拍のない鉱山歌「ミネラ」と伴奏者の創造性【スペイン 2026/10/04】
2026-10-04 / スペイン便り
概要
スペインの文化とフラメンコを、鉱山歌「ミネラ」と伴奏する側の創造性を軸に解説します。ダニ・デ・モロン、パトリシア・ゲレーロ、エストレージャ・モレンテの歩みを、作品の具体的な聴きどころ・見どころとともにたどります。
▼ 今日のトピック ・セウタの移民キャンプ撤去とカタルーニャ豪雨 ・内戦下の巡回劇団ラ・バラッカを写した未公開写真45枚 ・マルコ・フローレスの国民舞踊賞とスマ・フラメンカ2026 ・ギタリスト列伝:ダニ・デ・モロン ・バイレ列伝:パトリシア・ゲレーロ ・カンテ列伝:エストレージャ・モレンテ ・工房だより:エルマノス・サンチス・ロペス ・パロ解説:鉱山の歌「ミネラ」
▼ 参考記事・ソース ・El Mundo「セウタのトランポリン海岸で移民キャンプ撤去開始」 https://www.elmundo.es/espana/2026/10/04/6ac1f3dbe85ece39088b45a4.html ・El País「ラ・バラッカ、ロルカ死後の戦時公演を写した未公開写真」 https://elpais.com/cultura/2026-10-04/la-barraca-en-guerra-despues-de-lorca-descubierta-la-mayor-coleccion-de-fotografias-ineditas-de-una-funcion.html ・DeFlamenco「Marco Flores, Premio Nacional de Danza 2026」 https://www.deflamenco.com/revista/noticias/marco-flores-premio-nacional-de-danza-2026-en-la-modalidad-de-interpretacion.html ・DeFlamenco「Suma Flamenca 2026」 https://www.deflamenco.com/revista/noticias/suma-flamenca-2026-presenta-43-espectaculos-y-21-estrenos-bajo-el-lema-flamencas.html ・公式映像「ダニ・デ・モロン『ラ・マサロカ』」 https://www.youtube.com/watch?v=ySZagd2n9Xo ・公式映像「パトリシア・ゲレーロ『カテドラル』」 https://www.youtube.com/watch?v=42n6L4YY5Kg ・公式配信「エストレージャ・モレンテ『エン・ロ・アルト・デル・セロ』」 https://www.youtube.com/watch?v=CR3wcdcKrUk ・バレンシア・プラサ「エルマノス・サンチス・ロペス工房」 https://valenciaplaza.com/musica-opera-valencia-comunitat-valenciana/la-casa-centenaria-valenciana-que-ha-construido-guitarras-para-paco-de-lucia-y-estopa ・Junta de Andalucia「Minera」 https://www.juntadeandalucia.es/cultura/flamenco/content/minera ・映像「グレゴリオ・モヤのミネラ」 https://www.youtube.com/watch?v=krWNoMuhdTc
#スペイン #フラメンコ #ずんだもん #四国めたん #ダニデモロン #ミネラ
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スペイン文化・フラメンコ便り(2026年10月4日)
オープニング:2026年10月4日 — スペイン文化・フラメンコ便り
- 今日のスペイン語は「アニモ(¡Ánimo!)」。落ち込んだ人や困難の中にいる人へ「元気を出して」「がんばって」と声を掛ける言葉で、名詞としては「気力・心意気」を指す。豪雨に見舞われたカタルーニャへの一言でもある。
- 今日の軸は「鉱山の歌と、伴奏する側の創造性」。ムルシア州ラ・ウニオンの鉱山から生まれたパロ「ミネラ」を、同じ鉱山祭で17歳のときに賞を得た踊り手パトリシア・ゲレーロ、伴奏の技を一枚のアルバムにしたギタリストのダニ・デ・モロン、そしてファリャとロルカへ戻る歌い手エストレージャ・モレンテとつなぐ。
国際情勢(スペイン視点)
- 10月4日朝、セウタ(北アフリカのスペイン領)で国家警察350人超がトランポリン海岸の移民キャンプの第一段階の撤去を始めた。食料配給数から3,500人前後が暮らすと推計され、全員分の受け入れ枠がないため撤去は部分的。移民はタラハル国境の一時受け入れ施設へバスで移され、数十人は徒歩でモロッコへ戻る道を選んだ(エル・ムンド)。
スペイン国内ニュース
- 住宅の立ち退き防止を柱とする政令(通称「マリカルメン政令」)が国民党・ボックス・ジュンツの反対で否決されたことを受け、エル・パイスは10月4日、社会労働党と政府の多数派がサンチェス首相に「11月29日」の前倒し総選挙を勧めていると報じた。エル・ムンドは、首相がサパテロ元首相を通じてジュンツの説得を試みていた舞台裏を伝えた。
- カタルーニャは週末の記録的豪雨で、トルデラで75歳の男性が壁の倒壊により、モントルネス・デル・バリェスで車庫へ降りた男性が死亡し、ピネダ・デ・マルで1人が行方不明。消防は130人を救助し、ベソス川はサンタ・コロマで毎秒903立方メートル、水位3.5メートルに達した。イリャ州首相は「今日は家にいる日だ」と呼びかけた。日本の大雨特別警報と同様、スマートフォンへの一斉警報「ES-Alert」で低層階・地下を避けるよう指示が出た。
文化・芸能ニュース
- ラ・バラッカ、内戦下の未公開写真45枚(エル・パイス、10月4日): ロルカが率いた大学巡回劇団ラ・バラッカは、ロルカ銃殺の1年後の1937年8月29日(日)、共和国の首都だったバレンシアのビベロス庭園でセルバンテスの幕間劇『サラマンカの洞窟』『不思議な見世物』『二人のおしゃべり』を上演した。ナチスを逃れたドイツ人写真家ウォルター・ロイター(1906–2005)がその模様を45枚撮影していた。映画人ギジェルモ・フェルナンデス・スニガの家に眠っていた70ミリ映画缶の中、4,000枚超のネガから、写真アーカイブ修復家アク・エステバランスが見つけた。マドリード・コンプルテンセ大学のハビエル・ウエルタ・カルボ教授は、劇団史上最も大規模な公演を写した最大の連作だろうと話す。客席には千〜二千人。空襲の夜を前にした夕方に、子どもたちが街灯に群がって芝居を見る写真は、文化が戦時の士気そのものだったことを伝える。日本でも戦中に移動演劇が各地を巡ったが、ここでは政府の宣伝部の写真家が「笑う観客」を記録した点が対照的である。
- ベトゥスタ・モルラ、2年の休止から復帰(エル・ムンド、10月2日): マドリード近郊トレス・カントス出身のロックバンドは、健康上の理由と数十年の活動の疲れを理由に2024年から休んでいた。バルセロナのパラウ・サン・ジョルディで始めた復帰ツアー『ヒラ・デ・ブエルタ』では、11曲の新曲のうち未発表の3曲を冒頭に並べ、画面に歌詞字幕を出した。9月29日には新曲の歌詞冊子100部を会場周辺に隠し、10月1日に全員へ電子版を配った。先行曲『シ・ブエルベス』は配信で50万回を超えた。休むことを公言して戻ったバンドの姿は、働き続けることが美徳になりやすい日本の芸能界と対照的である。
- パロマ・サンチェス=ガルニカの新作『名誉の男』(エル・ムンド、10月2日): 2024年プラネタ賞作家は、ニューヨークのマフィア、報道、権力、家族の秘密を描く新作を出した。取材で「アメリカの指導者は、200年前と同じく今も移民の国だと思い出すべきだ」と語り、スペインからの移民史を物語の背景に置く。
フラメンコニュース
- マルコ・フローレス、2026年スペイン国民舞踊賞(演技部門): 文化省が9月30日に発表した。カディス県アルコス・デ・ラ・フロンテーラ出身(1981年生)で、2010年に自らの舞踊団を設立。審査員は作品『ティエラ・ビルヘン(未開の土地)』(2025年)と『ラユエラ』の巡演を挙げ、「コンパスの支配と名人芸で、優雅さと舞台上の多才さから フラメンコを変える」と評した。賞金は3万ユーロ。創作部門はグラナダ出身のアマリア・フェルナンデスの『ファミリア』。演技部門は2010年のロシオ・モリーナ以来、イサベル・バヨン、ルベン・オルモ、マヌエル・リニャン、オルガ・ペリセ、パトリシア・ゲレーロ、アナ・モラレスとフラメンコの踊り手が続けて受けている。
- スマ・フラメンカ2026、テーマは「フラメンカス(女性たち)」: マドリード州の祭典は10月13日〜11月1日、43演目・47公演、世界初演21本、マドリード初演12本。ポスターはカルメン・アマヤ。前奏として9月30日からアテネオ・デ・マドリードのアンセルマ室で、写真家アナ・パルマが歌い手・踊り手・女性ギタリスト(トカオーラ)を撮った50枚の写真展「フラメンカス」が10月28日まで無料公開中。パルマは「生きていて、ドゥエンデがあり、見る人の肌を粟立たせる写真を探す」と語る。出演にはロシオ・モリーナ、イスラエル・ガルバン、パトリシア・ゲレーロ、ファルキート、カルメン・リナーレスらが並ぶ。
- エストレージャ・モレンテ、ファリャ『恋は魔術師』1914年版へ(エル・ムンド、10月3日): ツアー「ロルカ、ファリャとエストレージャ・モレンテ:スペインの魂の炎」で、作曲家ファリャ生誕150年と27年世代の100年を記念し、台本作家マリア・レハラガの言葉が残る1914年版を歌う。レハラガの作品の多くは夫グレゴリオ・マルティネス・シエラの名で出ていた。モレンテは「私のキャリアはずっと女性へのオマージュだった」と語り、映画『ラ・ボラ・ネグラ』ではペネロペ・クルスの役のオーディションまで受けていたと明かした。
- フラメンコとアンダルシア: 国の賞はアンダルシア出身者が続くが、スマ・フラメンカはマドリードが「国の顔」として女性たちの歴史を束ねる場になる。モレンテはグラナダのファリャ邸とロルカの夏の家の記憶を語り、首都の舞台でもアンダルシアの土地と家族の記憶から歌を始めている。
フラメンコギタリスト列伝
- 今日の一人はダニ・デ・モロン(本名ダニエル・ロペス・ビセンテ、1981年9月6日セビリア生)。生まれはセビリアだが、ずっとセビリア県モロン・デ・ラ・フロンテーラで暮らしてきた。モロンはディエゴ・デル・ガストールの町として知られ、親指で太い低音を打ち、ブレリアを乾いた音で刻むギターの伝統を持つ。彼もまずこの町のペーニャ(愛好会)とコンクールで歌の伴奏を重ねた。
- 転機は踊りの伴奏を学ぶ必要に迫られたこと。セビリアのトリアナにあるマティルデ・コラル舞踊学院を「第二の家」とし、足の音、決めのタイミング、踊り手の呼吸に合わせて間合いを変える技術を身につけた。その経験がアントニオ・カナレス、ハビエル・ラトーレ、マヌエラ・カラスコらの舞踊団への道を開いた。
- 決定的だったのは、パコ・デ・ルシアの『コシータス・ブエナス』(2004年)ツアーで第二ギターを務めたこと。主旋律を奪わず、和音の厚みとコンパスの土台で名手の独奏を支える役割で、伴奏者としての評価を固めた。
- 独奏作は『カンビオ・デ・センティード(方向転換)』(2012年)で始まり、批評家賞「フラメンコ・オイ」の最優秀ギター独奏アルバムを受けた。続いて『エル・ソニード・デ・ミ・リベルタ(自由の響き)』(2015年)。
- 代表作は2018年5月18日発売の『21』(ユニバーサル)。エル・ペレのソレア、ミゲル・ポベダのグアヒーラ、ドゥケンデのシギリージャ、エストレージャ・モレンテのファンダンゴ、ロシオ・マルケスのタンゴ、アルカンヘルのブレリア、マリナ・エレディアのアバンドラオ、エスペランサ・フェルナンデスのカンティーニャなど、11人の歌い手にそれぞれ違うパロを割り当て、最後に自作のグラナイーナ独奏を置いた。歌の伴奏そのものを主題にした体系的な一枚で、同年のラテン・グラミー最優秀フラメンコ・アルバムにノミネートされた。
- この企画は2016年9月21日、セビリアのビエナルでレアル・アルカサルの中庭で初演され、踊り手イスラエル・ガルバンも加わった。専門誌デフラメンコの批評は「左手に5本より多い指があるようだ」と書き、ギターを打楽器のように扱うリズム感と和声の幅を評価した。ビエナルではヒラルディージョ賞を2度受けている。
- 2020年の『クレエル・パラ・ベル(見るために信じる)』では打楽器、ジャズの響きへ広げ、2024年1月26日の『エンパティア(共感)』では、歌のない曲を「歌い手に寄り添うギター」として書いた。打楽器はアグスティン・ディアセラ、パルマはウエルバの双子ロス・メジス、歌の客演はセルヒオ・ゴメス「エル・コラオ」一人だけ。歌が入る前提の空白を、ギター自身が歌のように埋める発想である。
- 公式映像『ラ・マサロカ』は『クレエル・パラ・ベル』収録曲で、友人の営むレストランの名を題にした速い曲。アルバムで唯一パルマが入る曲なので、手拍子が加わった瞬間にギターの刻みが打楽器的に締まり、パルマの裏でアクセントをずらすところに注目して聴きたい。
- 打楽器との二人編成は、オランダのフラメンコ・ビエンナーレ公式映像『ダニ・デ・モロン・デュオ(2023年)』でも確認できる。ディアセラの打楽器が拍を細かく刻む中で、ギターが和音を間引き、低音一つで拍の頭を示す瞬間に、踊りの伴奏で鍛えた呼吸が聞こえる。
- 位置づけ: 独奏の速さで名を上げた世代の後に、「伴奏とは何か」を作品のテーマに引き上げた奏者。モロンの太い親指の伝統と、踊りの学校で覚えた間合いを、ジャズや和声の探究と結びつけた点に新しさがある。
フラメンコバイレ列伝
- 今日の一人はパトリシア・ゲレーロ(本名パトリシア・ペレス・ゲレーロ、1990年2月27日グラナダ・アルバイシン地区生)。踊り手の母マリア・デル・カルメン・ゲレーロの学院で3歳から踊り、15歳でマリオ・マジャが率いた「フラメンコ研究センター」に入り、国内の主要劇場と祭典を経験した。
- 2007年、17歳でラ・ウニオンの国際フェスティバル「カンテ・デ・ラス・ミナス」で踊りの最高賞「デスプランテ賞」を受けた。今日のパロ解説で扱う鉱山の歌の町が、踊り手としての出発点でもある。
- 2010年にルベン・オルモの舞踊団、2011年にアンダルシア・フラメンコ・バレエの第一舞踊手となり、2013年にグラナダのアルハンブラ劇場で初の自作『ラティドス・デル・アグア(水の鼓動)』を発表した。
- 代表作『カテドラル(大聖堂)』は2016年9月30日、第19回ビエナルで初演され、最優秀作品のヒラルディージョ賞を得た。演出はフアン・ドローレス・カバジェーロ。踊り手4人、音楽家3人、オペラ歌手2人、カンタオール1人の編成で、社会と宗教の慣習に縛られた女性が自らの影と向き合う筋立てを、フラメンコ、宗教的な聖歌、声楽で組み立てた。ギターはフアン・レケナ、打楽器はアグスティン・ディアセラ、歌はホセ・アンヘル・カルモナ。
- アンダルシアの公共放送の公式映像『カテドラル』では、聖歌の長く伸びる声の上でサパテアードが細かく刻まれる場面に注目したい。上体とブラソを抑えたまま足だけが速くなり、祈りの静けさと身体の抵抗が同時に見える。
- 2021年にスペイン国立バレエの『ラ・ベジャ・オテロ』に客演し、同年の国民舞踊賞(演技部門)を受賞。審査員は「最も伝統的なフラメンコから新しい形と美学を取り込んだ」と評した。2022年のビエナルでは『デリランサ』を上演し、2023年からはアンダルシア・フラメンコ・バレエの芸術監督を務める。今年のスマ・フラメンカにも名を連ねる。
- 影響: グラナダの家族の学院、マリオ・マジャの劇場的な訓練、鉱山祭の受賞、公的バレエ団の運営という道筋は、個人の名人芸と公共の舞踊団をつなぐ現代のバイラオーラの典型になっている。
フラメンコカンテ列伝
- 今日の一人はエストレージャ・モレンテ(本名エストレージャ・デ・ラ・アウロラ・モレンテ・カルボネル、1980年8月14日グラナダ県ラス・ガビアス生)。父は歌い手エンリケ・モレンテ、母は踊り手アウロラ・カルボネル。7歳から父の舞台に立ち、同じ頃にギタリストのサビーカスとも共演した。16歳でシエラ・ネバダのアルペンスキー世界選手権の発表会で公式デビューした。
- 父が詩を歌にした『オメガ』(1996年)に参加し、2001年の初アルバム『ミ・カンテ・イ・ウン・ポエマ(私の歌と一編の詩)』(ヴァージン)はプラチナ・ディスクとなった。父が歌と歌詞を編んだこのアルバムが、伝統のパロと詩を結ぶ彼女の出発点になった。
- 収録曲『エン・ロ・アルト・デル・セロ(タンゴ)』(レーベル公式配信)では、4拍のタンゴのコンパスに乗りながら、語尾を短く切り上げる明るい声質と、節回しを細かく揺らして言葉を跳ねさせる歌い方を聴きたい。重いカンテ・ホンドとは違い、軽さの中にグラナダの節がにじむ。
- 2006年、ペドロ・アルモドバル監督の映画『ボルベール』でペネロペ・クルスが歌うタンゴ『ボルベール』の歌声を担当し、フラメンコ外の観客にも声を届けた。2016年にはピアニストのハビエル・ペリアネスと、ファリャとロルカを組み合わせた『エンクエントロ』を録音し、2023年にはギタリストのラファエル・リケーニと共作を出した。ダニ・デ・モロンの『21』ではファンダンゴを歌っている。
- 2014年にアンダルシア・メダルを受けた。今回の『恋は魔術師』1914年版のツアーでは、ロルカの『古いスペインの歌』から『アンダ・ハレオ』『ロス・クアトロ・ムレーロス』『エル・カフェ・デ・チニータス』を前半に、ファリャを後半に置く。
- 暮らしと創作: 父は幼い彼女をファリャの家とロルカの夏の家へ遊びに連れて行った。結婚式もファリャの家とファリャ記念劇場の間の場所で挙げたという。息子クーロは音楽家として家族の三代目になり、娘は大学でデザインを学ぶ。モレンテ家の名を「重荷より翼」と呼び、今年亡くなったペペ・アビチュエラを「人生とキャリアと子ども時代の一部」と語った。
フラメンコギター工房だより
- 今日の工房は、バレンシアのエルマノス・サンチス・ロペス(サンチス・ロペス兄弟)。全履歴を照合し、未紹介の工房であることを確認した。1915年、祖父リカルド・サンチス・ナチェルがバレンシア近郊マサナサの自宅で小さな工房を開いたのが始まりで、現在はバレンシア市内のフォック通りに工房を置く。
- 創業者は少年期からバレンシアの製作家サルバドール・イバニェス、テレスフォロ・フルベに学び、兵役でマドリードに3年いた間に、ラミレス家、ゴンサレス家、そしてドミンゴ・エステソと親交を結んだ。2代目リカルドとビセンテ・サンチス・バディア、3代目リカルド・サンチス・カルピオを経て、現在は4代目のダビドとヘルマン兄弟が製作し、母が会計と顧客対応を担う家族経営である。
- バレンシア・プラサ紙(2022年)によると、一本の製作は約3か月、価格は2,000ユーロから。客が音を聴き比べられるよう2〜3本を同時に作ることが多い。木材は工房で25〜60年かけて自然乾燥させ、糸杉は「明るく旋律的」、ローズウッドは「深く力強い」音になると兄弟は説明する。父が集めた1992年以前のブラジリアン・ローズウッドの在庫があり、ワシントン条約で取引が禁じられた現在は新たに入手できない。
- 弦高はミリ単位で調整し、昔は葉巻の太さで測ったという。顧客にはパコ・デ・ルシア、トマティート、ラモン・デ・アルヘシラス、ペドロ・シエラ、カルロス・ピニャーナ、アントニオ・レイ、そして創業期から3組のフラメンコギターを作ったデュオのエストパがいる。
- フラメンコ用は低い弦高と速い立ち上がりで、ラスゲアードやゴルペ(表板を叩く奏法)を受け止め、カンテの声を覆わない音量のバランスが求められる。3代目のもとで量産型から高級手工品へ転換した歩みは、伴奏楽器としての要求に応えてきた歴史でもある。創業地マサナサは2024年10月の豪雨災害で大きな被害を受けた町で、今日のカタルーニャの豪雨とも重なる。
- 参考: バレンシア・プラサ紙の工房取材記事
フラメンコのパロ解説
- 今日のパロはミネラ(Minera)。19世紀半ば、ムルシア州のカルタヘナ=ラ・ウニオン鉱山地帯で、アンダルシア、とくにアルメリアから移ってきた鉱夫たちの歌と土地のファンダンゴが混ざって形になった。カンテス・デ・レバンテ(東部の歌)に属し、タランタの中でもとくに輪郭のはっきりした一形態とされる。
- 創始者はアルメリア出身の「エル・ロホ・エル・アルパルガテーロ」とされ、研究者ホセ・ブラス・ベガによれば息子が受け継いで変種を加えたという。ただし鉱山歌の成立には諸説ある。いったん消えかけたが、1961年に始まったラ・ウニオンの「カンテ・デ・ラス・ミナス」祭で復活した。
- 特徴: 主題は鉱山と鉱夫の暮らし、坑内の危険や家族への思い。簡素で、歌いこなすのが難しいカンテとされ、プロの歌い手が通常の演目に入れることは少ない。代表的な歌い手はペンチョ・クロス、アントニオ・ピニャーナ、エンカルナシオン・フェルナンデス、フォスフォリート、ホセ・ソロチェ。
- 構成: レトラは8音節の詩行4行または5行。中ほどで旋律が持ち上がり、単調さを避ける山場を作る。主に踊りを伴わない歌として伝わってきた。
- コンパス: 決まった拍子を持たない自由リズム(カンテ・リブレ)。パルマもカホンも入らず、ギターは歌い手の息の長さを待って和音を置く。同じ鉱山系でも、タラントだけが常に拍子に乗る点と対照的である。
- コード進行: フリジア旋法(ミの旋法)を移した「ミネラの調」で、主和音はG♯(ジーシャープ)。タランタの調F♯(エフシャープ)より一段高い。典型的なアンダルシア終止はAm→G→F→Eの形を移したC♯m→B→A→G♯(シーシャープマイナー、ビー、エー、ジーシャープ)。ミの旋法特有の半音の下降(A→G♯)が、終止のたびに沈み込む響きを作る。これらの鉱山歌やグラナイーナの調をギターで定めたのはラモン・モントーヤとされる。
- 鑑賞: 専門メディアの映像『グレゴリオ・モヤのミネラ(ランパラ・ミネラ2025)』は、2025年8月の第64回カンテ・デ・ラス・ミナス祭で最高賞ランパラ・ミネラ(賞金1万5千ユーロ)を得た歌。シウダー・レアル県アルガマシージャ・デ・アルバ出身のモヤを、ギタリストのパコ・コルテスが伴奏する。拍を刻まないギターが歌の句末を待ってから和音を鳴らす箇所と、中ほどで声が持ち上がる旋律の山場に注目して聴きたい。
- 日本との比較: 福岡の炭鉱地帯の炭坑節が盆踊りの手拍子に乗る労働歌になったのに対し、ミネラは拍子を捨て、一人の声の長さで坑内の重さを語る方向へ進んだ。
まとめ
- 今日のスペインは「伴奏する人が主役になる日」。ダニ・デ・モロンは伴奏そのものを作品にし、パトリシア・ゲレーロは鉱山祭から公立バレエ団の監督へ進み、エストレージャ・モレンテは忘れられた台本作家の言葉を歌い直す。拍のないミネラでは、ギターが待つことそのものが芸になる。
参考ソース
- El Mundo「La Policía Nacional inicia el desalojo del asentamiento de la playa del Trampolín en Ceuta」 https://www.elmundo.es/espana/2026/10/04/6ac1f3dbe85ece39088b45a4.html
- El País「La mayoría del PSOE y el Gobierno anima a Sánchez a convocar elecciones ya」 https://elpais.com/espana/2026-10-04/la-mayoria-del-psoe-y-el-gobierno-anima-a-sanchez-a-convocar-elecciones-ya-ahora-hay-una-oportunidad.html
- El Mundo「Sánchez usó a Zapatero como baza con Junts」 https://www.elmundo.es/espana/2026/10/03/6ac131e8e4d4d82f0f8b45b6.html
- El Mundo「El temporal de Cataluña deja dos víctimas mortales」 https://www.elmundo.es/cataluna/2026/10/04/6ac2032dfdddff42278b458b.html
- El País「La Barraca en guerra después de Lorca」 https://elpais.com/cultura/2026-10-04/la-barraca-en-guerra-despues-de-lorca-descubierta-la-mayor-coleccion-de-fotografias-ineditas-de-una-funcion.html
- El Mundo「Vetusta Morla hechiza al público en el primer concierto de su regreso」 https://www.elmundo.es/cultura/musica/2026/10/02/6ac024e321efa0414b8b456e.html
- El Mundo「Paloma Sánchez-Garnica: Los líderes de Estados Unidos…」 https://www.elmundo.es/cultura/literatura/2026/10/02/6abf8c4ffdddff84778b45c3.html
- El Mundo「Estrella Morente: Yo iba a tener un papel en La bola negra…」 https://www.elmundo.es/cultura/musica/2026/10/03/6abe7ebefdddff65188b45b9.html
- DeFlamenco「Marco Flores, Premio Nacional de Danza 2026」 https://www.deflamenco.com/revista/noticias/marco-flores-premio-nacional-de-danza-2026-en-la-modalidad-de-interpretacion.html
- DeFlamenco「Suma Flamenca 2026 presenta 43 espectáculos」 https://www.deflamenco.com/revista/noticias/suma-flamenca-2026-presenta-43-espectaculos-y-21-estrenos-bajo-el-lema-flamencas.html
- DeFlamenco「Flamencas: 50 fotografías de Ana Palma en el Ateneo」 https://www.deflamenco.com/revista/noticias/flamencas-cante-baile-y-toque-50-fotografias-de-ana-palma-en-la-sala-anselma-del-ateneo.html
- DeFlamenco「Dani de Morón」 https://www.deflamenco.com/revista/guitarra/dani-de-moron-3.html
- Aireflamenco「21 es el esperado próximo álbum de Dani de Morón」 https://www.aireflamenco.com/noticias/3227-21-es-el-esperado-proximo-album-de-dani-de-moron
- DeFlamenco「Dani de Morón "21" … La Bienal」 https://www.deflamenco.com/revista/resenas-actuaciones/dani-de-moron-21-con-israel-galvan-arcangel-duquende-rocio-marquez-jesus-mendez-la-bienal-1.html
- Revista Fuente Vieja「Dani de Morón lanza su nuevo disco Empatía」 https://www.revistafuentevieja.com/noticias-de-flamenco/noticias/2024/546/El-guitarrista-Dani-de-Moron-lanza-su-nuevo-disco-AEmpatiaA/
- Suma Flamenca 2022「Dani de Morón」 https://www.madrid.org/sumaflamenca/2022/dmoron.html
- Wikipedia「Patricia Guerrero (bailarina)」 https://es.wikipedia.org/wiki/Patricia_Guerrero_(bailarina)
- Instituto Cervantes Dublín「Catedral」 https://cultura.cervantes.es/dublin/es/Catedral/118960
- Wikipedia「Estrella Morente」 https://en.wikipedia.org/wiki/Estrella_Morente
- Revista La Flamenca「Hermanos Sanchis López」 https://www.revistalaflamenca.com/hermanos-sanchis-lopez/
- Junta de Andalucía「Minera」 https://www.juntadeandalucia.es/cultura/flamenco/content/minera
- Wikipedia「Minera (cante flamenco)」 https://es.wikipedia.org/wiki/Minera_(cante_flamenco)
- Expoflamenco「Modo flamenco y modo regio: la sonanta bien temperada」 https://expoflamenco.com/archivo/a-cuerda-pela/modo-flamenco-y-modo-regio-la-sonanta-bien-temperada/
- CVC Rinconete「Los cantes de las minas」 https://cvc.cervantes.es/el_rinconete/anteriores/julio_12/03072012_01.htm
- Castilla-La Mancha Media「Gregorio Moya se trae la Lámpara Minera 2025」 https://www.cmmedia.es/noticias/castilla-la-mancha/ciudad-real/cantaor-gregorio-moya-lleva-lampara-minera-2025-ciudad-real.html