タブラオ育ちでヒラルディージョ、ホセ・フェルミン/ヘマ・モネオ/レラ・ソト/物売りの声ミラブラス【2026/10/21】

2026-10-21 / スペイン便り


概要

人それぞれに流儀がある、という回です。今夜マドリードで、マヌエル・リニャンの『Llámame Lorca』が開幕し、タブラオ・ラ・カルメラは劇場で5周年を祝います。ギタリスト列伝は、グラナダのタブラオと洞窟の店で伴奏を覚え、2019年にボルドン・ミネロとコルドバ全国コンクール1位を取り、ベジードの遺作やアルハンブラ「デセアダ」を鳴らし、今月セビリア・ビエナルのヒラルディージョ賞を受けたイスナジョスのホセ・フェルミン・フェルナンデス。バイレ列伝は、ヘレスの一族ロス・モネオに生まれ、ファルキートの舞踊団を経て、2023年に『Atrevida』でビジャマルタ劇場に立ったヘマ・モネオ。カンテ列伝は、ソルデラ一族で初めて職業の歌い手になり、2025年に初のアルバム『El fuego que llevo dentro』を出したレラ・ソト。パロ解説は、チャコンが果物売りの呼び声を加えたカディス・サンルーカルのカンティーニャ、ミラブラスを12拍で数えます。今日のスペイン語は「カダ・マエストリージョ・ティエネ・ス・リブリージョ(どの先生にも自分の教本がある)」。

▼ 今日のトピック ・シャビエル・ヌエノ『La revuelta de los copistas』が第54回アナグラマ評論賞 ・マヌエル・リニャン『Llámame Lorca』、テアトロス・デル・カナルで10月21〜24日 ・タブラオ・ラ・カルメラ5周年、テアトロ・カルデロンに21人 ・セビリア・ビエナル決算、44公演完売・入場率92%・入場料収入は過去最高 ・ギター列伝: ホセ・フェルミン・フェルナンデス(使用ギター:ホセ・ロペス・ベジード遺族貸与の銘器、アルハンブラ「Deseada」) ・バイレ列伝: ヘマ・モネオ ・カンテ列伝: レラ・ソト ・パロ解説: ミラブラス

▼ 関連リンク(アーティスト・パロ) ・ホセ・フェルミン・フェルナンデス『Inefable』(本人公式) https://www.youtube.com/watch?v=3R28H_Gn3bw ・ホセ・フェルミン・フェルナンデス『Generalife』(アテネオ・デ・マドリード、エクスポフラメンコ) https://www.youtube.com/watch?v=R51eJGAO91g ・ホセ・フェルミン・フェルナンデス、アルハンブラ「Deseada」演奏(アルハンブラ公式、アルバイシン収録) https://www.youtube.com/watch?v=lHQ7yqIV4aU ・ホセ・フェルミン・フェルナンデス『Soleá por bulerías』(ソレラ・フラメンカ公式) https://www.youtube.com/watch?v=RYr0Vb3nSqY ・ホセ・フェルミン・フェルナンデス、ラ・ウニオン準決勝のブレリア(デフラメンコTV、2019年) https://www.youtube.com/watch?v=zzHA0wDjt3I ・ヘマ・モネオ、フラメンコ・オン・ファイアの夜のタブラオ(デフラメンコTV、2024年) https://www.youtube.com/watch?v=Af2hNbgcYEk ・ヘマ・モネオ『Atrevida』後のインタビュー(エクスポフラメンコ、2023年) https://www.youtube.com/watch?v=Jahrx8p6CxU ・レラ・ソト『Bulerías de mi casa』(公式) https://www.youtube.com/watch?v=ij-u07e0shU ・レラ・ソト『Inaccesible』ft. ディエゴ・デル・モラオ(公式) https://www.youtube.com/watch?v=M82sti83Fvo ・レラ・ソト、ロ・フェロ・フラメンコ祭2025(公式) https://www.youtube.com/watch?v=NSD0I5jMEIk ・ラファエル・ロメロ『Mirabrás』(公式配信) https://www.youtube.com/watch?v=qUrUfNTj9DU

▼ 参考ソース ・デフラメンコ『Manuel Liñán presenta «Llámame Lorca» en los Teatros del Canal』 https://www.deflamenco.com/revista/noticias/manuel-linan-presenta-llamame-lorca-en-los-teatros-del-canal.html ・デフラメンコ『Tablao La Carmela reúne a 21 artistas en el Teatro Calderón』 https://www.deflamenco.com/revista/noticias/tablao-la-carmela-reune-a-21-artistas-en-el-teatro-calderon-de-madrid-para-celebrar-su-quinto-aniversario.html ・エクスポフラメンコ『La Bienal de Sevilla bate récords de taquilla y ocupación』 https://expoflamenco.com/revista/la-bienal-de-sevilla-bate-records-de-taquilla-y-ocupacion-y-mira-ya-hacia-su-25a-edicion/ ・エクスポフラメンコ『La Bienal de Sevilla distingue a … José Fermín Fernández y Alejandro Hurtado』 https://expoflamenco.com/revista/la-bienal-de-sevilla-distingue-a-sandra-carrasco-olga-pericet-jose-fermin-fernandez-y-alejandro-hurtado/ ・グラナダ・オイ『José Fermín Fernández rinde un emotivo homenaje póstumo al guitarrero José López Bellido』 https://www.granadahoy.com/ocio/jose-fermin-fernandez-rinde-emotivo_0_2002184201.html ・COPEグラナダ『El guitarrista José Fermín Fernández actúa este viernes en la Peña de la Platería junto a la cantaora La Nitra』 https://www.cope.es/emisoras/andalucia/granada-provincia/granada/noticias/guitarrista-jose-fermin-fernandez-actua-viernes-pena-plateria-cantaora-nitra-20260717_3406823.html ・アルハンブラ・ギターラス『Guitarra Clásica Deseada by Javier Mengual』 https://alhambraguitarras.com/es-world/products/deseada-by-javier-mengual ・エル・ムンド『El investigador Xavier Nueno gana el Anagrama de Ensayo』 https://www.elmundo.es/cultura/literatura/2026/10/20/6ad742d9fdddffa5318b457e.html ・エクスポフラメンコ『Gema Moneo, flor del baile temperamental』 https://expoflamenco.com/archivo/cronicas/festival-de-jerez-bailaora-gema-moneo-atrevida-teatro-villamarta/ ・テアトロ・レアル『Gema Moneo y Gabriel de la Tomasa』 https://www.teatroreal.es/en/show/gema-moneo-y-gabriel-tomasa ・ヘレス・フェスティバル『Lela Soto – El fuego que llevo dentro』 https://www.festivaldejerez.es/wp-content/uploads/2026/02/LELA-SOTO-DOSSIER.pdf ・CNDM『Lela Soto – El fuego que llevo dentro』 https://cndm.inaem.gob.es/sites/default/files/2026-04/AF_Lela%20Soto_240326.pdf ・EUSA『Flamenco sin fronteras; El Mirabrás』 https://periodicodigital.eusa.es/2016/10/26/flamenco-sin-fronteras-el-mirabras/

#スペイン #フラメンコ #フラメンコギター #ホセフェルミンフェルナンデス #ヘマモネオ #レラソト #ミラブラス #マヌエルリニャン #セビリアビエナル #ヘレス #グラナダ #ゆっくり解説 #ずんだもん #四国めたん


スライド(クリックで展開)

スペイン文化・フラメンコ便り(2026年10月21日)

オープニング:2026年10月21日 — スペイン文化・フラメンコ便り

  • 今日のスペイン語は「カダ・マエストリージョ・ティエネ・ス・リブリージョ(Cada maestrillo tiene su librillo)」。直訳は「どの先生にも自分の小さな教本がある」。人それぞれにやり方や流儀がある、という意味で、方法の違いを認めるときに使うことわざである。
  • 今日の軸は「それぞれの教本」。マドリードでは今夜、グラナダの踊り手マヌエル・リニャンの『Llámame Lorca(私をロルカと呼んで)』が開幕する。列伝は、その音楽を作ったグラナダ県イスナジョスのギタリスト、ホセ・フェルミン・フェルナンデス、ファルキート譲りの足と一族の歌心を持つヘレスの踊り手ヘマ・モネオ、ソルデラ一族で初めて職業の歌い手になったレラ・ソト。パロ解説は、自由を歌う詞から果物売りの呼び声へ移るカディス・サンルーカルのカンティーニャ、ミラブラス。

文化・芸能ニュース

  • 「写字生たちの反乱」がアナグラマ評論賞: エル・ムンド紙(EFE通信)によると、バルセロナ出身、1990年生まれの研究者シャビエル・ヌエノが10月20日(火)、第54回アナグラマ評論賞(賞金1万ユーロ)を受けた。24か国から届いた340本の原稿から選ばれた『La revuelta de los copistas(写字生たちの反乱)』は、「知の私有化と商品化」の物語である。主役は写字生、速記者、司書、文書係、プログラマーなど、知識を写し、整え、運んできた人々で、生成AIの時代に「普遍的な知という古い人文主義の夢に何が残るのか」を問う。本は今日21日に書店に並ぶ。

フラメンコニュース

  • リニャン『Llámame Lorca』、今夜マドリードで開幕: デフラメンコ誌によると、マヌエル・リニャンの『Llámame Lorca』が10月21日から24日まで、マドリードのテアトロス・デル・カナル、サラ・ロハで上演される(20時開演、休憩なしの約1時間40分)。2025年8月、グラナダのヘネラリフェ庭園の野外劇場で初演した作品で、伝記ではなく、抑えられた欲望、かなわない恋、民衆の歌といったロルカの世界を舞台に移す。案内文は「結局のところ、私たちはみなロルカなのだ」と結ぶ。音楽とギターは今日のギタリスト列伝のホセ・フェルミン・フェルナンデス、歌はアントニオ・カンポス、マリアン・フェルナンデス、フィタ・エレディア。客演の踊り手はラケル・エレディア「ラ・レポンパ」とホセ・マルドナド。詩の朗読でクーロ・アルバイシンも加わる。
  • タブラオ・ラ・カルメラ、5周年を劇場で: デフラメンコ誌によると、マドリードのタブラオ・ラ・カルメラが今夜21時、テアトロ・カルデロンで5周年の公演を開く。出演は21人で、歌のホセ・メルセ、モンセ・コルテス、踊りのアントニオ・カナレス、フアナ・アマジャ、ファルー、エル・ジージョらが並ぶ。2021年に、ソル広場近くのビクトリア通りの酒場の地下、かつてビクトリア修道院の一部だった酒蔵に開いた店で、芸術監督のフアン・アンドレス・マヤは「神秘の洞窟」と呼ぶ。標語は「フラメンコの真実は消えない」。
  • セビリア・ビエナル、入場料収入が過去最高: エクスポフラメンコによると、セビリア市は10月16日、第24回ビエナルの決算を発表した。44公演はすべて完売、平均の入場率は92%、入場料収入は135万6519ユーロで、2024年の前回より約35万ユーロ増えた。予算は約250万ユーロ。ホセ・ルイス・サンス市長は「完全な成功、すべてが記録だ」と語り、2028年の第25回に向けて常設の拠点、フラメンコの大きな博物館、一年中、地区ごとに公演を届ける構想を挙げた。ルイス・イバラ監督は「本当の芸術的な影響の鍵は、時間だけが握っている」と、数字だけで評価しない姿勢を示した。

フラメンコギタリスト列伝

  • 生い立ちと現場の学校: 今日の一人はホセ・フェルミン・フェルナンデス(José Fermín Fernández)。1995年、グラナダ県イスナジョス生まれ。フラメンコの芸人の一族に育ち、10代で手ほどきを受けた後は、音楽院ではなくほぼ独学でギターを磨いた。彼にとっての大学は、グラナダのタブラオとサクロモンテやアルバイシンのクエバ(洞窟の店)だった。毎晩の舞台で歌い手と踊り手の呼吸を読み、まず伴奏者としての骨格を作った。
  • タブラオでの伴奏歴と共演網: グラナダのタブラオ「カサ・デル・アルテ・フラメンコ」で、踊り手ベレン・ロペス、歌い手ミゲル「エル・ルビオ」、10月18日のバイレ列伝で紹介したカリメ・アマヤを伴奏した。2016年には踊り手フアン・アンドレス・マヤ(今夜のラ・カルメラ5周年公演の芸術監督)に招かれ、マドリードの老舗「コラル・デ・ラ・モレリア」に立ち、歌い手エル・ペレーテやベレン・ロペスと舞台を共にした。これまでにポティート、ラ・ニトラ、グアディアナ、セルヒオ「エル・コロラオ」、ハイメ「エル・パロン」、マリナ・エレディア、フアン・アンヘル・ティラード、アントニオ・カンポスらの歌、マノレーテ、ラ・ファルーカ、エル・ファルー、エル・カルペタ、ラファエル・アマルゴ、アントニオ・カナレス、ペペ・トーレス、フエンサンタ「ラ・モネタ」、パストーラ・ガルバン、そして今日のバイレ列伝のヘマ・モネオらの踊りを支えてきた。現在はグラナダに住み、タブラオ「カサ・アナ」の音楽監督・主任ギタリストとしてラケル・エレディア「ラ・レポンパ」やサライ・フェルナンデス「ラ・ピティータ」らを伴奏しながら、国内外で講習会も開いている。
  • 転機1(2019年、二大コンクール制覇): 2019年8月、ムルシア州ラ・ウニオンの国際カンテ・デ・ラス・ミナス祭でギター部門の最高賞「ボルドン・ミネロ」を獲得し、同じ年にコルドバの全国フラメンコ芸術コンクールでもギター部門1位(プレミオ・ナシオナル)を取った。同じ年にこの二大冠をそろえたのはビセンテ・アミーゴらごくわずかな名手しかいない快挙である。デフラメンコ誌の決勝評によれば、ラ・ウニオンのギター決勝に残ったのは彼ただ一人で、タラントとブレリアで圧倒的な構成力を見せ、濁りのないトレモロが会場を静まり返らせた。この出発点を記録した最初の作品集が、2022年に出た『De la Unión a Córdoba(ラ・ウニオンからコルドバへ)』である。
  • 転機2(2024〜2026年、『Inefable』と独奏者への飛躍): 2024年に第2作となるアルバム『Inefable(言葉にできない)』を発表し、グラナダ国際ギター祭(アントニオ・マリン記念)で披露した。2025年1月には表題曲の公式映像を公開し、11月9日にはマドリードのアテネオ(第1回ホアキン・ロドリーゴ国際ギター祭)で独奏会を開いた。エクスポフラメンコ誌の批評家キコ・バジェは「YouTubeと缶詰の音、和声の詰め込みと技術の誇示があふれる時代に、魂のあるフラメンコが彼にはあふれている」「目まいがするほどのピカードと、くすぐるべき場所を撫でる愛撫の魔術師」「コンパスがあり余り、時間と遊ぶ術を知っている」と絶賛した。2026年2月28日にはニューヨークのジョーズ・パブで独奏『Guitarra desnuda(裸のギター)』を弾き、9月13日にはセビリア・ビエナルでも同じ題でラモン・モントージャとパコ・デ・ルシアに捧げる独奏会を開いた。
  • 転機3(2026年10月、ヒラルディージョ受賞と二つの教本): 2026年10月14日、第24回セビリア・ビエナルのギター部門最高賞「ヒラルディージョ」を、10月17日の列伝で取り上げたアレハンドロ・ウルタドと同時受賞した。審査員は「演奏会用のフラメンコギターを、その礎から今の美学までたどる道筋」と評した。音楽院でクラシックと古楽の教本も修めたウルタドと、グラナダの洞窟とタブラオの現場から独奏へ駆け上がったフェルナンデスが同じ賞を分け合ったことは、現代のフラメンコギターに二つの異なる「教本」が並び立っていることを象徴する。
  • 使用ギター(ベジード遺族の銘器とアルハンブラ「デセアダ」): 本人が弾いた楽器として一次報道と公式映像で裏付けられる柱が二つある。第一は、グラナダ・ゴメレス坂の名匠ホセ・ロペス・ベジード(José López Bellido、1943〜2024年、当番組9月22日の工房だよりで紹介)のギターである。グラナダ・オイ紙とCOPE放送(2024年8月7日付)によると、生前のベジードはフェルナンデスの演奏に深い敬意を寄せていた。『Inefable』の制作中、フェルナンデスは鉱山歌の曲種「ミネーラ」の作曲で行き詰まっていたが、2024年5月にベジード死去の知らせを受けたことで故人の記憶が最後の推進力となり、ベジードに捧げるミネーラを書き上げた。同年8月6日、第8回グラナダ国際ギター祭のペーニャ・デ・ラ・プラテリア公演で開かれた追悼演奏会では、ベジードの遺族から特別に貸し出された、ゴメレス坂の工房の知恵が結晶したベジード代表作の1本を手にして、そのミネーラとソレア、2019年受賞のブレリアを弾いた(その個体の正確な製作年や表面板の材までは報道に記されていない)。第二は、バレンシア州ムロ・デ・アルコイの老舗アルハンブラ社(Alhambra Guitarras)の熟練製作家ハビエル・メンガル(Javier Mengual)がギタリスト兼教授ホアキン・クレルチと共同開発した最上位モデル「Deseada(デセアダ)」である。アルハンブラ社の公式仕様書によると、表面板はAAA等級の単板シダー(杉)、裏板と側板は単板のインド・ローズウッド(パロサント・デ・インディア)、指板はカメルーン産エボニー(黒檀)、ネックは二重補強入りのスパニッシュ・シダー(エルゴネック、弦長650ミリ、ナット幅52ミリ)、糸巻きはアレッシ製、塗装は木が呼吸する伝統のセラック手塗り(フレンチ・ポリッシュ)仕上げである。本来はクラシックのコンサート用として設計された黒(ローズウッド)の楽器だが、フェルナンデスはグラナダのアルバイシンで収録したアルハンブラ公式映像『José Fermín Fernandez』でこの「デセアダ」を弾き、シダーとローズウッドならではの深く甘い余韻と、フラメンコの鋭いアタックを両立させている。また、ギター専門店ソレラ・フラメンカの企画映像『Soleá por bulerías』(ソレラ・フラメンカ公式)(パルマ:ディエゴ・アマヤ、ルア)でも名器を試奏しているが、同店の紹介記事には使用個体の製作家名と年号は記されていない。
  • 代表作1: 『Inefable』(本人公式映像、2025年)。約4分45秒のブレリアで、歌い手アンヘル・フローレスと、今夜の『Llámame Lorca』でも打楽器を担うエル・チェジェンが加わる。12拍のブレリアの上で、親指の太いアルサプーアと高速のピカード、歌、打楽器が1拍の緩みもなく受け渡していく中盤の掛け合いを聴きたい。
  • 代表作2: 『Generalife』(アテネオ・デ・マドリード独奏会、2025年11月9日、エクスポフラメンコ公式)。約7分の独奏で、グラナダのヘネラリフェ庭園の名を冠した曲である。歌も踊りも入らない舞台で、タブラオ伴奏で鍛えたコンパスの弾力と、澄んだトレモロ、消え入るような弱音(ピアニッシモ)だけで7分間を一気に運ぶ。
  • 代表作3: ラ・ウニオン準決勝のブレリア(デフラメンコTV、2019年8月7日)。ボルドン・ミネロを取る直前、24歳の演奏である。6年後の『Inefable』と比べると、2019年の時点ですでに右手の粒立ちが完成していたことと、近年の和声の広がりの両方が聞き取れる。
  • いま・おすすめの入り方: 今夜10月21日から24日まで、マドリードのテアトロス・デル・カナルでマヌエル・リニャン『Llámame Lorca』の作曲・ギターとして舞台に立つ。これから聴く人は、まず『Inefable』で歌・打楽器と絡む現代のブレリアを聴き、次にアテネオの『Generalife』とアルハンブラ「デセアダ」の映像で独奏者としての音色を味わい、最後にリニャンの舞台で伴奏者の顔を見ると、タブラオと劇場を往復する彼の全体像がつかめる。

フラメンコバイレ列伝

  • 生い立ちと一族の系譜: 今日の一人はヘマ・モネオ(Gema Moneo)。1991年、ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ生まれ。歌い手や踊り手を輩出したヘレスの名門ヒターノ一族「ロス・モネオ」の出身で、伯父は伝説的な歌い手マヌエル・モネオとフアン・モネオ「エル・トルタ」、父は「コンパスの番人(エル・グアルディアン・デル・コンパス)」とも呼ばれるギタリストのヘスス・アガラド「エル・グアルディア」、いとこに歌い手ルイス・モネオやギタリストのフアン・マヌエル・モネオがいる。幼いころから一族の結婚式のテーブルに上がって親族の歌に合わせて踊り、4歳でマヌエラ・カルピオの教室に入った後、エバ・ジェルバブエナ、ロシオ・モリーナ、ベレン・マヤ、そしてファルキートに学んだ。
  • 転機1(13〜18歳、タブラオからエル・トルタとの共演、ファルキート舞踊団へ): 13歳でヘレスのタブラオ「ラ・ラガ・デ・ティオ・パリージャ」に立ち、2007年12月(16歳)には、叔父エル・トルタがアルバム『Momentos』を発表した地元ヘレスのビジャマルタ劇場の舞台で伴舞を務めた。18歳でファルキートの舞踊団に入り、2010年のセビリア・ビエナルで初演された『Sonerías』でアルゼンチンとチリを巡演し、ホアキン・コルテスやギタリストのディエゴ・デル・モラオとも舞台を共にした。今日のギタリスト列伝のホセ・フェルミン・フェルナンデスも、グラナダの「カサ・アナ」などで彼女を伴奏してきた一人である。
  • 転機2(2018年、初の自作でヘレス新人賞): 2018年、第22回ヘレス・フェスティバルのサラ・コンパニア公演で初の自己名義作品『El sonido de mis días(私の日々の音)』を発表し、観客投票によるゴンサレス・ビアス社の新人賞(プレミオ・レベラシオン)を獲得した。
  • 転機3(2023年、ビジャマルタ劇場での『Atrevida』): 叔父エル・トルタの舞台に立ってから16年後の2023年2月25日、第27回ヘレス・フェスティバルで、地元の大劇場ビジャマルタに初めて単独主演作『Atrevida(大胆な女)』で立った。エクスポフラメンコ誌のフアン・ガリードの劇評によると、幕が上がると父エル・グアルディアのラスゲアードが鳴り、ヘマは踊りではなく自分自身のカンテ(ブレリア・ポル・ソレアの短いレトラ2首とカラピエラ風のレマーテ)から舞台を始めるという意表を突く構成で客席を驚かせた。劇中では、打楽器カルロス・メリノとパルマのカンタローテ、ディエゴ・モントージャが作る緊張感の上で、ボルドー色の衣装で舞台中央に立ち、ファルキート直伝の「崖っぷちの、信じられない速さ」のサパテアードと髪を振り乱す激しい気迫を見せた。さらにグランドピアノのメルチョール・ボルハとの二重奏ではファルッカから入り、髪をほどき短い上着チャケティージャを羽織って、憧れのローラ・フローレスを思わせる姿でコプラ『La flor del temperamento(気性の花)』を歌い踊った。締めくくりのソレア・ポル・ブレリアについて、ガリードは「手首が生き、足は月の高さにある。この世代、いやヘレスの踊りの大物の一人だと分かる瞬間」「踊りにはもっと大胆な女が要る」と結んだ。
  • 技法と比較: 現代のヘレスやセビリアで抽象的・演劇的な舞台構成を探る踊り手が多い中、モネオはファルキートから受け継いだ電撃的で正確なサパテアード(足技)と、ヘレスの一族のフィエスタ(宴)で培ったマルカヘ(歌を受け止める体の揺れ)および優雅なムニェカ(手首の回転)を掛け合わせる。歌い手の家の娘らしく、歌のレトラの意味と呼吸を体に入れてから足を打ち込むのが最大の強みである。
  • 代表作1: フラメンコ・オン・ファイアの夜のタブラオ(デフラメンコTV、2024年)。パンプローナの音楽祭の映像(約4分半)で、歌はイスマエル・デ・ラ・ロサ「エル・ボラ」とミゲル・ラビ、ギターはフアン・カンパージョ。猛烈な速度で畳みかけるサパテアードが、歌い手の声の切れ目とギターのレマーテに1ミリの狂いもなくピタリと止まる瞬間が見どころである。
  • 代表作2: 『Atrevida』上演後の本人インタビューと舞台抜粋(エクスポフラメンコ公式、2023年)。ビジャマルタ劇場の大舞台を終えた直後の本人の言葉と舞台の空気が記録された約6分の映像で、「根っこの踊り手でありながら身ぶりは優雅」と評される彼女の素顔と舞台姿の両方が確認できる。
  • いま・位置づけ: 2026年12月9日から11日まで、マドリードの王立劇場(テアトロ・レアル)の連続公演「フラメンコ・レアル」に、セビリアの若手歌い手ガブリエル・デ・ラ・トマサと共に主演する(ヘレスのペーニャ連合との提携公演)。タブラオや一族の宴で鍛えた「その場で決める」即興の熱を、大劇場の作品へそのまま持ち込める世代屈指のバイラオーラである。

フラメンコカンテ列伝

  • 生い立ちと二つの名門の血脈: 今日の一人はレラ・ソト(Lela Soto)。本名ラファエラ・ソト・エレディア。1992年マドリード生まれで、父方の故郷ヘレス・デ・ラ・フロンテーラに根を下ろした。父方の系譜は、19世紀の伝説的なシギリージャ歌手パコ・ラ・ルス(フランシスコ・バレンシア・ソト、1839〜1901年)からエル・グロリア、ラ・ポンピ、マリア・バラへと続き、「ソルデラ」の異名を初めて名乗った祖父マヌエル・ソト・モンヘ「ソルデラ・デ・ヘレス」(1927〜2001年)、父の歌い手ビセンテ・ソト、叔父のエンリケ、エル・ボ、そして「ケタマ」を創設したホセリート・ソルデラ(ソルデリート)へと連なるヘレス屈指の歌の一族である。一方、母はマドリードの名門エレディア家の踊り手ルイサ・エレディアで、その兄は「新しいフラメンコ(ヌエボ・フラメンコ)」の扉を開いた天才音楽家レイ・エレディアである。この巨大な家系の中で、職業としてカンテに生きる女性はレラ・ソトが史上初めてとなった。
  • サンティアゴ地区への帰還と転機1(2018年): マドリードとヘレスを行き来して育ち、幼いころからアレハンドロ・サンス、ニーニャ・パストーリ、ピティンゴらの録音や舞台にコーラスとして参加し、年齢の近い叔父ソルデリートや母方の叔父レイ・エレディアの音楽性に強く惹かれて育った。やがて父方の本拠であるヘレスのサンティアゴ地区(バリオ・デ・サンティアゴ)に腰を据えたことで、控えめだった彼女が自らの名で舞台に立つ決意を固めた(マドリード国立音楽堂プログラムのフェルミン・ロバトン解説)。2018年2月、ヘレス・フェスティバルで父ビセンテ・ソトのアルバム『Coplas del desagravio. A la mujer(名誉回復の歌――女性へ)』の公演に加わり、カディス風の豊かな旋律を持つブレリアを歌って注目を集めた。同年春にはマドリードのコンデ・ドゥケ文化センターの公演『Nuevo Jerez』で同世代のマリア・テレモトとファンダンゴを歌い合って総立ちの拍手を受け、エクスポフラメンコ誌の取材に「父と歌うと落ち着いて安心できる。父はとても厳しいが、父としても芸術家としてもそうあるべきだ」「幸運だったという言葉は好きではない。ソルデラであること、ビセンテの娘でマヌエルの孫であることの誇りと責任を背負い、毎日働いて歌で生きる場所を作っている」と語った。
  • 転機2(2019年、批評家賞と国際舞台): 2019年の第23回ヘレス・フェスティバルで批評家投票による「ペリスコ・フラメンコ賞」を受賞し、オランダ・ビエナル、マドリードのスマ・フラメンカ、マラガ・ビエナル、セビリア・ビエナル、トゥールーズ、コペンハーゲンなど国内外の主要音楽祭へ進出した。
  • 転機3(2025年、初アルバム『El fuego que llevo dentro』): 2025年2月、長年温めた初のソロ・アルバム『El fuego que llevo dentro(私の内にある火)』を発表した。題名は父ビセンテ・ソトがかつて録音したタンゴから取ったもので、レラ自身はその胸の内の火を「暴れ馬が百頭(cien caballos desbocaos)」と呼ぶ。21世紀を生きる一人の女性としての経験と、愛しても救えない関係の暗がりや影を伝統のパロに託し、歌詞の大半を本人と、いとこのマヌエラやマヌ・ソト、叔父ソルデリート、父ビセンテ、ディエゴ・マレナらが書き下ろした。また、職業歌手にはならなかったものの家庭内で歌い継いできたラ・ポンピやマリア・バラら一族の女性たちのレパートリーに光を当てている。伴奏にはディエゴ・デル・モラオ、ホセミ・カルモナ、クーロ・カラスコ、ホセ・デル・トマテ、リカルド・モレノ、アントニオ・マレナ、ルベン・マルティネス(ルベン・デ・リニョーラ)の7人のギタリストを迎え、全員に「自分の居心地のよい領域から一歩出て、私の音楽と詩の世界に入ってほしい」と求めた。
  • 声質・技法と比較: 電子音楽や別ジャンルとの外的な融合で新しさを出す同世代が多い中、レラは「フラメンコのジャンルの内側から刷新する」道を取る。レイ・エレディア譲りの正確な音程感(アフィナシオン)と瑞々しい和声感覚、そしてソルデラ家の血が持つ細く鋭い金属的な輝き(フィノ・イ・フラメンコ・メタル)とヘレスのコンパス感が同居しているのが特徴である。
  • 代表作1: 『Bulerías de mi casa(わが家のブレリア)』(公式映像、2025年)。文字どおりソルデラ家のブレリアを歌う代表曲で、祖父や父、そして一族の女性たちから受け継いだ節回しを、高く澄んだ声と正確なリズムで軽やかに跳ねさせるところを聴きたい。
  • 代表作2: 『Inaccesible(近寄れない人)』(公式映像、2025年、ディエゴ・デル・モラオ共演)。同じヘレスの名門モラオ家のディエゴ・デル・モラオのギターと組んだ一曲で、モラオ特有の太くうねる親指(プルガール)の伴奏に、レラの細く張りのある高音が絡み合う。
  • 代表作3: ロ・フェロ国際フラメンコ祭でのティエント〜タンゴ(公式映像、2025年)。ムルシア州の音楽祭で、ギタリストのルベン・ラーラを伴奏に歌った約6分の舞台映像である。重く遅いティエントで声をじっくり伸ばした後、後半に速いタンゴへギアが切り替わる瞬間のコンパスの切れ味と声の張りの変化が聴きどころである。
  • いま: 2026年2月27日にはヘレス・フェスティバル(ラ・アタラヤ博物館)で父ビセンテや母ルイサ、ディエゴ・デル・モラオらをゲストに迎えて歌い、4月24日にはマドリードの国立音楽堂(サラ・デ・カマラ)でルベン・マルティネスのギター1本とパルマ2人(レジェス・モレノ、フアナ・ゴメス)だけを従え、飾り気のない70分間の独唱会を成功させた。一方で、歌い手イスラエル・フェルナンデスやヘヴィ・ロック系バンド「フレンテ・アビエルト」と組む実験的なプロジェクトでも活動している。

フラメンコのパロ解説

  • 起源と歴史・系統(パロ要素1): 今日のパロはミラブラス(Mirabrás)。カディス湾岸、とりわけグアダルキビール川河口の港町サンルーカル・デ・バラメダやカディスを中心とするカンティーニャ(Cantiñas)群の一つで、アレグリアス、ロメーラス、カラコレスと兄弟関係にある。いずれも「踊りのためのソレア(ソレア・デ・バイレ)」のコンパスを速く軽やかにした形から派生した。成立時期は19世紀初め、下アンダルシアの祝祭の踊り歌(バイレス・フェステーロス)にさかのぼるという説が有力で、アラゴンのホタが「カディスのホタ」を経由して混ざったという説もある。名前の由来には諸説あり、「ミラ、ブラス(見ろよ、ブラス)」という呼びかけが詰まったという俗説、「ミラ・イ・ベラス(見ればわかる)」から来たという説、18世紀のカンティーニャの一節「Mirabrás que labrando vas(耕しながら行くミラブラス)」や「エル・アルモラーノ」という古歌の反復句から来たという説、さらには1794年のトナディージャ(小歌劇)『貧しいヒターナと恋するマホ(La gitana pobre y el majo enamorado)』のルフランにすでにこの語が出ているという指摘がある。フラメンコ研究者のホセ・ブラス・ベガとマヌエル・リオス・ルイスは「ブラスという人名」説や「見ればわかる」説を根拠のない俗説として退けており、歌詞の反復句が曲名になった点では意見が一致している。19世紀後半にカフェ・カンタンテ(歌の酒場)へ持ち込んで最初のフラメンコ版を作ったのはティオ・ホセ・エル・グラナイーノとされ、サンルーカルで失われかけていたこの歌に今日伝わる決定的な形と格調を与え、1912年ごろマドリードで広めたのがヘレスの大歌手ドン・アントニオ・チャコン(Don Antonio Chacón)である。
  • コンパスと数え方(パロ要素2): コンパスはソレアやアレグリアスと同じ12拍周期で、軽やかで弾むようなテンポ(ソレア・アイローサ)で進む。数え方は「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12」で、3、6、8、10、12にアクセント(強拍)を置く。パルマ(手拍子)は12拍目から勢いよく入り、前半の3拍目と6拍目で手をそろえ、後半の7・8・9・10・11・12を2拍ずつの塊で刻むと数えやすい。ただし終盤の「物売りの呼び声(プレゴン)」に入ると、歌い手が拍を自由に引き伸ばすため、ギターとパルマはコンパスを保ちつつ歌の呼吸に寄り添い、最後の短いカンティーニャで再びくっきりした12拍に戻る。
  • 調性とコード進行・ギターの構え(パロ要素3): 調性は明るい長調(メジャー)である。ギターはカポタスト(セヒージャ)を使って歌い手の声域に合わせるが、基本の運指は、Eメジャーの構え(ポル・アリーバ)なら主和音のEと属七のB7(間にサブドミナントのAを挟む)、Aメジャーの構え(ポル・メディオ)なら主和音のAと属七のE7(間にDを挟む)の往復が骨格になる。第2部ではロメーラスやカラコレスに似た一時的な転調(短調や並行調への揺れ)を見せてから元の長調へ明るく戻る。歌い手は「ポル・アルト(高い音域)」、とくにA(ラ)の音を軸に高く張って歌う定型があるため、息の長さと正確な音程が求められ、現在では歌いこなせる人が少ない「絶滅危惧のカンテ・フォシル(生きた化石の歌)」とも呼ばれる。
  • レトラの形式と歌詞のテーマ(パロ要素4): 決まった単一の詩型ではなく、性格の異なる三つの部分をつないだ組歌(ポプリ)の構造を持つため「長いアレグリアス」とも呼ばれる。
  • 第1部(自由主義の歌): ナポレオン戦争下の1812年にカディスでスペイン初の自由主義憲法(ラ・ペパ)が公布された時代の空気を映す、誇り高い市民・民主主義の歌。「A mí qué me importa que un rey me culpe, si el pueblo es grande y me abona; voz del pueblo, voz del cielo, que no hay más ley que son las obras(王が私を咎めようと構わない、民衆が大きく私を支えてくれるなら。民の声は天の声、行い以上の法はない)」と歌い出す。
  • 第2部(果物売り・八百屋の呼び声=プレゴン): チャコンがアンダルシアの古い民俗歌謡から取り入れて後ろへつないだ市場の呼び声。「Venga usted a mi puesto, hermosa, y no se vaya usted, salero; castañas de Galaroza, yo vendo camuesos y peros, albaricoques preciosos…(美しい人、私の露店へおいで、粋な人よ行かないで。ウエルバ県ガラロサの栗、りんごに梨、見事なあんずを売っているよ)」と、果物や野菜の名を次々に並べる。
  • 第3部(締めのカンティーニャ/マチョ): 短い3行または4行のカンティーニャで歯切れよく締めくくる。
  • カンテ・バイレ・ギターの聴きどころと踊りの構成(パロ要素5): カンテの聴きどころは、前半の格調高い政治的・哲学的な詞から、後半の庶民的な市場の物売りの声へ鮮やかに表情を変える対比にある。ギターは、明るいラスゲアード(かき鳴らし)と、第1部と第2部の間をつなぐ華やかなファルセータ(旋律の独奏部)、そして呼び声の自由な伸びを受け止める伴奏の呼吸が聴きどころとなる。バイレ(踊り)にはセビジャーナスのような固定の振り付けはなく、カディスのアレグリアスの型を基に、①ギターと歌の入りに合わせたサリダ(登場)、②第1部の長いレトラを大きく開いたブラソ(腕)と優雅なマルカヘで踊る部分、③ファルセータとシレンシオ、④呼び声(プレゴン)の伸びやかなテルシオを体全体の向きと手首(ムニェカ)で受ける場面、⑤エスコビージャ(サパテアードの足技の独奏部)、⑥速いブレリア・デ・カディスでの締め(シエレ)、という構成で踊られる。
  • 代表録音・解釈の比較(パロ要素6):
  • マヌエル・バジェホ(Manuel Vallejo、1931年録音、ギター:ニーニョ・ペレス): 確認されている最古級のSP盤録音。チャコンから直接学んだバジェホが軽快なリズムで歌うが、共和派として知られたバジェホが冒頭の「que un rey me culpe(王が私を咎めようと)」を「que tú me culpes(あなたが私を咎めようと)」に変えて歌っている。第二共和政が宣言される直前、ベレンゲル将軍の検閲下で録音されたため「王」の語を避けたのではないかと研究家アンドレス・ラヤは指摘している。
  • ラファエル・ロメロ「エル・ガジーナ」『Mirabrás』(公式配信、1954年録音): ハエン県アンドゥーハル出身の歌い手ラファエル・ロメロが、イスパボックス社の歴史的録音『フラメンコ選集(Antología del Cante Flamenco)』に入れた決定盤である。ギターは、チャコン本人からこの歌の伴奏を直接習った名手ペリコ・エル・デル・ルナール(Perico el del Lunar)。冒頭の「王が私を咎めようと」を本来の詞で堂々と張り上げ、2分過ぎから拍がふっと緩んで「美しい人、私の店へおいで、ガラロサの栗…」と果物売りの呼び声へ移り、最後に再び12拍のコンパスへ戻る教科書的な構成が明瞭に聴き取れる。
  • サンルーカルと現代への継承: エル・ガンドゥルやエル・ネグロ・デ・ロタといった地元カディス県の名手から、アントニオ・マイレーナ、フアン・バルデラマ、エル・レブリハーノ、エンリケ・モレンテ、さらにサンルーカル出身のラウラ・ビタルらへと歌い継がれ、踊りではマヌエラ・カラスコやサラ・バラスらが大作の中で取り上げてきた。
  • 似たパロとの聴き分け方(パロ要素7): 同じカディスのカンティーニャ群であるアレグリアスやカラコレスと聴き分けるポイントは三つある。第一に、アレグリアスが「ティリ・ティ・トラン」という掛け声(タラントまたはサリダ)で始まり短い4行詩を軽快に連ねるのに対し、ミラブラスはその掛け声を使わず、「王が私を咎めようと」という長い詞から入ることが多い。第二に、同じように物売りの呼び声(プレゴン)で終わるカラコレスは、チャコンがマドリードの風物を織り込んで都会的に磨き上げ、曲の最後に「カラコレス(カタツムリ)はいらんかね」とカタツムリ売りの声を置くのに対し、ミラブラスはサンルーカルやウエルバ県ガラロサの栗、りんご、梨を呼ぶ果物売り・八百屋の声(ラ・フルテーラ/ラ・ベルドゥレーラ)で終わる。第三に、旋律の運びとして、カラコレスがバロック的とも評される華麗なメリスマ(音の装飾的なうねり)を多用するのに対し、ミラブラスはより直線的で力強い高音の張りと、うねるような12拍の揺れ(バイベン)を前面に出す。

まとめ

  • 今日のスペインは、それぞれの教本を持つ人の日だった。グラナダの洞窟とタブラオで伴奏を覚えたホセ・フェルミン・フェルナンデスがベジードの遺作を鳴らし、セビリア・ビエナルの賞を音楽院出身のウルタドと分け合う。ヘレスのヘマ・モネオは父のギターで自ら歌い出してビジャマルタ劇場の幕を開け、ソルデラ家のレラ・ソトは一族初の女性プロ歌手として胸の内の「百頭の暴れ馬」を歌う。1812年の自由の歌に果物売りの呼び声をつないだチャコンのミラブラスもまた、一人の名手が書き残した生きた教本である。

参考ソース


← 2026-10-21 の一覧に戻る


音声合成: VOICEVOX / キャラクター: ずんだもん ・ 四国めたん