imaginario(想像の旅)』を弾いた。資料は「ハバナの海岸通りから、アルルの夜のカフェまで」の旅と説明し、表現主義やキュビスムの絵画に触発された、より国際的なフラメンコだと書く。2024年4月には、ポベダとの共作盤『Poema del cante jondo』を出し、ロルカの同名の詩集に曲を付けた。2025年1〜10月にはスペイン各地を回り、5月にはモロッコのフェス世界聖楽祭でも演奏した。
- 代表作1: 本人公式の『Rafaela (Rondeña)』(カタルーニャ音楽堂公演)。『Calma』の公演から抜粋した約7分40秒のロンデーニャである。ロンデーニャは、ラモン・モントーヤ以来、6弦をD、3弦をF♯に下げる特殊な調弦で、決まった拍を持たない自由なテンポで弾かれる独奏曲である。低音の開放弦の響きの上に旋律が浮かぶ箇所と、音を止めて沈黙を置く箇所に注目すると、喪失から生まれた曲という説明が音で分かる。
- 代表作2: ポベダ公式の『¡AY! (Caña)』(ミゲル・ポベダと)。2024年2月、『Poema del cante jondo』に先立って配信された約5分の曲で、ロルカの短い詩『¡Ay!』をカーニャの形で歌う。ポベダが「アイ」の叫びを長く引き延ばす間、ギターがどこで鳴りを止め、どこで短い合いの手を返すかに注目したい。伴奏の賞を二度受けた人の、引き際の判断が聴きどころである。
- 代表作3: 『Café Noir』(2025年ロンドン公演、モザイク・シリーズ)。『Calma』に入ったルンバを、2025年にロンドンの聖ヨハネ教会(ホクストン)で独奏した約5分40秒の記録である。主催者の公式映像で、今日のパロ解説で数える「3+3+2」のルンバの刻みと旋律を、ギター1本でどう両立させるかが見どころである。
- 代表作4(盤の題名曲): 『Calma (Granaína)』(ユニバーサル公式配信)。2016年3月15日にコンセール・ミュージックから出た『Calma』の題名曲で、制作はゲレーロ本人と、ギタリストのホセ・ケベド「ボリータ」。グラナイーナは、グラナダに結びつく拍のない歌の形で、ギターの独奏では長い余韻と高音の旋律が中心になる。「静けさ」という題の曲で、速さよりも、一つ一つの音の余韻をどう残すかを聴きたい。
- 技法の比較: 10月16日に紹介したサンティアゴ・ララは、師マノロ・サンルーカルの管弦楽の道を継ぎ、ギター協奏曲へ向かった。ゲレーロは歌と踊りの伴奏から出発し、メキシコのリラ・ダウンズやアルゼンチンのソレダー・パストルッティとも共演して、中南米の民謡とジャズへ開いた。英国の公演資料は、彼の音楽を「伝統に根ざしつつ、ジャズ、南米、現代の音楽を取り込む」と書く。大編成へ広げるララに対し、ゲレーロは声とギター二人だけの小さな編成で響きを磨く。
- 本人の言葉と英国公演: デフラメンコによれば、本人は2017年の公演前の記者会見で、『Calma』は母を失った経験から大きく生まれた作品だと説明した。2025年5月9日には、英国マンチェスターのストーラー・ホールで、踊り手アンドレス・ペーニャと歌い手ダビ・カルピオを客演に迎えた公演を開いている。
- いま: 2025年10月17日、アルバ・カルモナとの共作盤『Ofrenda』を出し、2026年7月25日にはカタルーニャのマタロで公演した。9月から10月にはアルゼンチンで『Ofrenda』を披露し、10月6日にはラ・プラタ市の公共ラジオに二人で出演した。
- 位置づけと入り方: 伴奏者、舞踊音楽の作曲家、独奏者、制作者の4つの顔を持つ。まず『Rafaela』でロンデーニャの独奏を、次に『¡AY!』で歌の後ろへ下がる伴奏を、最後に『Café Noir』でルンバの刻みを聴くと、一人のギタリストの幅がつかめる。
フラメンコバイレ列伝
- 今日の一人はカリメ・アマヤ(Karime Amaya)。1985年、メキシコ生まれ。伝説的な踊り手カルメン・アマヤの大姪にあたる。母は踊り手メルセデス・アマヤ「ラ・ウィニ」、父はギタリストのサンティアゴ・アギラールで、9歳で両親の舞踊団の舞台に立った。2015年のインタビューでは「メキシコでは、タブラオが自分の学校だった」と語っている。
- 転機1(2004〜2009年): 2004年、東京のタブラオ「エル・フラメンコ」で6か月間踊り、2007年にも日本の主要都市を回った。2004〜2005年にはアントニオ・カナーレスの『Bailaor』に客演し、2005年からマドリードのカサ・パタス、ラス・カルボネラス、カルダモモといったタブラオに出演するようになった。
- 転機2(2011〜2013年): 2011年、一族に捧げる『Amaya Linaje』を初演した。同じころ、エバ・ビラ監督のドキュメンタリー『Bajarí』(2012年アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭で初上映)の主役となった。「バハリ」はロマの言葉カロ語でバルセロナのことで、仕事でバルセロナに来た彼女が地元の芸人と舞台を作る姿を追う。2012年にはヘレス・フェスティバルで自作『Desde la orilla』を上演し、2013年に同フェスティバルの新人賞を受けた。
- 転機3(2013年〜いま): 2013年、パストーラ・ガルバンらと『Con Carmen Amaya en la memoria』に出演し、2014年にセビリア・ビエナル、2016年にスマ・フラメンカに出た。2024年2月にはパコ・デ・ルシアを追悼する『Flamenco Legacy』に加わった。今日10月18日、テアトロス・デル・カナルのサラ・ベルデで新作『Carmen』をマドリード初演する。歌はミゲル・デ・ラ・トレアとフアン・マンサノ、ギターはピノ・ロサダ、打楽器はエル・モスキートで、約75分。紹介文は、大叔母を「まねるのではなく、アマヤの姓を背負う意味を自分の根からたどる」作品と説明する。11月14日にはサラゴサでも大叔母への捧げ物を踊る。
- 代表作1: 『シギリージャ』(第40回アントニオ・マイレナ記念祭、2023年)。バルセロナ近郊オスピタレートのペーニャが主催する1971年創設の祭りで、2023年はマノロ・サンルーカルに捧げられた。歌はダビ・パロマールら、ギターはアントニオ・カリオンら。約16分の記録で、重い12拍のシギリージャの中で、速い足技の連打を始める前に、上体と腕をどれだけ長く静止させて溜めるかが見どころである。
- 代表作2: 『ソレア』(カサ・パタス、2019年5月10日)。マドリードの名門タブラオの公式記録で、ギターはジョニー・ヒメネス、カホンはアントニオ・ロサダ。狭いタブラオの板の上で、ソレアの12拍のレマーテ(区切り)に足音をぴたりと合わせる瞬間と、歌い手の歌の間は足を止めて腕だけで受ける切り替えに注目したい。
- 代表作3: 『Con Carmen Amaya en la memoria』(タブラオ・コルドベス、2013年)。バルセロナのランブラス通りのタブラオの公式映像で、大叔母を演じた約2分の場面である。ズボン姿で踊ったことでも知られるカルメン・アマヤを、大姪がどんな足技で演じたかを見ておくと、今夜の新作がどこまで「まね」から離れるかを比べられる。
- 技法と比較: 2015年のデフラメンコのインタビューは、彼女を「力強さ、足技、速さ」の踊り手と紹介した。本人は「私が踊るのは純粋で本当のフラメンコ。現代的な味つけはしても、コンテンポラリーではない」と言う。10月16日のアンドレス・マリンが音を減らし、形と間合いで聞かせたのに対し、アマヤは伝統の型の中で足技の密度と速さを押し上げる側に立つ。
- 大叔母との距離: 本人は比較を嫌い、「カルメンは伝説。誰とも比べられない」と語る。自分の企画については「賢く、ゆっくり着実に、ともにいるべき人と作る」とも述べた。『Carmen』は、2011年の『Amaya Linaje』、2013年の『Con Carmen Amaya en la memoria』に続く、一族への捧げ物の新しい一作である。
- 位置づけと入り方: メキシコで生まれ、タブラオで育ち、バルセロナとマドリードと南スペインを行き来する踊り手である。まず『シギリージャ』で溜めと爆発を、次に『ソレア』でタブラオの近さを、最後に2013年の『Con Carmen Amaya en la memoria』で大叔母の影を見ておくと、今夜の新作の意味がよく分かる。
フラメンコカンテ列伝
- 今日の一人はアルバ・カルモナ(Alba Carmona)。バルセロナ近郊で、マラガ出身の両親のもとに育った。幼いころからフラメンコを学び、2009年にカタルーニャ高等音楽院(エスムック)で、フラメンコのカンテの高等課程を修了した。スペインで初めてカンテの高等課程を修めた人と紹介されている。
- 転機1(ジャズと舞台): サックス奏者ペリコ・サンベアト、ピアニストのチャノ・ドミンゲスらとジャズの舞台に立ち、カルロス・サウラ演出、チャノ・ドミンゲス音楽監督の舞台『Flamenco Hoy』では女性の歌を担った。
- 転機2(2011〜2018年、ラス・ミガス): バルセロナの女性グループ「ラス・ミガス」に、シルビア・ペレス・クルスの後任として加わり、2011〜2018年に歌い手を務めた。2016年の『Vente conmigo』は大半の曲を自分で書き、2017年のラテン・グラミー賞の最優秀フラメンコ・アルバムにノミネートされた。
- 転機3(2018〜2025年、ソロと二人組): 2018年、自作の歌を集めた初のソロ盤『Alba Carmona』を出し、夫のヘスス・ゲレーロがプロデュースした(英語圏の音楽誌ワールド・ミュージック・セントラルが夫と紹介)。2023年の『Cantora(歌う女)』は、スペインと中南米の口承の歌9曲を集め、ゲレーロがギターと共同制作を担った。2024年秋にはニューヨークのリンカーン・センターで披露した。2025年10月17日には、二人の名義の『Ofrenda(捧げ物)』を出した。
- 代表作1: 本人公式の『Ay amor』(モンタニェサ、2020年)。北部アストゥリアスの歌で、ギターはゲレーロ、打楽器はパキート・ゴンサレス。二人の家「カサ・ゲレーロ」で録った約4分の映像である。「雪が山道を滑り落ちたら、私はどうしよう」と繰り返す北の民謡を、マラガの両親を持つフラメンコの歌い手がどんな声と節回しで歌い直すかを聴きたい。
- 代表作2: 本人公式の『Pequeño Vals Vienés』(『Ofrenda』から)。ロルカの詩『ウィーンの小さなワルツ』に、レナード・コーエンが英語で曲を付けた『Take This Waltz』を、ロルカのスペイン語に戻して歌う。打楽器はパキート・ゴンサレスとディエゴ・モントーヤ。「アイ、アイ、アイ、アイ」の繰り返しで、声をどこまで引き延ばし、どこでワルツの3拍子へ戻すかが聴きどころである。
- 代表作3: 本人公式の『El oro』(『Ofrenda』から)。作詞はカルモナ、作曲は二人。「黄金は作品も王座も買えるが、眠りも、見捨てられた心も買えない」と歌う。後半の「金も宝石も冠もいらない、近くにいるあなたの手があればいい」という一節が、前半の黄金の比喩をどう受けて結ぶかを、声とギターの掛け合いとともに聴きたい。
- 声と比較: ブッキング元の紹介文は、彼女の声を「飾りではなく深さを求める声」と書く。今日のニュースのカルメン・リナレスは、1996年の選集でフラメンコのカンテの正典に女性たちを入れ直した。カルモナは、母や祖母の世代が口伝えで歌ってきた民謡や子守歌、パソドブレまで広げて、「歌う女」の系譜を探す。リナレスがカンテの内側を掘ったのに対し、カルモナは外側の歌をフラメンコの声で歌い直している。
- 『Ofrenda』の中身: 二人は、アルゼンチンのタンゴ、中南米と行き来した「往復の歌」、パソドブレ、アンダルシアのフラメンコの子守歌、村祭りの歌を、声とギターだけで並べた。紹介文は「ギターと声が、同時に二つの独奏楽器になる」二人組と説明する。2025年10月24日にはバルセロナのエル・モリーノで発売公演を開いた。
- いまと入り方: 2026年7月25日にマタロ、9〜10月にアルゼンチンで公演した。ラ・プラタ市の公共ラジオは『Ofrenda』を「タンゴとフラメンコの対話」と紹介している。まず『Ay amor』で民謡を飾らず歌う声を、次に『Pequeño Vals Vienés』でロルカの詩を、最後に『El oro』で二人の自作を聴くと、ラス・ミガス以後の歩みがつながる。
フラメンコギター工房だより
- 今日の製作家は、グラナダのアントニオ・ラヤ・パルド(Antonio Raya Pardo)である。1950年、ハエン県ウエルマ生まれ。2015年刊の『グラナダのギター製作家の流派』に、本人が経歴を寄せている。
- 二つの家系: 14歳で家族とグラナダへ移り、さまざまな仕事をする中で、妻ピラール・フェレールに出会った。ピラールは、グラナダ派の祖とされるベニート・フェレール(1845〜1925年)の甥で後継者エドゥアルド・フェレールの孫娘である。本人は、これが製作家になった理由の一つだと書き、「ルティエ」より「ギタレーロ」と名乗る方が「自分たちが何者で、何を感じているかに近い」と述べている。
- 独学の年月: 1972年、ホセ・ロペス・ベジードの工房に弟子入りしたが、学べたのは基本だけだった。1973年に独立し、「そこから本当の修業が始まった」と振り返る。思い描く音を探して一から試し、多くの失敗を重ねた。のちに米国、日本、中国を訪れ、歴史的な名工のギターを弾いて聴いた経験が大きかったという。グラナダの名工アントニオ・マリン・モンテロとの親交も深かった。
- 楽器の中身: 専門店が売った『1982年製フラメンコギター』(フラメンコ・ギターズ・フォー・セール)は、ドイツ松の表板、シープレスの側板と裏板、弦長650mm、セラック塗りのフレンチポリッシュ仕上げ、12フレットの弦高2.6mm、ナット幅53mm、重さ1,380gである。10月16日に紹介したマドリードのマヌエル・カセレスの2016年製(弦高3.1mm、1,340g)と比べると、弦高が0.5mm低い。弦を軽い力で押さえられ、速いピカードで指を動かしやすい設定である。店は、これまでの製作本数を約600本と紹介している。
- 継承: 息子のアントニオ・ラヤ・フェレールは1980年生まれで、14歳で工房に入り、1997年、17歳で自分の名のギターを作り始めた。父と同じグラナダの工房で、通し番号つきの楽器を作っている。母方からフェレール家、父方からラヤ家の技を受けた、二つの系譜の継ぎ手である。
- 本人の言葉と日本: 経歴の結びに、本人は「成功するのに特別なことをする必要はない。簡単なことを、とびきりうまくやればいい」という言葉を引いた。訪れた国の一つが日本で、そこで名工の楽器に触れた経験を音づくりの糧にした。一つの工程を毎日丁寧に積み重ねる考え方は、日本の職人気質にも近い。
フラメンコのパロ解説
- 今日のパロはルンバ(Rumba)。中南米へ渡って戻ってきた「往復の歌(カンテ・デ・イダ・イ・ブエルタ)」の一つで、19世紀末にハバナの劇場で流行したキューバのグアラチャやルンバが、スペインの劇場や寄席で歌われ、フラメンコのタンゴと混ざって生まれたとされる。1950年代にはタブラオでも広まった。
- バルセロナのルンバ: もう一つの流れが、バルセロナのヒターノの町で育った「ルンバ・カタラナ」である。起源は諸説あり、グラシア地区、ラバル地区のセラ通り、オスタフランクス地区のヒターノの共同体で1940〜50年代に生まれたという説が有力である。一説では、1958〜59年、エル・ペスカイージャの兄「ティオ・ポジャ」が、酒場で中南米の船乗りの叩くボンゴと即興で合わせたのが始まりとされる。そこへ、マタロ生まれのペレ(1935〜2014年)が、ペレス・プラードのマンボとロックンロールを持ち込んだ。
- 系統: 同じ往復の歌には、グアヒーラ、コロンビアーナ、ミロンガがある。拍の数え方ではフラメンコのタンゴと同じ4拍子の系統に属する。
- コンパス: 4拍子だが、8つの細かい拍を「3+3+2」にまとめて感じる。「1、2、3、4、5、6、7、8」と数え、1、4、7に強いアクセントを置く。4拍子でいえば、1拍目、2拍目の裏、4拍目である。パルマはこの3か所で強く打ち、残りを弱く刻むと、前へ転がるような推進力が出る。タンゴは1拍目を弱め、2、3、4拍目でパルマと和音を鳴らすので、同じ4拍子でも重心が違う。
- 調性とコード進行: ギターの教本は、ルンバを短調が基本の曲種と説明する。よく使われる骨組みは、Am、G、F、Eと下りるアンダルシア終止や、AmとE7を行き来する短調の主和音と属和音の往復である。一方、キューバのグアラチャから来た歌が多いルンバ・カタラナでは、長調の明るい進行もよく使われる。カポの位置は決まっておらず、歌い手の声の高さで決める。
- ギターの技: ペレが広めた奏法「ベンティラドール(扇風機)」は、名前のとおり、右手を扇風機の羽のように回してかき鳴らしと胴を叩く音を一続きに鳴らす奏法と説明される。打楽器がなくても、ギター1本で打楽器の役まで担えるのが、家の集まりで広がった理由の一つである。
- レトラと構成: ルンバの歌詞は、ソレアやシギリージャのような決まった詩形より、繰り返しの「さび」を持つ歌の形が多い。題材は恋、失恋、街の出来事、笑い話である。ペレが歌った『El muerto vivo』は、コロンビアの作曲家の曲で、死んだはずの男が生きていたという笑い話である。アルゼンチン生まれでバルセロナに根づいた歌手ガト・ペレスの『Rumba de Barcelona』は「僕らのバルセロナのルンバは、世界を回って目を回している」と歌い、往復の歌の成り立ちそのものを歌詞にした。
- カンテ、バイレ、ギターの聴きどころ: 歌は明るく、聴き手を手拍子へ誘う。踊りには、エスコビージャのような長い足技の見せ場を持つ決まった型は少なく、公演の締めくくりや祭りで、皆が加わる場面で踊られることが多い。ギターは、和音を刻む右手と、胴を叩くゴルペが主役になる。
- 代表録音1: 『Entre dos aguas』(パコ・デ・ルシア、ユニバーサル公式配信)。1973年の盤『Fuente y caudal』に入ったギターのルンバで、発売当初は売れなかったが、のちにパコの最も有名な曲になった。打楽器のボンゴが刻みを支え、ギターは短い和音の繰り返しの上で、速いピカードを重ねる。伴奏が同じ形を刻み続けるので、ギターの旋律がどこで拍の外へ出て、どこで戻るかがよく聴こえる。
- 代表録音2: 『Borriquito』(ペレ、スペイン国営放送の映像)。1971年の大ヒット曲で、オランダで7週、ドイツで2週、チャート1位になった。ペレの右手が刻むベンティラドールと、手拍子を誘う歌の掛け合いに注目すると、パコのルンバとは違い、ルンバ・カタラナが踊りと合唱のための音楽であることが分かる。
- 代表録音3: 今日のギター列伝のヘスス・ゲレーロの『Café Noir』。パコのような編成も、ペレのような歌もなく、ギター1本で3+3+2の刻みと旋律を同時に鳴らす。三つを聴き比べると、同じルンバが、独奏、歌謡、即興という別々の顔を持つことが分かる。
- 似たパロとの聴き分け: タンゴとは、拍の重心で聴き分ける。1拍目が強く、2拍目の裏で跳ねるならルンバ、1拍目が沈み、2、3、4拍目で手拍子が鳴るならタンゴである。同じ往復の歌のコロンビアーナとは、速さで聴き分ける。ゆっくりと旋律を歌い上げるならコロンビアーナ、速く明るく手拍子を誘うならルンバである。
まとめ
- 2026年10月18日のスペインは、バルセロナとフラメンコが結び目になった。中南米の民謡まで歌い直すアルバ・カルモナと、その声の後ろへ下がるヘスス・ゲレーロ、大叔母の影を自分の踊りに変えるカリメ・アマヤ、二つの家系の技を継ぐグラナダの工房、そしてヒターノの町で育ったルンバが並んだ。家族のポーチで歌う兄弟の動画と、30年前の女性たちの選集の再演が、歌は家の中から始まることを示した。
- 別れは「ケ・テ・バヤ・ビエン(¡Que te vaya bien!)」。「うまくいきますように」「元気でね」という、旅立つ人を見送る言葉である。
参考ソース
- 国内: El Mundo「Sánchez convierte su mitin en Fuenlabrada…」(2026年10月17日) https://www.elmundo.es/elecciones/elecciones-generales/2026/10/17/6ad3428ffc6c8357118b4573.html
- 文化: El Mundo「Isabel Allende, ganadora del Premio Planeta」(2026年10月16日) https://www.elmundo.es/cultura/literatura/2026/10/16/6ad1fa40fdddff74548b4583.html
- 文化: El Mundo「La invitación: Nadie habla de orgasmos como Penélope Cruz」(2026年10月15日) https://www.elmundo.es/cultura/cine/2026/10/15/6ad08929e9cf4ac00f8b4594.html
- 文化: El Mundo「Envido6, el fenómeno musical que se ha hecho viral en TikTok」(2026年10月15日) https://www.elmundo.es/cultura/musica/2026/10/15/6ac902f521efa03c328b4598.html
- フラメンコニュース: El País「Mujeres flamencas que recorren los caminos que abrió Carmen Linares」(2026年10月17日) https://elpais.com/cultura/2026-10-17/mujeres-flamencas-que-recorren-los-caminos-que-abrio-carmen-linares.html
- フラメンコニュース: Ayuntamiento de Benalmádena「La XIV Semana Flamenca de Benalmádena」 https://www.benalmadena.es/noticias/N13621/La-XIV-Semana-Flamenca-de-Benalmdena-reunir-del-13-al-20-de-noviembre-espectculos-de-cante-baile-guitarra-y-otras-propuestas-culturales.html
- ギター列伝: セビリア・ビエナル2022 経歴資料 https://www.femas.es/xxii-bienal-de-flamenco-sevilla-2022/archivos/biografias/biografia-jesus-guerrero.pdf /同『Viaje imaginario』プログラム、Stoller Hall 2025年5月9日公演資料 https://stollerhall.com/?p=78832 、Deflamenco 公演評 https://www.deflamenco.com/revista/resenas-actuaciones/jesus-guerrero-at-the-palau-de-la-musica-in-barcelona-1.html/amp
- バイレ列伝: Tablao Cordobés 経歴 https://tablaocordobes.es/artists/karime-amaya/ /esMadrid「Karime Amaya. Carmen」 https://www.esmadrid.com/node/107676 /Deflamenco インタビュー(2015年) https://deflamenco.com/revista/entrevistas/interview-with-dancer-karime-amaya-1.html
- カンテ列伝: Escenapart「Alba Carmona」 https://escenapart.cat/en/?p=1531 /World Music Central(2024年) https://worldmusiccentral.org/alba-carmona-lovingly-celebrates-traditional-female-singers-on-cantora/ /Grec 2022「Desvarío」 https://barcelona.cat/grec/arxiugrec/en/show/alba-carmona-jesus-guerrero /Planomataró 2026年7月25日公演 https://www.planomato.com/es/mataro/p/alba-carmona-jesus-guerrero-mataro
- 工房: Madera Guitarras「Antonio Raya Pardo」(本人寄稿の経歴) https://maderaguitarras.com/guitarreros/antonio-raya-pardo/ /Siccas Guitars「Antonio Raya Ferrer」 https://www.siccasguitars.com/blogs/luthiers/antonio-raya-ferrer
- パロ: Wikipedia(スペイン語)「Rumba flamenca」「Rumba catalana」「Peret」、Richter Guitar「Rumba」 https://richterguitar.com/flamenco-guitar/flamenco-guitar-toques-and-palos/rumba/ 、iagua「Entre dos aguas」 https://www.iagua.es/blogs/mediateca/dos-aguas-clasico-flamenco