ロンデーニャの変則調弦と現役フラメンコ三列伝【2026/10/15】

2026-10-15 / スペイン便り


概要

祖母の歌から協奏曲へ進んだギタリストのリカルド・モレノ、群舞で問いを立てる踊り手ダビ・コリア、メリダ出身の歌い手ラ・チスパの歩みと、ロンデーニャの変則調弦を掘り下げます。

▼ 今日のトピック ・ソローリャ美術館の再開 ・パンプローナ、ラ・ウニオン、コルドバの祭典 ・ジローナのギターラス・カンプス工房 ・ロンデーニャの調弦と和声

▼ 関連リンク(アーティスト・パロ・工房) ・リカルド・モレノ『Babaji』(ロンデーニャ、本人公式) https://www.youtube.com/watch?v=wjeCLvMhOJw ・リカルド・モレノ『Suite Lebrija Jerez S.XXI』(ヌバ/カロンテ公式) https://www.youtube.com/watch?v=PLIi0nOIFxk ・ダビ・コリア&ダビ・ラゴス『¡Fandango!』紹介映像 https://www.youtube.com/watch?v=8a2-majWW2g ・ダビ・コリア『El encuentro』(カナル・スール) https://www.youtube.com/watch?v=Ca8Wy8w0YmI ・ラ・チスパ(ラス・ミガス)『Tangos de la Repompa』公式ビデオ https://www.youtube.com/watch?v=D9BluE5lAhk ・ラ・チスパ『Diciembre』(カナル・エストレマドゥーラ) https://www.youtube.com/watch?v=dGdQ1lOPW_U ・ギターラス・カンプス(ジローナ)フラメンコ用FL-11-C https://www.guitarrascamps.com/en/guitars/guitarres-camps/46/FL-11-C ・ラモン・モントーヤ『Rondeña』 https://www.youtube.com/watch?v=BE5TWd8mFm4 ・ヘラルド・ヌニェス『Donde duerme la luna(Rondeña)』 https://www.youtube.com/watch?v=co9Qb0c73JI

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スペイン文化・フラメンコ便り(2026年10月15日)

オープニング:2026年10月15日 — スペイン文化・フラメンコ便り

  • 今日のスペイン語は「マノス・ア・ラ・オブラ(¡Manos a la obra!)」。直訳は「手を作品へ」で、「さあ、取りかかろう」と作業を始めるときに使う。
  • 今日の軸は、手を動かして伝統を更新する人々である。祖母の歌から協奏曲へ進んだギタリスト、群舞で問いを立てる踊り手、メリダ出身の歌い手、ジローナの工房、そしてロンデーニャの変則調弦をたどる。

スペイン国内ニュース

  • 10月14日公表のCIS調査ではPSOEがPPを11.8ポイント上回った。一方、エル・ムンドは調査機関トップの名を見出しに置き、数字の政治性を強調した。左右両紙の差は結果そのものより、誰が測った数字かという信頼の置き方に現れる。
  • 強制退去では57.1%が契約より弱い立場の保護を優先すると回答した。住宅を私有財産と見る軸と生活基盤と見る軸の衝突であり、日本の借地借家をめぐる議論にも通じる。

文化・芸能ニュース

  • マドリードのソローリャ美術館が大規模改修後に再開した。画家が暮らした邸宅に時間軸を導入し、光の作品だけでなく生活と制作の場を一緒に見せる。エル・ムンドは人員不足なら「フェラーリに600のエンジン」となるという運営面の警告も伝えた。
  • ホセ・アントニオ・ポルティージョが2026年児童・青少年舞台芸術国家賞を受けた。子どもを縮小した大人として扱わず、観客が触れ、考え、物語へ参加する舞台を作ってきた点が評価された。
  • マドリード最古の書店の閉店をめぐる記事は、文化施設が不動産価格と消費習慣の変化に押される現実を描く。日本の町の書店と同じく、在庫だけでなく店主の選書と会話が失われる問題である。

フラメンコニュース

  • パンプローナ市はフラメンコ・オン・ファイアと連携し、市庁舎バルコニーからエル・ペレが歌う企画、ギターと舞踊の児童向け講座、コンデスタブレ宮での公演を組んだ。劇場外へ歌を開く設計である。
  • ラ・ウニオンの第65回カンテ・デ・ラス・ミナス国際祭は各部門の決勝進出者を発表した。歌、ギター、舞踊を別々に競いながら、最後は伴奏と身体が同じコンパスを共有する総合芸術として評価される。
  • コルドバの第45回ギター祭は国立フラメンコ芸術コンクール70周年を祝う。都市が音楽祭、教育、コンクールを結ぶ構図は、アンダルシアの文化をマドリード発の「国の顔」だけにしない地域主導の発信である。

フラメンコギタリスト列伝

  • 今日の一人はリカルド・モレノ(表記はRycardo Moreno、本名リカルド・モレノ・モンティエル)。1981年、セビリア県レブリハのヒターノの家に生まれた。11歳で音楽を始めたとき、最初の仕事は祖母の歌い手「ペパ・ラ・カルトゥハ」の歌に声を添えることだった。家庭での師は叔父のトマスで、2024年のビエナルではアレグリアスをこの叔父に捧げている。曾祖母はキューバ系で、本人のプロフィールは自分の音楽を「レブリハのヒターノの遺産と、曾祖母のキューバの遺産」の両方を映すものと説明している。
  • 転機1(伴奏者・編曲者として): 2012年に踊り手フアン・デ・フアンの舞台で音楽監督とギターを務めるなど、伴奏者・編曲者として経験を積んだ。ドランテスのカルテット、ホルヘ・パルドのカルテット、エル・レブリハーノ、エスペランサ・フェルナンデス、ブイカ、アルカンヘルらと共演し、トマス・デ・ペラテの『Infundio』やライムンド・アマドールのツアーでは第2ギターを務めた。ローレ・モントーヤの盤ではアレハンドロ・サンスの「Metáforas」を編曲した。ニューヨーク滞在中はジンク・バーやル・ポワソン・ルージュで自分のカルテットを率いた。
  • 転機2(2014〜2017年): ヘラルド・ヌニェスが彼の構想を聞き、2014年に自身の第1回国際ギター祭へ招いた。これがヌバ・レコード/カロンテとの契約につながり、2015年に初の独奏盤『Varekai』、2017年にウルグアイの作家エドゥアルド・ガレアーノの『抱擁の書』を出発点にした『Agaleano』を出した。ヌニェスは「名付け親」として独奏の道を後押しした。
  • 転機3(2019〜2024年): 2019年8月にタラゴナのラ・カサ・ムラーダで3日間かけてライブ録音した『En vivo + Miesencia』、2020年ビエナルの独奏リサイタル『De barro』、2022年ビエナルの完全独奏『Diario Moreno』を経て、2024年に『Concierto nº 1 Guitarra Flamenca: La Perla』を発表した。フラメンコギターと交響楽団のための協奏曲で、4年をかけ、トマティート(ブレリア)、ミゲル・ポベダ(ティエント)、ヘラルド・ヌニェス(シギリージャ)、ノエリア・デ・ロス・リオス(アレグリアス)が参加した。
  • 代表作1: 『Suite Lebrija Jerez S.XXI』(ブレリア、『En vivo + Miesencia』公式映像)。レーベルのヌバ/カロンテが公開した映像で、歌はアグヘタス・チコ、ピアノとキーボードはトニ・ロメロ、ローズ(電気ピアノ)とシンセはダビ・サンチェス、第2ギターはビクトル・フランコ。レブリハとヘレスという二つのブレリアの町を題名に並べた曲なので、ピアノとローズが和音を厚くする場面で、ギターが12拍のブレリアの拍をどう手放さずにいるかを聴きたい。
  • 代表作2: 本人公式の『Babaji』(ロンデーニャ)。2020年ビエナルの『De barro』の告知用に撮られた約2分の独奏で、フェリペ・コンデ工房とレブリハ市の協力を得て撮影された。歌のないロンデーニャという、今日のパロ解説と同じ曲種なので、開放弦の低音が鳴り続ける上に旋律が乗る響きに注目したい。2022年の『Diario Moreno』でも「Babaji y Lunatic」としてロンデーニャの枠で演奏している。
  • 代表作3(最新の舞台): 『Flamenco Moreno』(第45回コルドバ・ギター祭、2026年7月6日)。テアトロ・ゴンゴラでの公演映像で、歌はノエリア・デ・ロス・リオスとベレン・デ・ロス・レイエス、踊りはナサレト・デ・ロス・レイエスとハビエル・セバージョス、打楽器はポティ・トルヒージョ。独奏盤の作曲家が、歌と踊りを支える伴奏者の顔に戻る瞬間を見られる。
  • 共演の現場: 2021年4月にはマドリードの国立音楽堂で、ヘレスのギタリスト、ディエゴ・デル・モラオとの二重奏を国立音楽普及センターの企画で演奏した。2023年6月9日にはロンダ国際ギター祭で、ロンダのサント・ドミンゴ修道院礼拝堂の独奏コンサートに立っている。2024年10月4日のビエナルでは、ニーニョ・ホセレとの二本立て『Encuentro』で、弦楽四重奏、打楽器のポティ・トルヒージョ、ピアノのホセ・エレディア、第2ギターのビクトル・フランコを率い、シギリージャで幕を開けた。終盤は二人のギターが合流し、アンコールはパコ・デ・ルシアの曲だった。
  • 技法の比較: 同じ時代のニーニョ・ホセレと並んだ2024年ビエナルの評では、二人とも「指板の支配の仕方、ピカードの入れ方、トレモロの楽しみ方」がそれぞれ個人的だと書かれた。モレノについては、既存の素材を分解して新しいニュアンスを加え、よく知られた形を意外なものにしながらフラメンコの根は保つこと、作曲にジャズへの好みが聞こえることが指摘された。師のヌニェスがフラメンコとジャズを独奏者として結んだのに対し、モレノはピアノ、弦楽四重奏、交響楽団といった編成そのものを作曲の対象にしている点が違う。
  • 本人の言葉: 2024年のインタビューでは「フラメンコギターは私の人生の恋人だ」と語った。協奏曲はラフマニノフの交響曲第3番を聴いて「指揮をしたくてたまらなくなった」ことから始まり、指揮は無理なので管弦楽を書くことにしたという。ビバルディの協奏曲の構成は守りたかったとも述べ、コロナ禍の外出制限の時間で自分の技術と右手のタッチ(プルサシオン)を鍛え直したと振り返っている。題名の「ラ・ペルラ(真珠)」は、録音でしか生まれない一度きりの瞬間を指す。
  • 位置づけと入り方: 現在はバルセロナのタジェール・デ・ムシクス高等音楽学校でジャズ・フラメンコの合奏を教えている。祖母の歌から入り、伴奏で鍛えられ、独奏と協奏曲へ進んだ道筋は、ギターがカンテの伴奏楽器から管弦楽と並ぶ独奏楽器へ広がった歴史を一人で縮めて見せる。最初は『Babaji』で独奏の響きを、次に『Suite Lebrija Jerez S.XXI』で歌とバンドの中のギターを、最後に2026年の『Flamenco Moreno』で踊りの伴奏を聴くと、三つの顔がつながる。

フラメンコバイレ列伝

  • 今日の一人はダビ・コリア。1983年セビリア生まれで、セビリア職業舞踊音楽院で学び、パコ・ファブラ、ホセ・グラネロ、アイーダ・ゴメス、エルビラ・アンドレス、ホセ・アントニオに師事した。1998年、15歳でホセ・アントニオのアンダルシア舞踊団の研修工房に選ばれ、2000年にはカルロス・サウラ監督の映画『サロメ』に出演した。
  • 転機1(2001年): 17歳でスペイン国立バレエ団に入り、ホセ・グラネロの『メデア』、アントニオ・ガデスの『フエンテオベフーナ』、ピラール・ロペスの『アランフエス協奏曲』などのレパートリーを踊り、いくつかの作品ではソリストを務めた。
  • 転機2(2008〜2016年): エステベス&パニョス、ルベン・オルモ、ロシオ・モリーナ、エバ・ジェルバブエナのカンパニーで踊り、ラファエラ・カラスコのカンパニーでは振付家兼ダンサーとなった。同カンパニーの『Vamos al rodeo』は2008年ビエナルで最優秀振付賞を受けた。2010年にドイツの舞踊誌『タンツ』の年間最優秀ダンサーに選ばれ、2013〜2016年はアンダルシア・フラメンコ・バレエ団の第一舞踊手、リハーサル指導者、振付家を務めた。2016年にアンダルシア舞台芸術アカデミー賞(ロルカ賞)の最優秀男性舞踊手を受けている。
  • 転機3(自分のカンパニー): 2014年『Espiral』、2017年『El encuentro』、2019年『Anónimo』(ヘレス・フェスティバル観客賞)、2020年『¡Fandango!』と作品を重ねた。『¡Fandango!』は2020年1月にパリのシャイヨー国立舞踊劇場で初演され、ヘレスの批評家賞とセビリア・ビエナルのジラルディージョ最優秀作品賞を受けた。
  • 代表作1: 『¡Fandango!』(ダビ・ラゴスとの共同作品、紹介映像)。歌い手ダビ・ラゴスの公式チャンネルが公開した映像で、音楽はラゴスのアルバム『Hodierno』から。歌のラゴス、ギターのアルフレド・ラゴス、サックスのフアン・M・ヒメネス、電子音のアルトマティコという編成に、コリアが振り付けている。ファンダンゴを祝祭、土地の民謡、社会への抗議、前衛の舞台という四つの顔で描く作品なので、電子音とサックスの上でも足技がファンダンゴの拍をどう保つかに注目したい。舞台版はフロレンシア・オス、パウラ・コミトレ、マイセ・マルケス、ラファエル・ラミレスを加えた5人の踊り手と4人の音楽家で構成される。
  • 代表作2: 『El encuentro』(ヘレス・フェスティバル2017、カナル・スール)。アンダルシアの公共放送の取材映像。批評誌デフラメンコの評によれば、録音のパソドブレに合わせて全員が現代的な動きを見せ、レコードが止まると音楽家が現れる幕開けから、男女の会話、友人どうしの雑談、男どうしの対決といった場面を連ねる「友人たちの十の短い物語」である。コリアのファルーカでは膝から床へ落ちる動きが見せ場とされ、伴奏したギターのヘスス・トーレスは作品の音楽も作曲した。
  • 代表作3(いまの作品): 『Babel. Torre viva』(フェスティバル・アルテ・フラメンコ公式)。2026年3月2日のヘレス・フェスティバルでの試演の映像で、6月11〜12日にモンペリエ・ダンスの枠でフランスのセートで世界初演、7月2日にモン・ド・マルサン、9月29日にセビリア・ビエナル(ロペ・デ・ベガ劇場)、11月21日にマドリード秋の芸術祭(モストレス)へ巡回する。バベルの塔を手がかりに、文化の多様さと対話の可能性を問う作品で、スイス・ツークの劇場の配役表には、日本人ダンサーのコトハ・セトグチの名もある(配役は上演地で変わる)。
  • 技法と構成の比較: 国立バレエ団出身の踊り手が群舞の秩序をそのまま持ち込むのに対し、コリアの近作は群舞を「全員が主役の合唱」として組む。2023年の『Los bailes robados』は、1518年にストラスブールで記録された「踊りの疫病」を出発点に、8人の踊り手で抵抗と解放を描いた。2022年にはジャン・ガロワやヒップホップのバーン・アウトとの『Imperfecto』も作っており、フラメンコの足技を他の舞踊の語法と並べて見せることをためらわない。
  • 位置づけと入り方: 2020年のビエナル報道資料は、コリアを「伝統を踏み越え、フラメンコを自由で限りのない芸術世界へ運ぶ新世代の舞踊家」の一人と紹介した。師匠筋のホセ・アントニオやラファエラ・カラスコが築いた「振付家としてのフラメンコ舞踊家」の流れを継ぎ、自作をフランスの国立劇場とスペインのフェスティバルの共同制作で回す世代の代表である。まず『El encuentro』で一人の踊り手としてのファルーカを、次に『¡Fandango!』で群舞と現代音楽の組み合わせを、最後に『Babel. Torre viva』で多国籍の身体による最新の問いを見ると、15年の変化がたどれる。

フラメンコカンテ列伝

  • 今日の一人はカロリーナ・フェルナンデス「ラ・チスパ」。エストレマドゥーラ州メリダ生まれの歌い手で(エストレマドゥーラはポリーナ・デ・バダホスらを生んだ土地)、セビリアのクリスティーナ・ヘーレン財団フラメンコ芸術学校で学んだ。地元の公共放送カナル・エストレマドゥーラは彼女を「メリダの歌い手」として繰り返し紹介している。
  • 転機1(地元での出発): 2015年にはエストレマドゥーラのテレビ番組『ハレオ・エストレメーニョ』に、ギターのディエゴ・デ・パウラと出演している。番組名のハレオ・エストレメーニョは、この地方を代表する祝祭的なカンテの名でもある。
  • 転機2(2019年、ラス・ミガス): 2019年5月、バルセロナの女性フラメンコ・グループ、ラス・ミガスのリード・ボーカルになった。ラス・ミガスは2004年にシルビア・ペレス・クルスらが結成し、歌い手はアルバ・カルモナ、ベゴーニャ・サラサールと代わってきた。ラ・チスパは2020年に代表曲「Tangos de la Repompa」を新しく録り直し、2022年の『Libres』、2024年の『Rumberas』、2025年の『Flamencas』で歌った。
  • 転機3(ラテン・グラミー): 『Libres』は2022年11月にラテン・グラミー賞の最優秀フラメンコ・アルバムを受け、エストレージャ・モレンテ、マリア・ペラエ、トマティートが客演した。『Rumberas』はロサリオ、ローラ・フローレス、セリア・クルスへの敬意を込めたルンバ集、『Flamencas』は2025年11月に再び同じ賞を受けた。彼女は2025年7月にグループを離れ、後任はセビリア出身のパウラ・ラミレスになった。
  • 代表作1: 『Tangos de la Repompa』(ラス・ミガス、2020年版公式ビデオ)。2010年の『Reinas del matute』と2019年の『Cuatro』にも入った曲を、新ボーカルのラ・チスパで録り直した版である。マラガの歌い手ラ・レポンパにちなむタンゴで、「神様、この男に耐える忍耐をください」と嘆きながらも、歌の運びはタンゴの4拍の上で明るく進む。歌詞の嘆きと拍の明るさが同居する点を聴きたい。2010年のシルビア・ペレス・クルス版と聴き比べると、同じ曲でも歌い手が変わるとグループの重心が動くことが分かる。
  • 代表作2: 『El querer de una morena』(ラス・ミガス公式ビデオ)。『Libres』の第3弾シングルで、バンドは「ガロティンのカントリー」と説明している。ガロティンはアストゥリアス起源とされる軽快な4拍子のパロで、映像は「南部の西部劇」仕立て、ウエルバの踊り手エル・チョロが出演する。フラメンコの軽い曲種をカントリーの身ぶりへ寄せても、歌がガロティンの跳ねを崩さない点に注目したい。
  • 代表作3(ソロの現在): 『Diciembre』(カナル・エストレマドゥーラ『ノチェブエナ・フラメンカ』2024)。ギターはホアキン・ムニーニョとペリコ・デ・ラ・パウラの2本、打楽器はルイス・デ・ヘレス、コーラス付きの編成である。グループのポップな音作りを離れ、ギター2本とコーラスの伝統的な編成で歌うソロの声を確かめられる。2026年3月公開のアレグリアス・デ・カディスの映像では、1分30秒ごろから本格的なアレグリアスの歌に入り、3分45秒ごろが山場と案内されている。
  • 声と比較: 公演資料は彼女の声を「情熱的なヒターナの声」、2026年の映像は「現代フラメンコで最も個性的で力強い声の一つ」と紹介している。ラス・ミガスの歴代の歌い手と比べると、シルビア・ペレス・クルスが自分の企画のために、アルバ・カルモナがソロ活動のためにグループを離れたのに対し、ラ・チスパは歌と同時に踊りも見せる舞台人として紹介される点が違う。2021年には自身のチャンネルで、ペリコ・デ・ラ・パウラのギターに乗せて「歌と踊り」のマルティネーテ映像も公開している。
  • 史的位置: アンダルシアの外で生まれ、セビリアの学校で学び、バルセロナのグループの声として国際的な賞に届いた経歴は、フラメンコの担い手が地方とジャンルの境を越えて広がった現在をよく示す。
  • いまと入り方: 2026年6月に公開された映像では、メリダの国際ジャズ祭で、ピアノのチコ・ペレスとフルート・サックスのセルヒオ・デ・ロペによる『Ibérica』に、メリダ市ビッグバンドと共に客演している。会場はローマ時代のディアナ神殿である。8月にはエストレマドゥーラのハランディージャ・デ・ラ・ベラで催された「エスティバリア2026」にも出演している。入り方は、まず『Tangos de la Repompa』でグループの声としての彼女を、次に『El querer de una morena』で軽い曲種の扱いを、最後に『Diciembre』でギター2本の前に立つ独唱を聴くのがよい。

フラメンコギター工房だより

  • 全履歴を照合し、未紹介のスペイン国内工房として、カタルーニャ州ジローナのギターラス・カンプス(Guitarras Camps)を取り上げる。公式サイトの会社紹介によれば、1945年に創業者フアン・カンプスが音楽と木工への情熱から始め、現在は息子のジョルディとハビエル・カンプスが経営する。製品はすべてジローナの工房で作られる。
  • 製法は、アントニオ・デ・トーレスら歴代のスペインの製作家が使ってきた伝統的な方法を基本にし、木材は手で選び、手で挽く。一方で、木材の乾燥と処理、湿度管理、精密な寸法合わせ、数値制御の加工には近代的な設備を使い、全工程で品質管理を行う。仕上げはニス塗装である。
  • フラメンコ用の『FL-11-C』は、単板スプルースの表板、単板シープレスの側板・裏板、シダーのネック、エボニーの指板、ゴルペ板付き、弦長650mm、ナット幅52mm。公式説明は、弦高を「制御されたビリつき」が出るよう調整し、軽さと速い反応、明るく通る音を狙うとしている。クラシック用が雑音を消す方向へ調整するのに対し、フラメンコ用は打弦の雑味をある程度残して、パルマや足音の中で輪郭を立たせる。

フラメンコのパロ解説

  • 今日のパロはロンデーニャ。マラガ地方のファンダンゴの一群に属し、マラゲーニャ、ハベーラ、ハベゴーテ、ベルディアーレスと並んで「マラガのカンテ」に分類されることが多い。根は土地のファンダンゴ、特にアバンドラオとベルディアーレスにあり、19世紀にフラメンコへ取り込まれたとされる。名前の由来は、マラガ県の町ロンダやロンダ山地とする説が一般的だが、恋人の家の前で歌う夜のセレナーデ「ロンダール(rondar)」に結びつける説もあり、決着していない。
  • 歌と器楽の二つの顔: 歌のロンデーニャと別に、ギター独奏の「ロンデーニャ」がある。ミゲル・ボルルが先駆けを作り、ラモン・モントーヤが1928年の録音で演奏会用の独奏曲として形を固め、1936年にパリで再録音した。独奏のロンデーニャはその後、サビーカス、マリオ・エスクデロ、マノロ・サンルーカル、パコ・デ・ルシア、セラニート、ヘラルド・ヌニェス、エンリケ・デ・メルチョールらが受け継いだ。
  • コンパスの数え方: 歌のロンデーニャは自由リズム(シン・コンパス)で歌われることが多く、パルマは基本的に入らない。一方、アバンドラオに近い古い形やギターの間奏では、ファンダンゴ系の3拍子の揺れとして「1、2、3、1、2、3」と数えると流れがつかみやすい。踊りの場合は、拍を刻むより、マルカヘ(足で拍を示す歩み)、ブラソ、回転、劇的なフレーズで雰囲気を作ることが多く、タラントの構成を借りて骨格を与える振付家もいる。
  • 調弦と和声: 独奏の代表的な変則調弦は、6弦をEからDへ、3弦をGからF♯へ下げる「D・A・D・F♯・B・E」である。C♯を主音とするフリジア的な響きで説明されることが多く、半音上のDからC♯へ降りる動きが、通常のフラメンコのF→Eに当たるフリジア終止になる。低いDの開放弦を持続音として鳴らし続け、その上でトレモロ、ラスゲアード、長さの違うファルセータを重ねるのが独奏の基本の作りである。
  • レトラの形式: 詩は8音節の4行連が基本で、歌うときは2行目などを繰り返して5行にすることが多い。主題は田園、山、恋、郷愁、土地への誇り、そして「ロンデーニャを歌うこと」そのものである。歌い手ではフォスフォリート、ラファエル・ロメロ、ホセ・メネセ、アントニオ・デ・カニージャス、エンリケ・オロスコらが録音を残している。
  • カンテの聴きどころ: 歌のロンデーニャでは、5行に広げた1連を一息ずつ区切って歌い、ギターは行の終わりで短い句を挟んで次の行を待つことが多い。拍に追われない分、どの音節を長く伸ばすか、どこで息を継ぐかに歌い手の解釈がはっきり出る。古い記述より現代の歌い方の方が、ゆっくりで節回し(メリスマ)が少ない傾向があるとされる。
  • ギターの聴きどころ: 独奏では、低いDの持続音を鳴らしたまま上の弦で旋律を歌わせる部分、トレモロで旋律をつなぐ部分、ラスゲアードで和音を大きく鳴らす部分が交互に現れる。ファルセータの長さが一定でないので、拍を数えるより、歌の1行に相当する息の長さで区切られていると考えると聴きやすい。
  • 代表録音1: 『Rondeña』(ラモン・モントーヤ、『Maestro de la Guitarra Flamenca』)。レーベル配信の公式音源。変則調弦の低いDが鳴り続ける上で旋律が動く、独奏ロンデーニャの原型の響きを聴きたい。
  • 代表録音2: 『Donde duerme la luna(Rondeña)』(ヘラルド・ヌニェス)。1989年発売の音源で、モントーヤの型を受けた次の世代が、題名を持つ作曲作品としてロンデーニャを書いた例である。モントーヤの録音と比べて、和音の選び方やトレモロの使い方がどう変わったかを聴き比べたい。
  • 代表録音3: 今日のギタリスト列伝で紹介したリカルド・モレノの『Babaji』は、ヌニェスに見いだされた奏者による2020年のロンデーニャで、モントーヤ、ヌニェス、モレノと三世代を並べると、同じ調弦の上で和声の選び方が少しずつ広がる様子が分かる。
  • 似たパロとの聴き分け: マラゲーニャも自由リズムのマラガ系カンテだが、ロンデーニャはギター独奏曲としての顔を強く持つ。タランタも鉱山地方の自由リズムのカンテで、ギターは通常の調弦のまま、F♯を主音にした「タランタの弾き方」で開放弦の不協和音を響かせる。変則調弦の低いDの持続音が聞こえたらロンデーニャ、通常調弦でF♯の重い響きが続けばタランタ、と聴き分けるのが目安になる。

まとめ

  • 2026年10月15日のスペインは、邸宅美術館、児童演劇、地域祭、現役の奏者・踊り手・歌い手、ジローナの工房が、伝統を保存物でなく使い続ける技術として示した。
  • 別れは「アスタ・プロント(Hasta pronto)」。「また近いうちに」という再会への温かい言葉である。

参考ソース

  • El País / El Mundo Cultura(2026年10月14日)
  • 列伝: elDiario.es(2024年7月27日、リカルド・モレノ取材)、ExpoFlamenco(2024年ビエナル評)、Taller de Músics教員紹介、Flamenco Festival公演資料、セビリア・ビエナル2020/2022/2024資料(ダビ・コリア経歴、『¡Fandango!』報道資料)、Deflamenco(『El encuentro』評)、ウィーン国立歌劇場プロフィール、Las Migas関連資料、Canal Extremadura
  • パロ: Rondeña各種解説、ムルシア大学『Revista de Investigación sobre Flamenco La Madrugá』のタランタ論文
  • パンプローナ市、カンテ・デ・ラス・ミナス国際祭、コルドバ劇場の公式発表

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音声合成: VOICEVOX / キャラクター: ずんだもん ・ 四国めたん